Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
上 下
161 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

Side-セン: 分岐

しおりを挟む
 そうして、彼らはその分岐点にて分たれた。
 その分かれ道のうち、1番左端の道に進んだセンとイデアの2人は。


********


『結局どこまで行ったって通路のままですね……無線での情報共有も未だなし……もしかして、もう既に罠にはまっている……だとか』
「それはない」

 ———へ?
 それは……それはない、って、なんでイデアさんがそんな事を断定できるんだ……?

「微小だが……俺を中心とした魔術領域を展開しながら移動している。なんらかの魔術、神力的攻撃、反応があったのなら、すぐさま俺の魔術領域が察知しているはずだ、だからこのまま進め」

『やっぱり前のまんまだ、イデアさんが1番頼りになる』
「…………そうか」

 ディスプレイ越しに見えるその顔は、少しばかり曇っていたのだ。
 まるで何かに失望したかのように。


 何に、失望したのだろうか。
 今の僕の実力に、だろうか。
 こんなガラクタを乗りこなす僕に、だろうか。

 それとも、失望ではないのだろうか。


 ———と。

『……イデアさん、開けたところに……』
「分かっているが……その先に生体反応だ」

 照明はない、その開けた部屋は、鉄の通路同様に暗闇で満ちていた———が。



 
「……主に代わり、代行の務めを果たしましょうぞ」

 聞こえたのは、中年くらいの男の声。
 おそらく、眼前にて背を伸ばし立ち尽くす人影。それがこの男なのだろう。

 ……と、男はこのサイドツーの巨体を前にしようとも、微塵たりとも動揺する様子を見せなかったが———。


『イデアさん、しっかり捕まっててください』

 そう言いながらも僕のサイドツーが構えたのは、主武装であるCキャノン。

 そう、この男が何を言おうと、ここに、前に立ち塞がったということは、紛れもない敵意の証明になっているのだから。

「……分かっている」


「———そう易々と、撃たせるとでも思うか」

 その言葉と共に伸び行くは、薄く灯った光を覆う謎の影。

 ———攻撃が、来る———!



 その瞬間、場に響き渡ったのは、銃声と金属が擦れる音ばかりであった。
 少しばかり高く、そして鈍い音と共に、その砲身からは煙と微音が漏れ出す。


「お前が攻撃用意をしているというのに、こちらが何もしていないわけがないだろう」

 そう、いつの間にやら、イデアの魔術領域、多重幻覚境界面ホロウ・ミラーディメンジョンが展開していたのだ。

『イデアさん、ありがとうございます。……ただ、これは———』


 直後、投擲された何かによって軌道が逸れた爆裂概念弾が、部屋の奥の方で光と轟音を震わせながら破裂する。

 破裂の衝撃による爆風と光が吹き荒れる最中、状況はそれでも動き続ける。


 サイドツー、その周りを囲うように、そして繊細に展開された魔術領域内部にて、計12丁のトランスフィールド製らしき小銃が顕現していたのだ。

「———危なかったな、ヤツが投げた剣———らしきものは3本。

 1本は概念弾の軌道を逸らす為、残り2本で俺たちを仕留める気だったのだろうが———こっちの方が一枚上手だったな」

 そうイデアが告げた直後、サイドツーの背後にても爆発が巻き起こる。





 つまり、敵が———ヤツが投げたのは、『祝福儀礼の爆剣』ということ……!


「……素晴らしい、素晴らしいではないか———流石はヴォレイ2番隊隊長を打破した勇者。我が名にそぐわない訳では無さそうだ」

「———ならば、そういう貴様の名は何だ?……そこまで勿体ぶるなら、さっさと言ってほしいものなのだが」

「そうか、我が名を……聞きたいと申すか。……ならば告げようぞ、我が名は———、



 ———ゴルゴダ機関第1番隊隊長、レイン・ヴァープナー。……尊き我が主の代行者、天罰の地上執行者……なり……!」
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...