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ヴィンセント3 きっと誤解している1
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今朝は随分と空気が悪かった。
アルジャンとセシリアの間になにかがあったのは明白だが、二人ともその理由を明かさない。
セシリアは大人しくアルジャンが贈ったドレスを着ていたし、外に出て恥ずかしくない程度には着飾っていた。
アルジャンはしきりにセシリアの様子を気にしているが、本人も上等な礼装でセシリアがいつ褒め称えるか待っているのかもしれない。
その程度の考えだったが、会場入り寸前でも二人の表情は暗い。
セシリアは仕方がない。元々人前に出ることが苦手で本番前はいつだって暗い表情をしている。
しかし、アルジャンのあれはなんだ。
セシリアに褒められなかっただけであんな表情をするはずがない。きっとセシリアがなにかを言ったのだろう。本人も無意識な発言で攻撃してしまったに違いない。
準備をする二人を見送る時も落ち着かない気持ちになった。
セシリアが本番を乗り切れるよう祈るばかりだ。
演奏会の演奏順はアルジャンが決めた。つまり一番手はアルジャン。理由は「常に完璧だから」だそうだ。そして大取としてセシリアを据えた。
気が重い。
見ているこちらの胃が痛む。
セシリアが緊張で震える姿が目に浮かんでしまうのだ。
少しして、イルムが舞台袖に向かうのが見えた。祖国の礼装なのだろう。華やかな装いはアルジャン以上に目立っている。それに異国の楽器は珍しく人目を惹くだろう。
開会までが妙に長く感じられた。
イルムが舞台袖に入ってからどれほどの時間が経っただろう。自分の鼓動が妙にうるさく感じられる。
本来であれば俺も参加するべき行事ではあるが、セシリアと比較されるのが嫌で断った。
音楽だけはどんなに練習を重ねたところでセシリアに劣る自覚がある。
ヴァイオリンからヴィオラに転向したのだってそうだ。ヴァイオリンではセシリアに敵わない。ヴィオラであれば教養の一環で、合奏しやすいなどと適当な理由をつけて誤魔化せる。
なにより、セシリアと合奏しやすくなる。
そんな考えをいつの間にか忘れていた。
教頭が開会を宣言する。
息が詰まりそうだ。
舞台袖でセシリアが気絶しないか不安になる。
自分はいつからあの子に対してここまで過保護になってしまっただろう。
そんなことを考えながら強く手を握っていると、舞台の上にアルジャンが現れる。
堂々とした王者の振るまい。絶対的な自信を感じる。
女子生徒たちが必死に興奮の声を抑えているのを肌で感じながら、ピアノ椅子に腰掛けるアルジャンを見守る。
曲目を見て少し驚いたが、それでも意外性はない。
アルジャンが届かない恋の歌を演奏することに対してさほど意外性がないと思うのは、時々彼がその曲を弾いている姿を目撃するからだろう。
普段の堂々としすぎた暴君の空気は消え失せ、愛する人への想いを抑圧しながら切なく歌い上げるような演奏は胸の奥を揺さぶってくるものがある。
アルジャンは表現者としても才能ある人間だと嫌でも理解させられる。
これは、セシリアも揺さぶられるだろう。
特に卑屈になりすぎている今のあの子にはこれほどの才能を前に怯んでしまうかもしれない。
会場の拍手で現実に引き戻される。
立ち上がり、一礼して舞台袖に移動する姿は既に普段のアルジャンだ。
あの苦しすぎる愛の表現がセシリアに向けてのものなのか……きっとセシリアは受け止めきれず妙な邪推をしてしまうだろう。
どうしてもそれが見えてしまうから余計に苦しく感じられる。
続いてイルムが舞台に立ったときはあまりに対照的過ぎて困惑した程だった。
アルジャンとセシリアの間になにかがあったのは明白だが、二人ともその理由を明かさない。
セシリアは大人しくアルジャンが贈ったドレスを着ていたし、外に出て恥ずかしくない程度には着飾っていた。
アルジャンはしきりにセシリアの様子を気にしているが、本人も上等な礼装でセシリアがいつ褒め称えるか待っているのかもしれない。
その程度の考えだったが、会場入り寸前でも二人の表情は暗い。
セシリアは仕方がない。元々人前に出ることが苦手で本番前はいつだって暗い表情をしている。
しかし、アルジャンのあれはなんだ。
セシリアに褒められなかっただけであんな表情をするはずがない。きっとセシリアがなにかを言ったのだろう。本人も無意識な発言で攻撃してしまったに違いない。
準備をする二人を見送る時も落ち着かない気持ちになった。
セシリアが本番を乗り切れるよう祈るばかりだ。
演奏会の演奏順はアルジャンが決めた。つまり一番手はアルジャン。理由は「常に完璧だから」だそうだ。そして大取としてセシリアを据えた。
気が重い。
見ているこちらの胃が痛む。
セシリアが緊張で震える姿が目に浮かんでしまうのだ。
少しして、イルムが舞台袖に向かうのが見えた。祖国の礼装なのだろう。華やかな装いはアルジャン以上に目立っている。それに異国の楽器は珍しく人目を惹くだろう。
開会までが妙に長く感じられた。
イルムが舞台袖に入ってからどれほどの時間が経っただろう。自分の鼓動が妙にうるさく感じられる。
本来であれば俺も参加するべき行事ではあるが、セシリアと比較されるのが嫌で断った。
音楽だけはどんなに練習を重ねたところでセシリアに劣る自覚がある。
ヴァイオリンからヴィオラに転向したのだってそうだ。ヴァイオリンではセシリアに敵わない。ヴィオラであれば教養の一環で、合奏しやすいなどと適当な理由をつけて誤魔化せる。
なにより、セシリアと合奏しやすくなる。
そんな考えをいつの間にか忘れていた。
教頭が開会を宣言する。
息が詰まりそうだ。
舞台袖でセシリアが気絶しないか不安になる。
自分はいつからあの子に対してここまで過保護になってしまっただろう。
そんなことを考えながら強く手を握っていると、舞台の上にアルジャンが現れる。
堂々とした王者の振るまい。絶対的な自信を感じる。
女子生徒たちが必死に興奮の声を抑えているのを肌で感じながら、ピアノ椅子に腰掛けるアルジャンを見守る。
曲目を見て少し驚いたが、それでも意外性はない。
アルジャンが届かない恋の歌を演奏することに対してさほど意外性がないと思うのは、時々彼がその曲を弾いている姿を目撃するからだろう。
普段の堂々としすぎた暴君の空気は消え失せ、愛する人への想いを抑圧しながら切なく歌い上げるような演奏は胸の奥を揺さぶってくるものがある。
アルジャンは表現者としても才能ある人間だと嫌でも理解させられる。
これは、セシリアも揺さぶられるだろう。
特に卑屈になりすぎている今のあの子にはこれほどの才能を前に怯んでしまうかもしれない。
会場の拍手で現実に引き戻される。
立ち上がり、一礼して舞台袖に移動する姿は既に普段のアルジャンだ。
あの苦しすぎる愛の表現がセシリアに向けてのものなのか……きっとセシリアは受け止めきれず妙な邪推をしてしまうだろう。
どうしてもそれが見えてしまうから余計に苦しく感じられる。
続いてイルムが舞台に立ったときはあまりに対照的過ぎて困惑した程だった。
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