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ジャスティン 4 向けられた執着 3
しおりを挟む客室、そう呼ぶにしてはやや異質なその部屋に足を運ぶのは初めてだ。
正直、顔を合わせれば止めを刺してしまわないか不安にもなる。
ジェフリーを同席させようとも思ったが、カラミティー侯爵家に不名誉な話も飛び出しそうだったので、代わりの護衛を同席させることにした。
スティーブン・クライメット。クライメット伯爵家の長男、なのだがどういうわけか志願して騎士となった。
王族より偉そうな護衛。なにより、気に入らない程の美形。
隣に並ぶジャスティンが霞むのではないかと言うほどに、スティーブンの容姿は整っている。シャロンには見せたくない男……のはずなのだが、どういうわけか、シャロンはこの男に全く反応しない。
スティーブンはシャロンに全く相手にされていない。そう思うことでジャスティンは己の自尊心を守っていた。
「今日は私を気絶させて身勝手な行動を取ろうなどと考えるなよ?」
不機嫌を隠しもしない、神経質そうな視線を向けられる。
美形は美形でも氷彫刻のような美形だ。単純にシャロンの好みからかけ離れているだけなのかもしれない。
そう考え、シャロンの好みはどんな男なのだろうと思う。
たぶん、年上の男だろう。その条件だけならジャスティンだって満たしている。けれどもそれだけではないはずだ。
滅多に参加しない夜会で他の男に視線を奪われている姿を見たことはない。単純に緊張しているだけだったのか、そもそも外見にあまり興味がないのか……。
そもそもシャロンの兄たちも美形揃いなのだ。美形は見飽きて……。
そこまで考え、扉の向こうにいるであろう男を思い出す。
世の基準で言えばお世辞にも美形とは言い難い。ジャスティンの周囲にいる男達と比較しても見劣りする容姿だが、醜いと言うほどでもない。
醸し出す雰囲気は穏やかという表現がぴったりで、子供相手をする医者とみればぴったりだろう。
シャロンが幼い頃からの主治医だと言う。
年上で穏やかな……頼りになる男だ。そうなると……。
「……やはり事故ということにして始末してしまおう」
「その言葉をそっくりカラミティー侯爵令嬢に伝えるぞ」
スティーブンはいつも以上に冷たい声で言う。
「お前、シャロンと会話出来るのか?」
「彼女は俺の容姿を気にしない。むしろ、お前より会話しやすい」
そう言われ、確かにシャロンはスティーブンを見て赤くなったりはしないが、日常的な受け答えはしていたなと思い出す。
「お前、まさか俺のシャロンに惚れたりしていないだろうな?」
「さあな」
面倒くさそうな返事が返ってくる。
やはりなるべくシャロンに近づけないようにしよう。
そう心に決め、扉の前に立つ。
顎で指示し、スティーブンに扉を開けさせれば、部屋の中から小さなうめき声が聞こえた。
「なにか吐いたか?」
やり過ぎたヘクターに代わり見張りをさせていたトーマスに訊ねる。
「いえ、怪我の状態が酷く、会話も相当辛い様子です」
思わず舌打ちをする。
拷問は許可した。しかし喋ることの出来ない状態にしてどうする。
「……あいつ、本当に頭が足りないな」
剣術の腕自体は天才的だ。しかし自分で物事を考えることが出来ない。
他人から指示されればそれなりに動けるから誤魔化されているが、細かく指示しないと問題を起こしがちだ。
ジャスティンはヘクターの使い方をそれなりに理解していたはずだ。あの時は珍しくヘクターが自分の意見を口にし、結局頭の足りない彼の考えで問題が大きくなった。
いや、ヘクターの責任ではない。
忠実な駒としてなら有能なヘクターの使い道を誤ったジャスティンが悪い。
思わず握りしめた拳を壁に叩きつける。
想像よりも大きな音が響いた。
「まず、こいつは死なないのか?」
「完治まではかなり時間が掛かるとのことですが、命は助かると」
ジャスティンは舌打ちする。
「やはり怪我が酷かったことにして始末しよう」
ヘクターは既に過剰暴行でなんらかの処分を受けることが決まっている。だったら打ち所が悪くて後から悪化したことにしても問題ないはずだ。
「カラミティー侯爵令嬢が悲しむのでは?」
「俺が慰めるから問題ない」
ほんの一瞬でもシャロンが他の男を想うことが気に入らない。
兄たちについては我慢してやっているのだから、それ以上は無理だ。
意識はあるのだろう。
ベッドの上で僅かに呻くばかりの男が、怯えたような視線を向ける。
それもそうだ。手足を酷く折られている。
顔面も激しく殴られたのだろう。鼻が折れているとは聞いていたが、他にもいくつも痣が見えた。
「お前、アレクシスに気があるからシャロンに近づいたんだって? まさか、そんなくだらないことの為に俺のシャロンを利用しようとしたのか?」
本当は他に目的があるのだろうと問えば、ドラウドが震えていることに気がつく。
言葉にならない呻き声を発し、必死にどこかに行ってくれと祈っているようにも見える。
だめだ。話にならない。
もしもこれが演技なら、この男はどこかの国の諜報員かもしれない。
クラウド夫人、そしてテンペスト侯爵家との繋がりを詳しく調べる必要があるが、本人からの証言は得られそうにない。
「家宅捜索は進んでいるのか?」
「それが、自宅には殆ど物が置かれておらず……」
トーマスは困り果てている様子だ。
「シャロンのカルテはあったのか?」
「現在エイミー様が調査中です」
家に殆ど物がないというのはおかしい。
本当にドラウドは医者なのだろうかと疑問が生じた。
「見張っておけ。喋れるようになったら知らせろ」
「はい」
スティーブンを連れ、外に出る。
「スティーブン、後でもう一度中に入って不審な点がないか調べろ。怯えているのは演技かもしれない」
「了解した。私も気になる点があった」
「気になる点?」
「確認してから報告する」
スティーブンにはそういうところがある。
ジャスティンに対する敬いがないというべきか、彼の中の軸のようなものが不確かな情報を発することを嫌う。
「なら任せる」
次の目的地はひとりで行っても構わない。
むしろ。止める奴が居ない方が都合がいい。
ジャスティンはスティーブンを残し歩き出した。
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