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ジャスティン 4 向けられた執着 2
しおりを挟むシャロンと離れるのはとても心苦しい。
しかし、エイミーに呼び出された。仕事が山ほど残っているのだから戻れと。
シャロンと離れれば仕事の効率が悪くなると主張してみたが、エイミーがシャロンに耳打ちをし、困り果てた様子で「仕事を放棄する方は嫌い、です……」なんて、明らかに言わされた言葉を口にさせた。
たとえ言わされた言葉だとしても、シャロンにそんなことを言われればぐさりと刺さってしまう。
特に「嫌い」の部分が。
シャロンが嫌っていようが絶対に手放す気は無いが、面と向かって嫌いなどと言われたいわけではない。
渋々別れる直前、もう一度シャロンを抱きしめ、その柔らかな膨らみを堪能しようとすると、エイミーに容赦なく殴られた。
「許可なく女性の体に触れてはいけないと、幼児でもわかることですよ?」
「口づけの代わりだ」
本人が口より胸がいいと言っているのだから尊重するべきだろう。そう主張したが、もう一度殴られた。
エイミーめ、後で覚えていろよ。シャロンの前でなければ殴り返しているのに。
恨めしく思いながら渋々カラミティー侯爵家を後にした。
執務室に戻ると、昨日減らしたはずの仕事が更に増えていた。
その他に複数の報告書がある。
軽く目を通せばエイミーの文字でクラウド夫人に関する調査だろう。
が、枚数が多すぎる。
「おい、これはなんだ?」
「クラウド夫人の悪事を全て念入りに、とのことでしたので」
涼しい顔で言うエイミーに舌打ちをする。
確かに言った。だが、ひとつひとつ別の書類にする必要はあっただろうか?
くそっ。この分は全て積み重ねて求刑してやる。
シャロンの茶菓子を安物に取り替えたなんて情報はあまり重要ではない。どうせシャロンは人前で食べないのだから。
それよりも気になるのは仕立屋に注文するドレスのデザインを勝手に変更しただとか、シャロンに贈った品物を没収している件だ。
目的がわからない。
クラウド夫人が変更させたデザインのドレスは締め付けるものが多い。体型の補正と言われればどこの貴族令嬢だってやっていることだと納得できる。胸元を隠させるのは慎ましさのためと言われてしまえば納得できるだろう。だが、折れそうなほど締め付ける必要性は理解出来ない。
ジャスティンがシャロンに贈ったドレスは締め付けの少ないもの、肌の露出が多いもの、そして煌びやかなデザインが多い。
夜会で密着するなら少しでもシャロンの肌を見たいと思った。
が、今思えば愚かな判断だ。
シャロンの美しい肌をほかのやつにまで見せる必要は全くない。その意味では露出の少ないデザインに変更された点は感謝するべきなのかもしれない。
しかし問題は没収された品物の行き先だ。
報告書によれば別紙参照と番号が振られている。
別紙を探すのにまた時間が掛かるというささやかな嫌がらせを受けながら資料を読み進めれば、またあの名前が登場した。
コートニー・テンペスト。
テンペスト侯爵家の一人娘でクラウド夫人の姪。家格で言えばカラミティー侯爵家と並ぶ、というのは過去の話でアレクシスとジェフリーの人外的な働きでテンペスト侯爵家の力は衰える一方となっている。
なにより、ジャスティンがシャロンに惚れ込んだのが大きい。
年頃の娘を王子の婚約者に据え損ねた。
当然コートニー・テンペストはシャロンを快く思ってはいない。
しかし、なぜこんなことを?
シャロンから奪ったものを姪に横流しして気づかれないはずがないだろうに。
いや、単純にシャロンに対して嫌がらせをしたかっただけなのだろうか?
シャロンは繊細だ。
そして余計な方向にごちゃごちゃと考えてしまう。
もし、クラウド夫人がジャスティンからの贈り物をコートニー・テンペストに横流ししていることを知らずに、コートニー・テンペストがその品物を身に着けているところをシャロンが目撃してしまったら。
きっと彼女はこう考えるはずだ。
殿下は誰にでも同じものを贈っている。
殿下の特別は他の方なのかもしれない。
ありえる。シャロンの性格であればそのおかしな方向へ思考を向けてしまう可能性が大いに考えられてしまう。
「……ただシャロンを傷つけて楽しんでいるようにも見えるが……コートニー・テンペストはクラウド夫人が渡す品物について理解しているのか?」
正直、名前を聞けばなんとなくどこの家の人間かは思い出せるが、顔すら朧気で思い出せない。
一応名前と関係性は覚えているつもりだ。が、顔となるとシャロン以外目に入らない。
「シャロン様はあまり社交の場に出られませんからね。テンペスト侯爵令嬢がお茶会で殿下からの贈り物を自慢していたってシャロン様のお耳には入らないかもしれませんね」
エイミーは不機嫌だ。
ジャスティンがシャロンの胸を揉んだことが気に入らないと、更に書類を小分けにしてくるという自分も無駄な労力を使う地味な嫌がらせをしてくる。
「……情報はひとまとめで渡せ」
「あーあ、私もシャロン様のたわわなふわもちに触れたいのに……殿下だけ狡いと思いません?」
「お前は自分のを揉め! 自分のを!」
なぜ当然のようにシャロンの胸を揉めるとでも思っているのだろう。
興味がないから忘れていたが、エイミーは痴女だ。そうに違いない。昔から豊満なメイドを見ると揉みたいだとか顔を埋めたいなんて口にしている。
「殿下、私の慎ましやかがシャロン様のたわわと同列に語られるものだとお思いですか? 本気で?」
軽蔑の眼差しを向けられることに納得がいかない。
確かに比較するのも失礼なほどの差があるが……。
「シャロンは俺の婚約者だ。当然あの膨らみの権利は俺にある」
他の奴が、たとえ同性とは言え触れていい領域ではない。
「また最低な発言を。婚約しているからと言って女性の体に許可なく触れていいはずがないでしょう」
そう言われてしまうと正論のような気がしてしまう。
しかしそれを言えばエイミーだって勝手にシャロンに触れようとしている時点で同罪ではないだろうか。
「お前、もう俺のシャロンに近づくな」
「嫌です。私はシャロン様の味方です」
そしてジャスティンの敵だとその視線が告げているようだった。
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