Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
上 下
214 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

Side-レイラ: 最期の、言葉

しおりを挟む

「だから———負けられないのよ!
 例え虚無だろうと空虚だろうと、もう私には戦う以外残されてないの!

 だから———お前を殺す…………っ!」

 大きく後退しながらも、その先の刃の折れた鎌の振りを、何とか大剣でこなしてみせる。

「私にとっては、お前だって復讐の対象だった……!」
「勝手に調子こいた罪を償えってことっすか、あっしはそう言うつもり一切なかったんすけ———」

「そっちにはなくてもこっちにはあるのよ!

 ……ああ、2人目として学校にやってきたはぁ……」

 2人目———って、あっしがしくじったから学校に来た、あっしと同じ顔をした別人……ってことっすか……!

「アイツじゃダメなの、アイツじゃあ……到底お前にはなれなかった!

 私が友達になりたかったのは、今のお前で、私が妬ましく思っていたのは、今のお前で、私にとっての本物は———今のお前だった!

 ……だから殺すの、この手で、許せなくて———愛おしいから!」




 ———そうだ。

 あっしだって、コイツなんぞと友達だった時はあった。
 最後はうやむやに終わってしまったけれど、それでもあっしは、その日々を無駄だとは思ってない。

 あの日々が、あっしを狂わせた原因で。
 あの日々が、あっしを形作ったのだから。


 だから———あっしはきっと、お前に感謝してもしきれない。

 ……だからこの手で殺したくはないし。
 愛おしいからこそ、あっしは———救ってあげたかった。


「……終わらせよう」
「なっ?!」

 もはや大鎌ではなく、ただの鉄棒としか言えぬその棒を、振り下ろされるがままに受け入れ。あまりにも軽やかに、あっしの足は跳び上がり。



 そして、ほんの一瞬にして。

「———ぁ……」

 そう、ほんの一瞬にして、勝負は決着した。
 ソウルレス———その頭の中にある、コアを砕いたのみ。


 ……ただ、それだけでも……彼女の身体は耐えられない。

「ぁあ、あ……ぁ……ぁぁああああああっ……!!」

 こんな結末、望んでいなかった。望むことなんて、絶対に嫌で———実現なんて、絶対にさせたくなかった。

 そんなの、あまりにもかわいそうで。どこまでも、救いがなくって。

 あっしだって……避けられるのなら、絶対に避けたかった結末。


 こんな末路は———あまりにも。


「……コレ、しか……なかったんすかね。

 こうしなきゃいけない……理由が、どこに———!」

 指の方から、緩やかに。
 秒針が時を刻むように、確実に朽ちていく彼女の身体を、見つめながら。

「いや……いや……死ぬのは、まだ……まだ……!」

「…………ぅ……」

 謝ろうか、とも思った。……でもきっと、謝ったって謝りきれない。
 救うことが、できなかった。ここで終わらせるしかなかった。

 ……何より、あっしは……そこに倒れているカーオを、みすみす殺させるわけにはいかなかったから。

 ———だから、余計に……申し訳ない。

「まだ……褒めて……もらって、ない…………のに……!」

「———」

 
「いや……こわい……こわい、よぉ……!」

「もっと、もっと前から……ずっと前から、こうなる事は決まってたんすかね。

 ……神なんて……いないんだ」


 ソレが、彼女にとってどれだけの恐怖を与えているのか。

 それは計り知れないものであると同時に、あっしには絶対に分からないものだ。……意識のあるまま、自分の身体のみがボロボロと崩れていくのだから。


「こわい……さむいよ、助けて……助けて……っ!」
「もう……もう、いいっすよ。
 目を閉じて、休んで……安らかに」

 先程まで震えていた彼女の身体だったが、あっしがその手を触れた瞬間、震えは一瞬のうちに止まってしまった。

「今だけは———あっしが、そばにいてやりますから」

「……ぅ……はっ……ぅう……ぅぅぅ…………っ!」

 ただ、彼女は涙を流していた。
 刻一刻と迫り、これから訪れる死に対する怯えだろうか、恐怖だろうか。
 それとも、あっしがそばにいることの———暖かさにだろうか。

 ……分からないけれど、今だけは……コイツのそばにいてあげること、それだけで。


「———ぁ……あそ……んで、よ……もっと、もっと……いい子って、言って……おね……がい……」

「いい子……だと、思うっすよ。……こんなに、一途なんだから、そりゃあ」


「———え……へへ、あり……がと、パパ……」

 

 最後に残ったその頭を、必死に腕の中で抱えながら。
 ラースだったものは、そこで———跡形も、無くなった。
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
ファンタジー
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...