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ヴィンセント3 きっと誤解している2
しおりを挟む何人分の演奏を聴かされただろうか。特に採点されるものではなく、順位を競い合ったりはしないが、それでも最終的に学校側の評価として最も優秀であると感じられた生徒は表彰される。
去年はセシリアが表彰されていた。真っ青な顔で表彰状を受け取りそびれ落とした姿を思い出し、不安になる。
無意識に表彰されるのはあの子だと考え、それでも今年は不安定すぎるから無理かもしれないと思い直す。
大取に白いドレスが目に入る。
リリーは随分と見られる姿に仕上げてくれた。
いや、原形は悪くないのだ。本人が俯きすぎて暗い空気を纏っていることが問題なだけで。
実際、セシリアが舞台に立てば男子生徒たちが注目する。
あんな美女が居たのかと囁く声も耳に入り、アルジャンに絞められろと思ってしまう。
俺の妹ははじめから美女だ。オプスキュールの血筋だぞ。見た目は整っている。
緊張のあまり歩き方を忘れそうになっているセシリアを見守り、思わず手を握る。
大丈夫だ。どんなに失敗してもお前の兄は一番大きな拍手をくれてやる。
アルジャンよりも。
心の中で張り合ってしまう。
緊張した空気に、一瞬の静寂。
セシリアの緊張しきった呼吸が聞こえたような気がした。
そして大きく構えられた弓。
無伴奏はセシリアにとってかつてない恐怖になっただろう。
それでも、あの子は動き出した。
はじめの音が、空気を震わせる。
そこからはセシリアの舞台だった。
歴史ある歌曲が、セシリアの心になる。
超絶技巧に乗せられたあらゆる感情が吐き出されるようだった。
問いかけ、求める心が伝わってくる。
なぜ。
どうして。
あなたは応えてくれないのか。
振り回されて抑圧され続けたセシリアがそのまま表れているようだというのに、それが愛する人に縋っているように感じられてしまう。
痛みと苦しみを伴う愛が表現されている。
人間の物とは思えない技巧で。
あまりの演奏に呼吸を忘れそうになる。
やはり俺の妹は音楽の神々に愛されすぎている。
再び静寂が訪れても誰ひとり動けない。
あまりの迫力に圧倒されてしまったのだろう。
不安そうなセシリアがおずおずと礼をしたところでようやく拍手をすることが出来た。
まだあの苦しみの空気が余韻になっている。
まばらな拍手が起き、セシリアは逃げるように舞台袖へ去って行く。
ああ、これはきっと誤解している。
出来が悪かったのだと思い悩んでしまう。
あとで花束くらい贈ってやろう。
カードを添えてやれるだけの素直さが自分にあるか少しばかり不安に思いながら閉会式を待った。
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