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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
Side-レイラ: 再会
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「……これで、終わり……っすか。
ほらカーオ、起きるっすよ。もう朝っすよ、朝!」
その身体を揺らすが、あまり反応がない。
……ただ、カーオがあの程度の一撃で死んだとは思い難いし、何よりまだ脈もある。
「置いていく……しか、ないんすかね……」
「———俺に預けておくか?」
背より聞こえた、その男の声。
もう二度と、聞くはずのない男の声だった。
……ここにいるはずじゃあ、ないのに。
「…………ディル……おま、なんで……ここ、に……」
そうだ。コイツは、戦わないと口にしたはずだ。
隊長が継いだ未来をもドブに捨ててまで、戦わないと。
「———もう、きっと……ダメだと思うんだ。
怖いさ、怖い、怖い、怖いよ……戦うのは———怖い。
死にたくないし、まだ生きていたいし……やりたいことだって、いっぱいある。
……でも、もう俺は———自分に言い訳をつけて、悲劇のヒロインぶるのは……嫌なんだ。
白が———ツバサのヤツが、言ってたんだよ。『男には、やらなきゃいけない時がある』……って。
きっと今が、その時で。そうじゃなければ、俺はきっと……お前や、カーオや、隊長に……顔向けできなくて、いつまでも惨めで恥ずかしいばかりだからさ。
……だからもう、逃げることはしない。俺は、前に進んでみせるんだ。その為にここにいる。
何も成せないままの惨めな自分に、終止符を打つ為に」
……そうか、ツバサともう一度会って———色々あったんだ。
進むことが、できるんだ。……ディルにだって。
「じゃあ尚更、ここにいていいんすか?」
「ああ、カーオは……俺が預かっとく。
伝言とか……あるか?」
「伝言———もちろん、ある。
『行かなければならない場所ができたから、早めにオリュンポスを降りて待ってて』って、伝えとってくれっす」
「分かった。……なんかお前、顔立ち変わったな。オトナの女って感じだ」
「あっしだって、覚悟……決めましたし。そっちだって、前のガキっぽさが消えてるっすよ」
「ガキって何だよガキって」
「……まあ———行くっていうなら、お願いだから……死なずに、生きて帰って来てくれっす。
ツバサとニトイのヤツも帰って来れたら……また、3番隊で集まりたいっすから。
あ、ニトイちゃんのむにむにパーティとか良さそうじゃないっすか? ねえ、ねえ!」
「……ああ。全てを終わらせて、もう一度———集まってみせる」
「頑張ってくるんすよ。あっしは応援してますから。……殻を破って、進むことを選んだ———今のディルを」
「———任せとけ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、その行きたい場所とは。
「何だ、まだ残ってるじゃないっすか」
崩れかかった街———だが、この場所は中心部などに比べ、その被害が少なかった場所。
……あの人のことだから、こんな時でも避難してはいないんだろうなと信じて、私は会いに来た。
昔の両親じゃない。彼らと会っても何も変わらない。ただ無駄な時間を浪費するのみ。……だったら、この人に会って———ラースのことで、色々聞きただすまでだ。
……だからこの時は、今のあっしじゃなく、昔の私で。
そう、ここは———ラースの家だった。一度連れて来られたから、その場所は今でも覚えている。
「おじゃまします」
その家の中は、特に目立った外傷もなく。
内装もあの時と全くと言っていいほど変わらず、未だに放置されているかのようなものだった。
……だが、その奥。カーテンの裏に、ソレは未だいた。
いつものように返答などせず。死んでいるのではないかと思っていたが、微かに動いているのが分かる。
「見ちゃいけないのは分かっています。……でも、すいません」
そのカーテンの奥。微かに動く人影のような何かを直視する為に、私はカーテンを引き破った。すると。
『…………聞いたことのある声だと思ったら…………
そうか、あの時の……ラースの、お友達……か』
そこにいた人影は、もはや人ではなかった。
肥大化した身体。灰色に溶け出した手足、頭。
つまり———ロストだったんだ。
「……ラースの、父親……で、合ってますか」
『合っている……よ。……声を出したのは……2年ぶりだ、話し方に……慣れていないが、すまんな』
「ずっと、貴方は———この姿だったんですか。
だから貴方は、あの子に———ラースに、姿を見せるようなことはしなかった、と」
『……よく分かったね。……そうだよ、もう私は、死ぬことも生きることもできない。……だからせめて、残した娘だけは……幸せにして、やりたかった』
「っ———!」
その言葉に、私の拳は反応する。
「幸せにしてやりたかった……って言うなら、もっとあの子を愛してあげるべきだった!
貴方は間違えたんですよ、何もかも……あの子は苦しんでいた、貴方に愛されなかったことが!
貴方に愛されず、褒められず、認められなかったことが、ずっとあの子な絡み付いていた!……だから、だから…………ラースは……!」
そう、だから。だからどこかで壊れてしまって、いつの間にか———救いようのないことになってしまっていた、と。
『……あの子を、知っているのか』
「知っているも、何も———私が、殺したんですよ。
ゴルゴダ機関に入って、そして……私たちの、敵になって———だからっ!」
『だから———あれほど、言ったのに。
ゴルゴダ機関なぞ……神の統治下に入るのは、やめておけと、何度も……』
「はっ———」
ああ、そう言うことかと。今更ながら、合点がいった。
『いつもいつも『やめておけ』って、私を否定するように言ってぇっ!』
あの言葉は———そう言うことだったのか。
『私も、元はゴルゴダ機関だった。……当時は熱心に働き、ロスト退治———人外討伐に精を出したものだ。
……しかし、優秀な芽は、次の段階に移行させられる。……意思に関わらず、強制的に、だ。
つまり私は、優秀だったが故に———ヤツらの実験に巻き込まれた。
ヤツらの———人間をソウルレスに進化させる実験に。
結果、私は失敗した。……このような、人でもロストでもない……自我のある『なり損ない』になった。
……だからこそ、あの子には……こんな想いをしてほしくなかった……人として生きようとしても生きられず、死ぬことすらできない……こんな想いはな……』
———どうして、どうして……なんだろう。どうしてここまで、彼らはすれ違ってしまったのか。
聞き出すべきではなかったのかもしれない。とても辛い思い出だったのかもしれない。……でも、かつて友達だった者の真相が聞けた、それだけで……よかった。
……なんだ。ちゃんと、愛されてたんじゃん、ラースも。
だからこそ、もっと他のやり方だって———あったかも、しれないのに。
『もう……私を殺してくれ。
あの子がいないのなら……私がいる理由もない。
元より、生きてすらいない者だ。……頼む、私を殺してくれ。ゴルゴダ機関の者なら———できるだろう?』
「……その、魂に。
安らかな平穏が———あらんことを」
家の中という狭い場所でありながら、私は大剣を振り上げ、そして———その脳天の核、ロストのコアを———打ち砕いた。
『…………あり、がとう……これで、ようやく………………楽に、なれ、る……よ…………』
「報われない———結末、っすね」
ふと、足元に落ちて来た紙の一つを覗き見る。……勝手に目が向かってしまったのだ、その内容があまりにも、あっしの知りたいことだったから。
『オリュンポス人類と現生人類の相似性について』
『太陽暦████年~太陽暦████年における、オリュンポスと西大陸████村の人間の相似性』
『人界軍王都に保存されていたデータと、この時期オリュンポスに現れた人類のデータは、その遺伝子情報まで完全に一致している例が続出』
『このことから、オリュンポス人類は、現生人類のクローンである可能性が示唆され———』
「なーんだ。……偽者、本者って、あたかも自分は違うように。
……結局全員、偽者なんじゃないっすか。
あっしも、アイツも」
ほらカーオ、起きるっすよ。もう朝っすよ、朝!」
その身体を揺らすが、あまり反応がない。
……ただ、カーオがあの程度の一撃で死んだとは思い難いし、何よりまだ脈もある。
「置いていく……しか、ないんすかね……」
「———俺に預けておくか?」
背より聞こえた、その男の声。
もう二度と、聞くはずのない男の声だった。
……ここにいるはずじゃあ、ないのに。
「…………ディル……おま、なんで……ここ、に……」
そうだ。コイツは、戦わないと口にしたはずだ。
隊長が継いだ未来をもドブに捨ててまで、戦わないと。
「———もう、きっと……ダメだと思うんだ。
怖いさ、怖い、怖い、怖いよ……戦うのは———怖い。
死にたくないし、まだ生きていたいし……やりたいことだって、いっぱいある。
……でも、もう俺は———自分に言い訳をつけて、悲劇のヒロインぶるのは……嫌なんだ。
白が———ツバサのヤツが、言ってたんだよ。『男には、やらなきゃいけない時がある』……って。
きっと今が、その時で。そうじゃなければ、俺はきっと……お前や、カーオや、隊長に……顔向けできなくて、いつまでも惨めで恥ずかしいばかりだからさ。
……だからもう、逃げることはしない。俺は、前に進んでみせるんだ。その為にここにいる。
何も成せないままの惨めな自分に、終止符を打つ為に」
……そうか、ツバサともう一度会って———色々あったんだ。
進むことが、できるんだ。……ディルにだって。
「じゃあ尚更、ここにいていいんすか?」
「ああ、カーオは……俺が預かっとく。
伝言とか……あるか?」
「伝言———もちろん、ある。
『行かなければならない場所ができたから、早めにオリュンポスを降りて待ってて』って、伝えとってくれっす」
「分かった。……なんかお前、顔立ち変わったな。オトナの女って感じだ」
「あっしだって、覚悟……決めましたし。そっちだって、前のガキっぽさが消えてるっすよ」
「ガキって何だよガキって」
「……まあ———行くっていうなら、お願いだから……死なずに、生きて帰って来てくれっす。
ツバサとニトイのヤツも帰って来れたら……また、3番隊で集まりたいっすから。
あ、ニトイちゃんのむにむにパーティとか良さそうじゃないっすか? ねえ、ねえ!」
「……ああ。全てを終わらせて、もう一度———集まってみせる」
「頑張ってくるんすよ。あっしは応援してますから。……殻を破って、進むことを選んだ———今のディルを」
「———任せとけ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、その行きたい場所とは。
「何だ、まだ残ってるじゃないっすか」
崩れかかった街———だが、この場所は中心部などに比べ、その被害が少なかった場所。
……あの人のことだから、こんな時でも避難してはいないんだろうなと信じて、私は会いに来た。
昔の両親じゃない。彼らと会っても何も変わらない。ただ無駄な時間を浪費するのみ。……だったら、この人に会って———ラースのことで、色々聞きただすまでだ。
……だからこの時は、今のあっしじゃなく、昔の私で。
そう、ここは———ラースの家だった。一度連れて来られたから、その場所は今でも覚えている。
「おじゃまします」
その家の中は、特に目立った外傷もなく。
内装もあの時と全くと言っていいほど変わらず、未だに放置されているかのようなものだった。
……だが、その奥。カーテンの裏に、ソレは未だいた。
いつものように返答などせず。死んでいるのではないかと思っていたが、微かに動いているのが分かる。
「見ちゃいけないのは分かっています。……でも、すいません」
そのカーテンの奥。微かに動く人影のような何かを直視する為に、私はカーテンを引き破った。すると。
『…………聞いたことのある声だと思ったら…………
そうか、あの時の……ラースの、お友達……か』
そこにいた人影は、もはや人ではなかった。
肥大化した身体。灰色に溶け出した手足、頭。
つまり———ロストだったんだ。
「……ラースの、父親……で、合ってますか」
『合っている……よ。……声を出したのは……2年ぶりだ、話し方に……慣れていないが、すまんな』
「ずっと、貴方は———この姿だったんですか。
だから貴方は、あの子に———ラースに、姿を見せるようなことはしなかった、と」
『……よく分かったね。……そうだよ、もう私は、死ぬことも生きることもできない。……だからせめて、残した娘だけは……幸せにして、やりたかった』
「っ———!」
その言葉に、私の拳は反応する。
「幸せにしてやりたかった……って言うなら、もっとあの子を愛してあげるべきだった!
貴方は間違えたんですよ、何もかも……あの子は苦しんでいた、貴方に愛されなかったことが!
貴方に愛されず、褒められず、認められなかったことが、ずっとあの子な絡み付いていた!……だから、だから…………ラースは……!」
そう、だから。だからどこかで壊れてしまって、いつの間にか———救いようのないことになってしまっていた、と。
『……あの子を、知っているのか』
「知っているも、何も———私が、殺したんですよ。
ゴルゴダ機関に入って、そして……私たちの、敵になって———だからっ!」
『だから———あれほど、言ったのに。
ゴルゴダ機関なぞ……神の統治下に入るのは、やめておけと、何度も……』
「はっ———」
ああ、そう言うことかと。今更ながら、合点がいった。
『いつもいつも『やめておけ』って、私を否定するように言ってぇっ!』
あの言葉は———そう言うことだったのか。
『私も、元はゴルゴダ機関だった。……当時は熱心に働き、ロスト退治———人外討伐に精を出したものだ。
……しかし、優秀な芽は、次の段階に移行させられる。……意思に関わらず、強制的に、だ。
つまり私は、優秀だったが故に———ヤツらの実験に巻き込まれた。
ヤツらの———人間をソウルレスに進化させる実験に。
結果、私は失敗した。……このような、人でもロストでもない……自我のある『なり損ない』になった。
……だからこそ、あの子には……こんな想いをしてほしくなかった……人として生きようとしても生きられず、死ぬことすらできない……こんな想いはな……』
———どうして、どうして……なんだろう。どうしてここまで、彼らはすれ違ってしまったのか。
聞き出すべきではなかったのかもしれない。とても辛い思い出だったのかもしれない。……でも、かつて友達だった者の真相が聞けた、それだけで……よかった。
……なんだ。ちゃんと、愛されてたんじゃん、ラースも。
だからこそ、もっと他のやり方だって———あったかも、しれないのに。
『もう……私を殺してくれ。
あの子がいないのなら……私がいる理由もない。
元より、生きてすらいない者だ。……頼む、私を殺してくれ。ゴルゴダ機関の者なら———できるだろう?』
「……その、魂に。
安らかな平穏が———あらんことを」
家の中という狭い場所でありながら、私は大剣を振り上げ、そして———その脳天の核、ロストのコアを———打ち砕いた。
『…………あり、がとう……これで、ようやく………………楽に、なれ、る……よ…………』
「報われない———結末、っすね」
ふと、足元に落ちて来た紙の一つを覗き見る。……勝手に目が向かってしまったのだ、その内容があまりにも、あっしの知りたいことだったから。
『オリュンポス人類と現生人類の相似性について』
『太陽暦████年~太陽暦████年における、オリュンポスと西大陸████村の人間の相似性』
『人界軍王都に保存されていたデータと、この時期オリュンポスに現れた人類のデータは、その遺伝子情報まで完全に一致している例が続出』
『このことから、オリュンポス人類は、現生人類のクローンである可能性が示唆され———』
「なーんだ。……偽者、本者って、あたかも自分は違うように。
……結局全員、偽者なんじゃないっすか。
あっしも、アイツも」
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