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シャロン 5 兄との距離 1
しおりを挟むどうかしている。
シャロンは溜息を吐いた。
自分でもおかしいことには気がついている。
なんてはしたない。
女性から口づけをするのははしたなくていけないことだと教わった。
それに……殿下に胸を触れられるとおかしな気分になってしまった。
自分でもあまり触れない部分だ。
部屋に誰も居ないことを確認し、試しに自分で揉んでみる。
よくわからない。殿下はこんなことをして楽しいのだろうかと考え、やはり殿下に触れられた時のようにはおかしな気分にならないことに気がつく。
ミートパイのタネよりは硬い。パイ生地を捏ねるときとも違う。
もちもちという表現も正しいのかはわからない。
殿下はこれがお好きなようだった。
大きい方が好みだとも……。
殿下を思い出すと、途端に顔が熱くなる。
彼には恥ずかしいところばかり見られている気がした。
それでも、そんな恥ずかしいシャロンでもいいと言ってくれる。たとえ言葉だけだとしても喜んでしまう。
自分はなんて単純な女なのだろう。
そう思い、胸を揉む手を止める。
別に揉んだからといって彼好みの大きさに成長するわけではない。もう成長期は終わってしまったのだから未来に期待することも出来ないだろう。
溜息を吐いてベッドに倒れ込む。
彼がいないのは当たり前なのに、ここで触れられたことを思い出すと寂しさが溢れ出てしまう。
撫でられた唇を思い出すだけで背筋がぞくぞくとして、腹の奥がじんわりとうずくような気がした。
なんてはしたない。
自分が嫌になってしまう。
そうして寝返りを打つと、扉を叩く音が響いた。
「シャロン、いる?」
少しのんびりした声は、次兄、ジェフリーのものだった。
「はい」
慌てて飛び起きれば「入るよ」と声と共に扉が開いた。
「珍しい。お昼寝?」
「えっと……授業がなくなってしまったので、なにをしたらいいかわからなくて……」
空いた時間はパイを大量に生産するくらいしか使い道が浮かばなかった。
けれども先日作りすぎたばかりだ。もうみんなうんざりしているだろう。
恋愛小説を読むのも悪くないとは思ったが、持っている本は殆ど読み終わってしまった。
つまり、シャロンは暇なのだ。だからどうしようもないことばかり考えて、おかしな気分になっている。
「じゃあ、僕の気晴らし、付き合ってくれる?」
ジェフリーは柔らかく笑んだ。
どこか気怠そうな雰囲気のくせに、時々見せる笑みは柔らかさと温かさで出来ている気がする。
「はい。勿論です」
ジェフリーの言う気晴らしは、つまりシャロンと出かけたいという意味だ。
庭の散歩から馬での遠出、時々街への買い物。その時の彼の気分によって行き先は違うけれど、彼と過ごす時間はどこだって穏やかなものになる。
「お買い物行こうと思ったから、着替えて準備して」
「はい」
部屋着のまま外出するわけにはいかない。
このだらけきった生活をしている時にわざわざメイドを呼ぶのは申し訳ない気がしてしまい、自分で着られる服を探そうと箪笥を開ける。
「シャロン? リジーを呼ばないの?」
「ひとりで着られる服を選ぶので大丈夫ですよ」
「ふぅん」
ジェフリーはじっとシャロンを見る。
「お兄様? どうかしましたか?」
「うん? いや、うちのメイド、ちゃんと仕事してるのかなって」
「え?」
仕事はちゃんとしていると思う。シャロンのわがままに合わせて食事やお茶を部屋まで運んでくれる。それだけでも感謝するべきだし、入浴もなるべく自分でしたいからと、お湯だけ運んで貰っている。
むしろ、仕事を奪われて迷惑なのは彼女たちではないだろうか。
「ううん。なんでもないよ。僕が少し心配性だっただけ」
ジェフリーはそう言って部屋を出る。
一体なにを気にしているのだろう。
兄の視線の意味が気になったが、手近な服を取って外出準備を始めた。
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