Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

Believer

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*◆◇*◆◇*◆◇



 ———それはまるで、突如電源がついたように唐突だった。


 穏やかな朝だった。
 まるで、長く、深い眠りから目覚めた、そんな気分だった。

 ベッドから起き上がる。

 冷たい鉄の床が、眠りほおけた意識を戻す。

「訓練学校、行かないとな」

 木の…………に掛けた……をとり、それを羽織り、…………を留める。

 …………で顔を洗い、鏡で今の自分の顔を眺める。


 よし、目クソは付いちゃいない。髪ももちろん整えた。

 歯磨きもした、朝食は……とってないけど。

「そう言えば、ここにバッグがあったような……」





 そう言いながら開けた押し入れの先には。

「おは……よう?」

 ———古ぼけたゴシック風の服を着て、蒼に染まりきった目でこちらを見つめる、ツインテールの美少女———というより幼女が佇んでいた。


 ……って、アレ?
 何錯覚してんだ、俺。
 いくら今まで女運が無かったとは言え、そんな事がある訳が……

「……? どう、したの……?」


 その白い手が、俺の頭に添えられる。
 ツバサ……そうだ、はツバサだった。


 ……だけどコイツ……誰?

「……なあ、お前は誰だ? どこの区出身だ? 識別番号は何だよ?」

「どこの……区……、どこの区でもない」






 待った。
 今、コイツはなんて言った?

「どこの区でもないから……どこの区でもない」


 ……つまり、コイツ……「「部外者」」じゃねえか!!

 どーすんだよ、のシステムは誰も寄せ付けないんじゃ無かったのか?! このままじゃ、俺まで部外者を匿った犯罪者に……!!


「……な、なあ、お前誰なんだ、お前一体誰なんだよ、俺の家に何しに……!」



「私を、アイして」

 ……?
 無機質的な声で、しかも唐突にそうも発されるとは、まさか夢にも思うまい。


 ……愛?
 私を愛して、だって……?

「…………ニトイに、アイを……教えて」
「っ、だからお前、名前とかないのかよ!」


「名前……ニトイ・グレイフォーバス」

 ……グレイ、フォーバス……?


「は?」
「…………ニトイ。ニトイは、ニトイ」

「は、はあ、ニトイ、さん? ちゃん?」
「ニトイ」

 淡々と———しかし一言一言はっきりと、ニトイは言葉を述べてゆく。

「……でニトイ、お前はどこから来たんだよ、とりあえずその国に帰さないと……」

「ニトイの……国、。帝都オリュンポス」

「そんな訳ないだろ?!」

 コイツの国が……ここ?
 自分のいる区画がどこかも分かってないってのに、コイツはここ———オリュンポスが祖国だってえ……?

「合ってる。ニトイのの国、オリュンポス」

「は、はあ……どうしよう、とりあえず家に置き去りにするか……いやでも、食糧はどうすんだ~~~~っっ」

「たべもの……いらない。ニトイ、には、たべものはいらない」

「いらない訳ないだろ、食わなきゃ死ぬぞ!」

「食べなくても、死なない。……ねえ、早く、ニトイに………アイを、おしえて」


 アイ……?
 アイってなんだ、教えるってなんだ、なんで俺が教えなきゃならないんだ?!

「……だああっもう、いい加減気色悪いぞ、大体何で俺の家に……」

「きしょく、わるい……ツバサに、貶された……」

「あーおいおい、泣くなっての……!……もう何でもいいから愛してやるよ、それで十分なんだろ……?」

「アイして、くれる…?」

 ……その蕩けるような視線は……卑怯だな、犯罪者のくせに。
 ……犯罪者だからこそ卑怯なのか。

 そんな、そんな涙を浮かべた目で見つめられちゃ、大抵の男は思わず許しちまうぞ……?

「ニトイを、アイして……くれる……?」

「分かった、家に帰ったら愛してやるからさ、とりあえず今日は一日ここにいてくれ(そしてこのまま夜逃げする……!)」

「…………ダメ」

 はい????


 俺の服が、制服が、その涙に湿る。
 それと同時に柔らかい感触。 

「……なあ、何で抱きついたまま……離れないんだ?」
「ニトイをアイして……一緒に、いて……?」

 かわいいのかうざったいのか、どっちかにしてほしい。


 ———学校に行かなきゃならないってのに。




「……じゃあ、学校に来てもいいが、識別番号くらいは分かるのか?」
「識別番号……P-12」

「なんだその識別番号?! え、だってお前……ゴルゴダ機関じゃないだろ?……って事は、番号はos-系列しかないんじゃないのかよ?! 何なんだPって?!」

「P……柱の、ピー。何の柱か、分からない……」




「……分かった、分かった。不自然に思われんように、今日からお前は識別番号os-43283って名乗れ、いいな?」

「おーえす、よんまんさんぜんにひゃくなな……」

「違う、43283だ……」
「よんまんさんぜんにひゃくなな……」
「ハチ! ハチだよハチ!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇

 結局、学校に行くまでに、コイツに識別番号を覚えさせた時間は1時間。
 驚くべき事に、学校の1限目は40分遅れ。


 ……これじゃ、単位はもらえないかなぁ。
 それに不審者……ニトイに関する事も聞かれると思うし、今日1日は職員室に拘束か……
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