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断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜
ハッピーエンドを求めて———
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◆◇◆◇◆◇◆◇
魔武道大会直後の、帝都オリュンポス。
「……ヴォレイが、帰ってこない……?」
魔王軍元幹部———ゴルゴダ機関の長、ダークナイト改め刹那は、今まさに、想定外の状況に困惑していた。
……何せ、ゴルゴダ機関随一の怪力が死んだと。
この世界どこを見てもかなりの実力者がやられたと言う報告ともなれば、流石のダークナイトとは言えど、驚きを隠さずにはいられなかった。
……それもヤツは貴重なソウルレスの実験体。
ロストにならずして生還した、ソウルレス第二号が死ぬなど、本来はほとんどあり得ない事であった。
……がしかし、その手を知られた、または知られていた、ともなれば、ヴォレイを殺した者も、いささか特定しやすくなった。
「……そう、白郎です……か」
あまつさえ、鍵を確保できなかったばかりか、貴重な戦闘要員まで失ってしまったとさえあれば、その憤りをも隠せるはずがなく。
「……これより西大陸殲滅作戦を発動します。よろしいですか、レイン?」
「……必ずや成し遂げてみせましょう。プロジェクトエターナルの、我らの正義を執行する為に。
全隊、出撃用意。どのような手も辞さない、何が何であろうと……!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、その頃。
大会が終わり1週間、白はまたしても退屈に直面していた。
「……なあ、次の大会はいつだ? もう俺、早く戦いたくてウズウズしてんだよ」
「……ハア?……べつに、そんなの外で、イデアさんとでも誰とでもやって来ればいいじゃない。仕事だって、してないんだ、からっ!」
何やら高そうな壺を持ち上げたり置いたりしながら、サナはそう吐き捨てる。
「いやー、そう言ったってよ~……やっぱりああいう戦いじゃないと、みんな力をセーブしちまうんだよ。
……それじゃ面白くない、死ぬ気で戦いたいんだよ、俺は」
今思えば、この言葉も含めておかしかったんだろうな、俺って。
「……そう言えば、この前私が渡した『小説』は読んだわけ?」
小説。
紙に筆で、物語? ってやつを書くっていう日ノ國発祥の文学? らしいんだけど。
はっきり言って物語になんて興味は無いし、どう転んでも、その小説なんてものは読もうとは思っちゃいなかった。
……ただ、ある時。
本当に暇で暇で、何をすれば良いのか分からない、そんなどこまでも虚無な時間が流れた時。
その時、ようやくその本に手を付けようと思った。
タイトルは「スーパーヒーロー」。
街を守る為に、特殊な武装を施された人間が、怪人相手に立ち向かう……ストーリー。
サナは「安直なタイトルよね」だとか口にしていたが、小説———もとい物語に手を付けてこなかった俺にとっては、何が安直なのか全く分からなかった。
……面白く、はあったかな、
ただ、どうしても分からない表現や言葉はサナに聞いて、なんとかして読み終えた。
……最後は、俗に言う「ハッピーエンド」。
主人公が守り通した未来で、皆が笑って終わる———そんな、サナからすれば「ありきたり」な終わり方だった。
……でも、俺はこの終わり方がハッピーエンドとは思えない。
なぜなら、その物語は、主人公無しでの終わりを迎えているからだ。
みんなこの物語をハッピーエンドだと謳う。この物語が名作だと、口を揃えて言い放つ。
……でも、何で、何で最後の戦いで、主人公が死ぬ必要があったんだ?
今まで、みんなの為に尽くしてきた主人公が、最後の最後に自分の命を犠牲にして最後の敵を倒す。
見てて面白い展開だな、と思った。
それでその小説の登場人物は笑っていたし。
サナも『ヒーローって言う存在の、自己犠牲をきちんと描けてるのよ? 名作じゃなくて何だって言うの?』だなんて口にした。
……でも、何で、何でこれがハッピーエンドなんだ?
主人公は死んだ。安らぎを求めて戦った主人公は、最後の最後に犠牲になった。
別に、犠牲になるならそこらの一般人でもよかったはずだ。小説内では、そのような状況だった。
……だからって、主人公が死ななきゃいけなかった理由は分からない。
登場人物が口を揃えて『死にたくない』と言う中、『ならば俺が』と口にして散っていった主人公を眺め、その登場人物たちは笑った。
そして、それがハッピーエンド?
……そんなのは、卑怯なんじゃないのか、と。
他人に責任を押し付けて、自分はのうのうと笑って暮らしてる、だなんて。
「そんな事言ったって、それがドラマチックな終わり方だから作者はそうしたまででしょ?
……それでも、その主人公の守った者はみんな笑ってたじゃない?」
……やっぱり、俺には認めきれなかった。
そんな、そんなモノをハッピーエンドと認めるのは、俺には無理だった。
みんな生き残ってこそのハッピーエンド、なんじゃないのか。
それが一番の終わらせ方だとしても、俺はその物語を否定する事しかできなかった。
だからこそ、なんか、もうちょっと納得できるような、そんな物語が読みたいな、と思った。
めちゃくちゃ強い魔法を手に入れて無双する話でも、貴族に転生して復讐して、爽快感を味わう話でもない。
ただただ、納得できて感動できる結末を迎える物語に、出会いたかったのだ。
本屋。
新しくできたそこは、『小説』なるものが数多く売られているという。
だからこそ、そこに足を運んだ。
ハッピーエンドを、本当のハッピーエンドを見つける為に。
そして、バッドエンドまっしぐらの選択をしてしまった事に、俺は…………いつ気づくことになるだろうか。
…………まあ元より、「雪斬白郎」という男自体が、バッドエンドまっしぐらのフラグ、みたいなものなのだが。
魔武道大会直後の、帝都オリュンポス。
「……ヴォレイが、帰ってこない……?」
魔王軍元幹部———ゴルゴダ機関の長、ダークナイト改め刹那は、今まさに、想定外の状況に困惑していた。
……何せ、ゴルゴダ機関随一の怪力が死んだと。
この世界どこを見てもかなりの実力者がやられたと言う報告ともなれば、流石のダークナイトとは言えど、驚きを隠さずにはいられなかった。
……それもヤツは貴重なソウルレスの実験体。
ロストにならずして生還した、ソウルレス第二号が死ぬなど、本来はほとんどあり得ない事であった。
……がしかし、その手を知られた、または知られていた、ともなれば、ヴォレイを殺した者も、いささか特定しやすくなった。
「……そう、白郎です……か」
あまつさえ、鍵を確保できなかったばかりか、貴重な戦闘要員まで失ってしまったとさえあれば、その憤りをも隠せるはずがなく。
「……これより西大陸殲滅作戦を発動します。よろしいですか、レイン?」
「……必ずや成し遂げてみせましょう。プロジェクトエターナルの、我らの正義を執行する為に。
全隊、出撃用意。どのような手も辞さない、何が何であろうと……!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、その頃。
大会が終わり1週間、白はまたしても退屈に直面していた。
「……なあ、次の大会はいつだ? もう俺、早く戦いたくてウズウズしてんだよ」
「……ハア?……べつに、そんなの外で、イデアさんとでも誰とでもやって来ればいいじゃない。仕事だって、してないんだ、からっ!」
何やら高そうな壺を持ち上げたり置いたりしながら、サナはそう吐き捨てる。
「いやー、そう言ったってよ~……やっぱりああいう戦いじゃないと、みんな力をセーブしちまうんだよ。
……それじゃ面白くない、死ぬ気で戦いたいんだよ、俺は」
今思えば、この言葉も含めておかしかったんだろうな、俺って。
「……そう言えば、この前私が渡した『小説』は読んだわけ?」
小説。
紙に筆で、物語? ってやつを書くっていう日ノ國発祥の文学? らしいんだけど。
はっきり言って物語になんて興味は無いし、どう転んでも、その小説なんてものは読もうとは思っちゃいなかった。
……ただ、ある時。
本当に暇で暇で、何をすれば良いのか分からない、そんなどこまでも虚無な時間が流れた時。
その時、ようやくその本に手を付けようと思った。
タイトルは「スーパーヒーロー」。
街を守る為に、特殊な武装を施された人間が、怪人相手に立ち向かう……ストーリー。
サナは「安直なタイトルよね」だとか口にしていたが、小説———もとい物語に手を付けてこなかった俺にとっては、何が安直なのか全く分からなかった。
……面白く、はあったかな、
ただ、どうしても分からない表現や言葉はサナに聞いて、なんとかして読み終えた。
……最後は、俗に言う「ハッピーエンド」。
主人公が守り通した未来で、皆が笑って終わる———そんな、サナからすれば「ありきたり」な終わり方だった。
……でも、俺はこの終わり方がハッピーエンドとは思えない。
なぜなら、その物語は、主人公無しでの終わりを迎えているからだ。
みんなこの物語をハッピーエンドだと謳う。この物語が名作だと、口を揃えて言い放つ。
……でも、何で、何で最後の戦いで、主人公が死ぬ必要があったんだ?
今まで、みんなの為に尽くしてきた主人公が、最後の最後に自分の命を犠牲にして最後の敵を倒す。
見てて面白い展開だな、と思った。
それでその小説の登場人物は笑っていたし。
サナも『ヒーローって言う存在の、自己犠牲をきちんと描けてるのよ? 名作じゃなくて何だって言うの?』だなんて口にした。
……でも、何で、何でこれがハッピーエンドなんだ?
主人公は死んだ。安らぎを求めて戦った主人公は、最後の最後に犠牲になった。
別に、犠牲になるならそこらの一般人でもよかったはずだ。小説内では、そのような状況だった。
……だからって、主人公が死ななきゃいけなかった理由は分からない。
登場人物が口を揃えて『死にたくない』と言う中、『ならば俺が』と口にして散っていった主人公を眺め、その登場人物たちは笑った。
そして、それがハッピーエンド?
……そんなのは、卑怯なんじゃないのか、と。
他人に責任を押し付けて、自分はのうのうと笑って暮らしてる、だなんて。
「そんな事言ったって、それがドラマチックな終わり方だから作者はそうしたまででしょ?
……それでも、その主人公の守った者はみんな笑ってたじゃない?」
……やっぱり、俺には認めきれなかった。
そんな、そんなモノをハッピーエンドと認めるのは、俺には無理だった。
みんな生き残ってこそのハッピーエンド、なんじゃないのか。
それが一番の終わらせ方だとしても、俺はその物語を否定する事しかできなかった。
だからこそ、なんか、もうちょっと納得できるような、そんな物語が読みたいな、と思った。
めちゃくちゃ強い魔法を手に入れて無双する話でも、貴族に転生して復讐して、爽快感を味わう話でもない。
ただただ、納得できて感動できる結末を迎える物語に、出会いたかったのだ。
本屋。
新しくできたそこは、『小説』なるものが数多く売られているという。
だからこそ、そこに足を運んだ。
ハッピーエンドを、本当のハッピーエンドを見つける為に。
そして、バッドエンドまっしぐらの選択をしてしまった事に、俺は…………いつ気づくことになるだろうか。
…………まあ元より、「雪斬白郎」という男自体が、バッドエンドまっしぐらのフラグ、みたいなものなのだが。
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