上 下
3 / 37
序章

予想外の救世主

しおりを挟む
 彼女には何を言っても無駄みたいだし、ここは別の方と話を進めた方が良さそうね。

「カーティス様、彼女は酷く混乱している様子。別室をご用意しますので、妹君が冷静さを取り戻すまでそこでしばらく待機を……」

「芋女の分際で、お兄様に命令しないでちょうだい!」

 割りと話が通じそうなカーティス様に話し掛けるが、リナさんの横やりが入ってくる。
彼女はカーティス様の腕に自身の腕を絡め、その控えめな胸を彼の腕に押し付けた。
これでは、まるでカーティス様の彼女気取りだ。

 この方は本当に王女なのかしら?立ち振る舞いに品がないし、言葉遣いも乱暴だわ。その上、この態度……。
正直、王女よりも娼婦の方がしっくり来る。

「はぁ……」

 王族とは思えないリナさんの態度に思わず溜め息を零せば、彼女がこちらをキッと睨みつけてくる。

「何よ!?その態度は!芋女のくせに生意気よ!私自ら教育し直してあげるわ!」

「え?ちょ、リナ……!」

 カーティス様の腕を解いたリナさんは、制止の声も聞かずに私の方へ近づいてくる。
背の低い彼女は下から私を睨みあげると、おもむろに右手を振り上げた。

 えっ?ちょっ……嘘でしょう!?まさかの暴力!?しかも、グーで!?

 私は振り上げられた小さな拳を前に、防御用の魔法陣を展開すべきか迷う。
ここで乱闘騒ぎが起きれば、確実に両国間の関係は悪くなる。だからと言って、私が怪我をすれば……。

 どう動くのが最善か推し量っていると、私とリナさんの間に颯爽と誰かが現れた。
その『誰か』はリナさんが振り上げた拳を掴み、私を背に庇っている。
その人物には、見覚えがあった。

 ま、まさかこの方は─────オリヴァー様では……!?

 ────オリヴァー・ランドルフ。
大陸の約六割を手中に収めるルーメン帝国の第一皇子にして、皇太子であるお方。
大変聡明な方で、小さい頃から国の情勢や政治に携わり、今は研修がてら各国を見て回っていると言う。
彼が私の結婚式に出席したのはそのついでだろう。

 オリヴァー様とこうしてお会いするのは10年ぶりだけど、昔と何も変わっていないわね。
この美しい銀髪も、切れ長の目も、真っ白な肌も、全てを見通す紫色の瞳も全部……何一つとして変わっていない。

「暴力沙汰は感心しないな?リナ王女」

「なっ……!?誰よ、貴方……!」

「おや?君は私のことを知らないのかい?」

「当たり前でしょ!会ったことないんだから!それより、手離してよ!」

 リナさんは乱暴にオリヴァー様の手を振りほどくと、その場で偉そうにふんぞり返った。
そんな彼女の対応に、銀髪紫眼の美青年は困ったように苦笑を浮かべる。
周囲の反応は様々だが、無知なリナさんに軽蔑の目を向けているのは皆同じだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

32今日は、私の結婚式。幸せになれると思ったのに、、、

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:30,360pt お気に入り:925

【完結】私ではなく義妹を選んだ婚約者様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:4,832

元王女で転生者な竜の愛娘

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:786

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

恋愛 / 完結 24h.ポイント:454pt お気に入り:6,292

この国に私はいらないようなので、隣国の王子のところへ嫁ぎます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:745pt お気に入り:1,379

悪魔に祈るとき

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21,956pt お気に入り:1,645

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:837pt お気に入り:4,529

処理中です...