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第一章

往生際の悪い人

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 完全に余裕をなくしたカイル陛下は、手に持つ資料をぐしゃぐしゃに丸める。
そして、勢いよくテーブルの上に叩きつけた。
大きな物音にビクッと肩を震わせるカーティス様は、すっかり縮こまっている。

「ふざけるな!こんなものは、ただの状況証拠に過ぎん!確かにリナとカーティスは同じホテルの同じ部屋に入ったかもしれんが、そこで行為に及んだ証拠はないだろう!」

 いやいや、同じホテルの同じ部屋に入った時点でアウトでしょう……。たとえ、そこで行為に及んでいなかったとしても、浮気にカウントされると思いますが……。

 往生際の悪いカイル陛下に、誰もが呆れ果てる中、私と父は互いに目配せし合う。
そして─────もう一つの証拠を提示することにした。

 リナさんとカーティス様の尊厳を守るためにも、出来れば使いたくなかったのだけど……ここまで来れば、しょうがない。

「こちらの資料をご覧ください」

 最後の切り札として、取っておいたもう一つの資料をテーブルの上に置いた。
激昂するカイル陛下は、不機嫌そうに追加の資料を手に取る。

「今度は何だ!?」

「それはホテルで見つかったお二人の毛髪と体液の写真です。そして、そちらのグラフは証拠の一部から、検出された微細な魔力とお二人の魔力を比べたものになります。我々が開発した魔力検査機器の結果によると、毛髪や体液から検出された微細な魔力とお二人の魔力は完全に合致します」

「な、なんっ……!?」

「毛髪はさておき、ただの寝泊まりで体液がこんなに出る筈ありませんよね?」

「……」

 『体液』と言葉を濁したが、ホテルから見つかった体液は性行為で分泌されるものだった。
それを理解しているのか、カイル陛下はついに黙り込んでしまう……。
当事者であるカーティス様は、ビクビク震えていた。

 さすがにここまで証拠が揃えば、言い逃れは出来ないだろう。

 ────と考えるものの、カイル陛下は本当に……これでもかってくらい、往生際が悪かった。

「……だ、だが!!その魔力検査機器とやらの診断が正しいとは限らん!そんな結果は無効だ!」

 いや、診断結果を無効にしたとしても、体液が見つかった事実は変わらないのだけど……否定するところ、間違ってません?

 最後の最後まで悪足掻きをするカイル陛下に呆れ返っていれば、証人役として呼ばれたオリヴァー様が口を開く。

「魔力検査機器の性能については、私が……いや、ルーメン帝国が保証しよう。我が国では、診断結果を証拠品として認めている。近頃は裁判でも、よく見かけるようになったよ。エスポワール王国の魔導具技術に関しては、脱帽するしかないね」

「っ……!!」

「オリヴァー様、我が国の魔道具を認めて頂き、ありがとうございます」

 ルーメン帝国の皇太子に魔力検査機器の性能を認められたため、カイル陛下もいよいよ逃げ場が無くなってきた。
このままでは、リナさんとカーティス様の不貞関係を否定することは不可能だろう。
『往生際の悪い人だったな……』と、しみじみ思う中────カーティス様は席を立つ。

「何だよ……何なんだよ!?愛人を一人持つくらい、別に良いじゃないか!何で僕がこんなにっ……!!責められないといけないんだ!?」

 断崖絶壁の崖まで追い詰められたカーティス様は、見事な逆ギレを見せてくれた。
こういう所は本当にカイル陛下に父親そっくりだ。
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