聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!

つくも

文字の大きさ
上 下
50 / 61

反逆のバハムート

しおりを挟む

夜の事だった。
エルクが眠っている客間のドアが開く。

「誰ですか?」

「……先生」

 訪問者はリーネだった。女の子らしいネグリジェを着ている。

「どうしたのですか? リーネさん。こんな夜遅くに」

「怖くて眠れないんです。なんだか胸騒ぎがして」

「子供ですか……」

 エルクはため息を吐く。とはいえ胸騒ぎがするのは同感だった。嫌な予感をエルクは感じていた。

「一緒に寝ちゃだめですか?」

「だめです」

 エルクは即答した。

「ええええええええええええ! なんでですかあああああああああああ!」

「しーっ! リーネさん。静かにしてください。夜ですよ。皆さん眠っています」

「どうして一緒に寝てくれないんですか?」

「あなたは年頃の男女が一緒に寝る事の意味をわかっているのですか? 男女7歳にして同衾せずというでしょう」

「どーきん?」

「すみません。あなたには難しすぎる言葉を使いました」

「先生が隣にいないと、私怖くて眠れないかもしれません」

「まったく」

 面倒くさい娘だなとエルクは正直に思った。だが、迷惑をかけるわけにもいかない。特に竜王の逆鱗には触れたくない。

「仕方ないです。隣で寝て良いですよ」

「わーい! やったーーーーーーーー!」

 リーネは無邪気にベッドの隣に入ってきた。

「まったく、仕方のない子ですね」

「先生の匂いがします。男の人の匂い」

「加齢臭がしますか?」

「ち、違います! もっと良い匂いです。大人の男の人の匂いです」

「私は煙草を嗜みませんがなんか匂いがするんですかね」

 自分でも気づかない体臭があるのか、エルクは疑問に思った。

「するんです。先生から良い匂いが。それより先生なんで背中を向けているんですか。こっち向いてくださいよ。先生の顔見たいです」

「なんなんですか。人が理性を保つ為にわざと背を向けているのに、仕方のない子ですね」

 エルクはリーネと向き合った。

「くっ……」

 リーネの胸元からはそれなりの膨らみを覗かせていた。まだ未成熟ではあるがそれでも男の性的本能を煽るに十分なものであった。

「どうしたんですか? 先生」

「なんでもありません」

「もしかして、私の事やっと女だと意識してくれるようになりましたか?」

「あなたそれを狙ってわざとここに来たでしょう」

「わかりましたか!? 流石先生です。なんでもお見通しなんですね」

「良い年の男に夜這いなんてするもんじゃありませんよ。良い年の娘が」

 エルクはため息を吐く。せめて意識しないように目を閉じた。

 なんだか嫌な予感がした。リーネの息が近づいてくる気がする。
 目を開ける。

「リーネさん、あなた私にキスしようとしてきてるでしょう」

「バレましたか。流石先生、なんでもお見通しですね」

「大人をからかうんじゃありません」

「からかってません。私は本気なんです。先生は私とキスをしたくないんですか?」

「したくないとかしたいとかいう問題ではないんです。教師と元教え子として。そして仲間として超えてはならない一線があるんです」

 特定のパーティーメンバーと恋仲になるのはあまりよろしいことではない。肉体関係を結ぶのもそうだ。痴情のもつれは思わぬ綻びとなり周囲の和を乱す。

「ちぇっ。先生の意気地なし」

「自制心のある大人を意気地なし呼ばわりですか。酷いものです。ほら、拗ねててもどうしようもないですから、早く寝ますよ」

「はーい」

 リーネは仕方なく瞳を閉じた。

 ――と、その時だった。突如、爆音と振動が響いた。

「なんですかっ! この音!」

「激しい衝撃音がしましたね。これはタダ事ではありません。リーネさん、部屋に戻って冒険用の服に着替えてください。私も着替えます」

「はい!」

「それで外に出るんです! 皆にもそう伝えてください!」

 二人は着替えて外へと向かった。

 竜城の外に出た時、そこにはフィアとフィル。それから残りのパーティーメンバーもいた。見かけないのはバハムートの姿くらいだった。

「一体、何があったんですか?」
「わかりません……」

 見ると竜城が半壊している。

「先生! あれを見てください!」
 
 天空をリーネは指す。

「あれは! なんで!」

「嘘っ! どうしてっ!」

フィアとフィルは慌てた。

天空を飛翔しているのは一匹の黒竜だった。雄大なその姿。巨大なその竜は間違いない、竜王バハムートだ。

「どうしてバハムート様が!」
「わからない。何が何だか」

 フィルとフィアは混乱していた。

 竜王バハムートは本来の姿である黒竜の姿になっていた。それどころではない。その大きな口を広げた。

 そしてフレアを放つ。

 黒い波動は自国を破壊していった。一直線に建物をいくつもなぎ倒していく。
 バハムートは守るべき対象であるはずの自国を破壊していっているのだ。

「どうして!? バハムート様がなんで!?」

「わかりません。何かあったのでしょう。恐らくは精神支配系のアイテムか何かを」

「クックックック! ご明察であります。流石は噂に名高い錬金術師殿であります」

 どこからともなく声が聞こえてきた。白燭のような肌をした美少女が姿を現す。生気のない少女。黒色のドレスを彼女は着ていた。
 彼女は今まで誰もいなかった空間から突然姿を現す。黒い霧が彼女の姿を作り出していったのだ。

「だ、誰だお前は!」

「な、なんなのよ! バハムート様に何をしたのよ!」

「お初にお目にかかります。私の名はカーミラ」

 カーミラはお辞儀をする。

「魔王の四天王が一人にして、気高き真祖のヴァンパイア。トゥルーヴァンパイアでございます」

 カーミラは真っ赤な瞳を輝かせ、鋭い牙のような犬歯を覗かせた。




しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...