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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
ユメ( Ⅰ )
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◆◇◆◇◆◇◆◇
『よし、よし……いい子……ですね~……
この子の……名前は、決まったのですか……ヴァーサ』
無機質にして冷淡なその声で、無理矢理にでも俺を甘やかそうとしてくる存在———多分、俺の母だったと思う。
『名前か…………名前、コイツの名前…………アレン……とか、どうだ?』
『……一体どっから、そんな名前が……出てきたんですか?』
『さあ……こう、なんか……ポッと』
『ポッ、じゃないでしょ……!……もっとこう、イデアの時…………みたいに、少しは考えて———』
『いいじゃねえか、何でも。ソイツに聞くのはどうだ?…………どうせ、上の名前は呪われた名前———下がどうなろうと、コイツ自身の運命は俺たちが握ってるも同然なんだよ……
……ところで……アレンって名前は……どうだ?』
『この子が頷いた…………なら、それで……いいのかな。……アレン。アレン……セイバー。それがこの子の……名前です』
ようやく、色々と分かるようになってきた。
白く染まって何も見えなかった視界に見えたのは、一面の肌———と言うか、今の俺はその肌を口で吸っている。
……聞こえるのは、あまり馴染みのない女の声と———父さんの声。
「あ……あぇ……ん?」
『そーうそう、アレン、ア、レ、ンだ!』
「あぇん、あーぇん、あーぇん!」
父さんだ。死んだはずなのに、なぜか俺の側にいて———それどころか、俺自身の声すらも変な感じで…………赤子みたいに?
『俺、子供に戻ってる……?』
直後、今のままでも子供じゃないかと言うツッコミが浮かんでしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『……今日から、この子は……ここなの?……本当に、これがあの子の…………幸せ、なの?』
母のその碧い瞳が涙に揺れる。
……俺のことを想っての発言なのだな、と不意に気付いた。
『今は違う、今は違う……だけど、いつかきっと———コレに感謝する日が来るはずだ』
そう言われて放り込まれたのは、本当に何もない、一面真っ白の部屋だった。
それまで見てきた、空や、地べたや、人や、石や、動物や———その全てとかけ離れた、あまりにも無機質な白の部屋。
その部屋で、俺は。
「いだぁぁぁぁぁぁぁっ! いだっいだっ、いだいいいいいいっ!
いだい、いだいよ、なんでこんなこと……されなきゃ、いけないのあああああああああっ!」
1日目。
部屋に入れられて1日目、俺の背中の感覚は無くなった。
身に覚えのない激痛、何をされているかも分からない意識の乖離の中。
俺は白く光る部屋———収束しゆくその景色の奥に、こちらを見守る巨人の姿を垣間見た。
カチッと。
1つずつ、音を立てて廻る羽車。
そうして、それが3つまできた時、視界そのものが虹色に反転した。
乱立しゆく塩の塔。光の翼を背負い、月に背を向ける銀の巨人。
どこの、誰の見た風景かも分からないものを延々と見せつけられ、そのまま10日が過ぎたのだと、無意識のうちに分からされた。
そのまま、次の日へ。
痛みは持ち越し。どこへ行こうと何を見ようと、ずっと背中の痛みは治まらない。
今度に見せられたのは、白が紅に染まりゆく風景だった。
風景とは言い難いかもしれない。白い布に、徐々に血が滲み出ていくような、そんなものを、これまた延々と見せられ続ける。
見せられ続けると言っても、部屋全体にソレがあるわけじゃない。目の中に、頭の中に、直接押し付けられるように見せられるのだ。
脳が焼き切れそうな痛みと空腹の中、口から、下から、鼻から、色んなところからありとあらゆるものを吐き出しながら、悶え苦しみその地獄を受け入れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
何日経ったかは分からない。だが、とりあえず落ち着いた。
メシも食わず風呂にも入らず、朧げな意識のままずっと座り込んでいた。
人の声すらも届かなかった部屋———そこに、その時ようやく人の声が届く。
『……アレン、入るぞ…………っ、がぼっ、こほぉ……っ!』
父さんの声だった。……でも、様子がおかしい。
何がおかしいかと振り向いた瞬間、お父さんは床に何かをぶちまけていた。
「………………ぁ」
『気に……するな、それよりも……よかった……まだ、お前が生きてて…………よかった、よかった……!!
……すまんな、母さんは……どっか行っちまったよ、俺のせいだ……俺の、せいなんだ……すまんな……!』
口からぶちまけた何かがこびりついたまま、お父さんは俺の方に向かって、俺に思いっきり抱きついた。
まるで縋るように。俺だけを見つめ、俺だけを想っていた。
『でも、父さんはそんな人じゃなかったはずだろ』
◆◇◆◇◆◇◆◇
『よし、よし……いい子……ですね~……
この子の……名前は、決まったのですか……ヴァーサ』
無機質にして冷淡なその声で、無理矢理にでも俺を甘やかそうとしてくる存在———多分、俺の母だったと思う。
『名前か…………名前、コイツの名前…………アレン……とか、どうだ?』
『……一体どっから、そんな名前が……出てきたんですか?』
『さあ……こう、なんか……ポッと』
『ポッ、じゃないでしょ……!……もっとこう、イデアの時…………みたいに、少しは考えて———』
『いいじゃねえか、何でも。ソイツに聞くのはどうだ?…………どうせ、上の名前は呪われた名前———下がどうなろうと、コイツ自身の運命は俺たちが握ってるも同然なんだよ……
……ところで……アレンって名前は……どうだ?』
『この子が頷いた…………なら、それで……いいのかな。……アレン。アレン……セイバー。それがこの子の……名前です』
ようやく、色々と分かるようになってきた。
白く染まって何も見えなかった視界に見えたのは、一面の肌———と言うか、今の俺はその肌を口で吸っている。
……聞こえるのは、あまり馴染みのない女の声と———父さんの声。
「あ……あぇ……ん?」
『そーうそう、アレン、ア、レ、ンだ!』
「あぇん、あーぇん、あーぇん!」
父さんだ。死んだはずなのに、なぜか俺の側にいて———それどころか、俺自身の声すらも変な感じで…………赤子みたいに?
『俺、子供に戻ってる……?』
直後、今のままでも子供じゃないかと言うツッコミが浮かんでしまった。
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『……今日から、この子は……ここなの?……本当に、これがあの子の…………幸せ、なの?』
母のその碧い瞳が涙に揺れる。
……俺のことを想っての発言なのだな、と不意に気付いた。
『今は違う、今は違う……だけど、いつかきっと———コレに感謝する日が来るはずだ』
そう言われて放り込まれたのは、本当に何もない、一面真っ白の部屋だった。
それまで見てきた、空や、地べたや、人や、石や、動物や———その全てとかけ離れた、あまりにも無機質な白の部屋。
その部屋で、俺は。
「いだぁぁぁぁぁぁぁっ! いだっいだっ、いだいいいいいいっ!
いだい、いだいよ、なんでこんなこと……されなきゃ、いけないのあああああああああっ!」
1日目。
部屋に入れられて1日目、俺の背中の感覚は無くなった。
身に覚えのない激痛、何をされているかも分からない意識の乖離の中。
俺は白く光る部屋———収束しゆくその景色の奥に、こちらを見守る巨人の姿を垣間見た。
カチッと。
1つずつ、音を立てて廻る羽車。
そうして、それが3つまできた時、視界そのものが虹色に反転した。
乱立しゆく塩の塔。光の翼を背負い、月に背を向ける銀の巨人。
どこの、誰の見た風景かも分からないものを延々と見せつけられ、そのまま10日が過ぎたのだと、無意識のうちに分からされた。
そのまま、次の日へ。
痛みは持ち越し。どこへ行こうと何を見ようと、ずっと背中の痛みは治まらない。
今度に見せられたのは、白が紅に染まりゆく風景だった。
風景とは言い難いかもしれない。白い布に、徐々に血が滲み出ていくような、そんなものを、これまた延々と見せられ続ける。
見せられ続けると言っても、部屋全体にソレがあるわけじゃない。目の中に、頭の中に、直接押し付けられるように見せられるのだ。
脳が焼き切れそうな痛みと空腹の中、口から、下から、鼻から、色んなところからありとあらゆるものを吐き出しながら、悶え苦しみその地獄を受け入れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
何日経ったかは分からない。だが、とりあえず落ち着いた。
メシも食わず風呂にも入らず、朧げな意識のままずっと座り込んでいた。
人の声すらも届かなかった部屋———そこに、その時ようやく人の声が届く。
『……アレン、入るぞ…………っ、がぼっ、こほぉ……っ!』
父さんの声だった。……でも、様子がおかしい。
何がおかしいかと振り向いた瞬間、お父さんは床に何かをぶちまけていた。
「………………ぁ」
『気に……するな、それよりも……よかった……まだ、お前が生きてて…………よかった、よかった……!!
……すまんな、母さんは……どっか行っちまったよ、俺のせいだ……俺の、せいなんだ……すまんな……!』
口からぶちまけた何かがこびりついたまま、お父さんは俺の方に向かって、俺に思いっきり抱きついた。
まるで縋るように。俺だけを見つめ、俺だけを想っていた。
『でも、父さんはそんな人じゃなかったはずだろ』
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