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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
ユメ( Ⅱ )
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◆◇◆◇◆◇◆◇
「兄さん、兄さん、あそぼうよ」
例の部屋———そこに入れられる前から、俺は兄さんにずっと構ってもらいたくて、いつもつっかかっていた。今となっては懐かしい記憶だ。
『……どけ、俺は今休んでいるんだ、貴様と遊ぶ暇などないに等しいんだ』
「でも、でも……」
『あの部屋から出てきたからと言って、貴様に馴れ馴れしくするわけじゃないからな』
……ずっと、この繰り返しだった。
剣術の打ち合いで、俺が兄さんを負かした日も、同じだった。
ずっとずっと、あそぼうと口にして———ずっとずっと拒絶されて、そして———。
『結局、本当に死んでしまったのか、兄さん』
◆◇◆◇◆◇◆◇
次に見た景色、それは。
「国……が、燃えてる……?」
俺ですら見たことのなかった、火で染まりつつあるヘファイストス神殿国の姿だった。
「これは……一体何が…………っっっ!!!!」
次の瞬間、意識が奥の方へと引っ張られる。まるでそこから拒絶されているかのように———現実の世界に引っ張られているかのように、意識は元へと戻っていった。
その情景を、噛み締めながら。
今のは何だったのだろうと、疑問に思いながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇
唐突に見開く目。
倒れ込んだ体を起こし、目に飛び込んできた景色は———今、一番見たくないものだった。
目の前にて炎上する……ロボット。
その奥に佇む、刀を持った人影。
倒れ込んだ何者か、刀を持った者に首を捕まれる女。
———、女。
「行かなきゃ……ここで、立たなきゃ……ダメなんだ、俺ぇ……っ!」
…………今まさに、その喉元に刃を突き立てられた女———サナ。
やらせるわけには行かない、もう二度と俺は———失いたくないんだ。
「動……け、動け、動け動け動け…………ぇっ!」
激しい動悸、頭だけはハイになっているのに、どうしても動かない体。
飛び散った血飛沫———それらを見てもまだ、俺は動く気になれる。
……だって、もう……アイツは、アイツだけは二度と殺させるわけにはいかないのだから……!
「ザ…………オールマイティッッッッ!!!!」
力の限り、ダメ元で叫んでみる。もはや全く使っていなかった技。『救世主』としての、『白』としての在り方を失った俺にとって、できるか分からなかった技。
ザ・オールマイティ。俺の———『救世主』としての在り方を体現した、俺の神技。
その効力は至って簡単———『全ての生命体、そしてそれに起因する魔力、神力の流れの時間の一切が完全に静止する神力領域を展開する』、つまりは時を止める最強の力。
……そして、敵のヤツらが求めている、俺だけの力。
「…………サナを———返してもらうぞっ!」
完全に静止した刹那に斬りかかり、それと同時にサナを奪取する。
———瞬間、灰色に染まった視界は元に戻り、時間が動きはじめる。
「ほぉっ?!……ななななんで、白がここに……!」
抱き抱えたサナはじたばたと暴れ出す。
「今は関係ない、それよりも問題はヤツだ……!」
「関係ない……って、でも貴方胸の傷は……!」
「今は関係ないつってんだろ、それよりも———!」
『ンフフフフフフ、ハハハハ、ハハハハハハハハッ!……何だ今のは、まるで動きが見えぬ……ソレがお前の鍵か、雪斬白郎!』
斬った———ああ、斬ったはずだ。その肉と肉を断ち、命をも絶つ刃として……コイツを斬ったはずなのに、何でコイツは……ピンピンしてやがる……?!
『…………素晴らしい……が、タネは見えた……所詮その程度……!』
「何で生きてやがるんだ、確実にその心臓斬ったはずだ……!」
『それはこちらの台詞だ……お前こそなぜ生きている、確実に心臓腑を切り裂いたはずだというのに!』
……だが、今の声で思い出した。
———俺が黒の家にいた時、コイツは一度俺たちを襲ってきた。その際に、黒がコイツの首を落とした瞬間———、
「再生……した………………そういうことか、今なら合点がいく……
お前、ソウルレスだったのか……だから、だから黒が首を落としても———!」
『…………そうならばまだよかったのですが……ねっ!』
再度幕を開ける剣戟戦。言葉の代わりに、数多の刃が交わされる。
サナもくいなもコレにはついていけない、だからコレは俺の戦いだ、俺がやらなきゃ……
「誰がやるーーーーっ!」
下から入れた刃が、敵の刃と拮抗する。圧倒されるわけにはいかない、絶対に押されるわけにはいかないんだ。
『…………『虚空切断』』
言葉が聞こえたのは———背後だった。
確かに俺は正面からヤツに相対していたはずなのに、ヤツの声は後ろから。
「しまっ———」
風を切る甲高い音が響いた直後———。
「兄さん、兄さん、あそぼうよ」
例の部屋———そこに入れられる前から、俺は兄さんにずっと構ってもらいたくて、いつもつっかかっていた。今となっては懐かしい記憶だ。
『……どけ、俺は今休んでいるんだ、貴様と遊ぶ暇などないに等しいんだ』
「でも、でも……」
『あの部屋から出てきたからと言って、貴様に馴れ馴れしくするわけじゃないからな』
……ずっと、この繰り返しだった。
剣術の打ち合いで、俺が兄さんを負かした日も、同じだった。
ずっとずっと、あそぼうと口にして———ずっとずっと拒絶されて、そして———。
『結局、本当に死んでしまったのか、兄さん』
◆◇◆◇◆◇◆◇
次に見た景色、それは。
「国……が、燃えてる……?」
俺ですら見たことのなかった、火で染まりつつあるヘファイストス神殿国の姿だった。
「これは……一体何が…………っっっ!!!!」
次の瞬間、意識が奥の方へと引っ張られる。まるでそこから拒絶されているかのように———現実の世界に引っ張られているかのように、意識は元へと戻っていった。
その情景を、噛み締めながら。
今のは何だったのだろうと、疑問に思いながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇
唐突に見開く目。
倒れ込んだ体を起こし、目に飛び込んできた景色は———今、一番見たくないものだった。
目の前にて炎上する……ロボット。
その奥に佇む、刀を持った人影。
倒れ込んだ何者か、刀を持った者に首を捕まれる女。
———、女。
「行かなきゃ……ここで、立たなきゃ……ダメなんだ、俺ぇ……っ!」
…………今まさに、その喉元に刃を突き立てられた女———サナ。
やらせるわけには行かない、もう二度と俺は———失いたくないんだ。
「動……け、動け、動け動け動け…………ぇっ!」
激しい動悸、頭だけはハイになっているのに、どうしても動かない体。
飛び散った血飛沫———それらを見てもまだ、俺は動く気になれる。
……だって、もう……アイツは、アイツだけは二度と殺させるわけにはいかないのだから……!
「ザ…………オールマイティッッッッ!!!!」
力の限り、ダメ元で叫んでみる。もはや全く使っていなかった技。『救世主』としての、『白』としての在り方を失った俺にとって、できるか分からなかった技。
ザ・オールマイティ。俺の———『救世主』としての在り方を体現した、俺の神技。
その効力は至って簡単———『全ての生命体、そしてそれに起因する魔力、神力の流れの時間の一切が完全に静止する神力領域を展開する』、つまりは時を止める最強の力。
……そして、敵のヤツらが求めている、俺だけの力。
「…………サナを———返してもらうぞっ!」
完全に静止した刹那に斬りかかり、それと同時にサナを奪取する。
———瞬間、灰色に染まった視界は元に戻り、時間が動きはじめる。
「ほぉっ?!……ななななんで、白がここに……!」
抱き抱えたサナはじたばたと暴れ出す。
「今は関係ない、それよりも問題はヤツだ……!」
「関係ない……って、でも貴方胸の傷は……!」
「今は関係ないつってんだろ、それよりも———!」
『ンフフフフフフ、ハハハハ、ハハハハハハハハッ!……何だ今のは、まるで動きが見えぬ……ソレがお前の鍵か、雪斬白郎!』
斬った———ああ、斬ったはずだ。その肉と肉を断ち、命をも絶つ刃として……コイツを斬ったはずなのに、何でコイツは……ピンピンしてやがる……?!
『…………素晴らしい……が、タネは見えた……所詮その程度……!』
「何で生きてやがるんだ、確実にその心臓斬ったはずだ……!」
『それはこちらの台詞だ……お前こそなぜ生きている、確実に心臓腑を切り裂いたはずだというのに!』
……だが、今の声で思い出した。
———俺が黒の家にいた時、コイツは一度俺たちを襲ってきた。その際に、黒がコイツの首を落とした瞬間———、
「再生……した………………そういうことか、今なら合点がいく……
お前、ソウルレスだったのか……だから、だから黒が首を落としても———!」
『…………そうならばまだよかったのですが……ねっ!』
再度幕を開ける剣戟戦。言葉の代わりに、数多の刃が交わされる。
サナもくいなもコレにはついていけない、だからコレは俺の戦いだ、俺がやらなきゃ……
「誰がやるーーーーっ!」
下から入れた刃が、敵の刃と拮抗する。圧倒されるわけにはいかない、絶対に押されるわけにはいかないんだ。
『…………『虚空切断』』
言葉が聞こえたのは———背後だった。
確かに俺は正面からヤツに相対していたはずなのに、ヤツの声は後ろから。
「しまっ———」
風を切る甲高い音が響いた直後———。
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