聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!

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精神支配を受けるバハムート

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「あれが竜人の国だな」

「はい。左様であります」

 竜人の国から数十キロ離れたところにある高い山に二人はいた。ゼロティアとカーミラ。四天王の二人だ。常人ならとても見えないような距離だが、彼女達はいずれも人間ではない。驚異的な視力を魔力で強化する事で見えていた。

「どうする? 相手は竜人だぞ」

 相手は脆弱な人間ではない。竜人だ。竜種は強力なモンスターとして知られる。
 そのランクはA~Sといったところだ。その血を受け継いでいる竜人も当然のように強い。 固体によって無論その強さは異なるが総じて人間などより強力だ。

「確かに竜人は人間とは違い強力な存在であります。我々といえどもとても侮れるような存在ではありませぬ」

「そうだろうな」

 グウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

 ゼロティアの飼い慣らしている雷竜テトラは呻く。テトラはSランク相当の竜である。
 同族の力を感じいつも以上に興奮している様子だ。

「それに恐らくはあの竜王バハムートもまだ生きているはずであります。あいつには2000年前に結構我が魔王軍もやられましたから、大変借りがあるのであります」

「そうだな。バハムートか。確かにあいつは強かった」

「ええ。大変うざったかったであります」

 二人は2000年前の記憶を思い出す。とはいえ最近復活した彼女達にとっては昨日の事のように思い出せた。

「どうする? 暗殺するか?」

「暗殺は無理でしょう。一撃不意打ちをしたくらいで死ぬわけがありません。相手は脆弱な人間ではないのですから」

「そうだな」

「それにもっと効率的な方法があるのであります」

「なんだそれは?」

 カーミラは懐から紫色の結晶を取り出す。

「こいつは魔王様の秘宝。魔王アイテムの中でも最上位のアイテムであります。魔王様が残してくださいました寵愛。ランク『EX』の宝具であります」

「ほう……そんな切り札があったのか?」

「切り札は味方とはいえ秘密にしておくものです。使うギリギリまで。どこで聞かれてるかもわかりませぬ故。こいつはバレるとあまりよろしくない効果を持っているのであります。強力すぎるアイテムや武器は当然警戒が強くなってしまうのです」

「そうか……どんな効果なのだ? それは?」

「この結晶石(クリスタル)は反転結晶といいまして、敵の精神を上書きし、書き換える事ができるのです。つまりは敵を仲間にできるのであります」

「敵を味方に?」

「ええ。勇者アレクのように『状態異常の完全無効化』という異常なスキルでも持っていない限りは確実に相手の精神を上書きし、こちらの僕とする事ができるのであります。強力な敵に使えば使う程効果を発揮するのであります」

「ほう……確かにそれは効率が良いな」

「でしょう? クックック」

「それで反転結晶を誰に使う?」

「決まっているではありませぬか。あのバハムートに使うのであります。バハムートが敵に寝返ったとなれば竜人は大きく動揺します。バハムートは竜人の王であり、頭のようなものです。リーダーとなるバハムートが寝返ったとなれば竜人は混乱し、中には相手が竜王という事で攻撃を躊躇うものも出てくるはずです。そうなれば竜人といえど制圧できないはずがないでしょう。バハムートを除けば我々であれば倒せない程の存在ではありませぬ故」

「……恐ろしく卑怯ではあるが効率的なプランだな。これで竜人の国を容易く制圧する目処が立った」

「クックック。褒め言葉と受け取らせて頂くであります。ゼロティア、あなたはしばらくテトラと待っていてくださいませ。私が念話で指示を送ります。それまで待機をしていてくださいませ」

「わかった」

「では私は潜入してくるであります」

 カーミラは吸血鬼だ。その身を蝙蝠にも黒い霧にも変える事ができる。カーミラは容易に竜城へと侵入していった。


「誰じゃ? この不届きな気配は!」

 竜王バハムートの寝室。ベッドで寝ていたバハムートはすぐに起きた。

「流石は竜王バハムートであります。気取られるとはとても思っていなかったですが故、大層驚きました」

 笑顔をした少女が現れる。美しい少女だが人形めいた少女。生気というものを感じない死体のような顔をしていた。
 バハムートは彼女に見覚えがあった。2000年前の大戦の時に戦った、魔王四天王のうちの一人、吸血鬼カーミラである。

「貴様は、あの時の吸血鬼か。生きていたのか」

「生きていたわけではありませぬ。存在としては完全に死んでおりました。魔王様のお力が蘇ったおかげで現世に戻って来れたのであります。でも不死者を相手に生きているだの死んでるだの、おかしな話だとは思いませぬか。クックック」

「何をしにきた? わしを殺しにきたのか? 生憎だったな。いくら貴様が相手とはいえ、わしはそんな簡単に殺されはせぬぞっ」

 カーミラを目の前にしてもバハムートは一切怯む気配を見せなかった。それどころか溢れるばかりの殺気を放っていた。当然のように助けを呼びになどいかない。自分より弱い存在など助けにはならず邪魔になるだけの事だった。

「そうではありません。もっと良い事をしにきたのです」

「良い事?」

「あなた達竜人にとっては最悪で、そして我々魔王軍からすれば最高な。そんな出来事であります」

「なっ!?」

「反転結晶。あの竜王の精神を我々のものとしなさい」

 カーミラは『反転結晶』をしようする。紫色の結晶石は砕かれ、宙に散った。そしてバハムートの身体を包む。

「バ、バカなっ! ぐっ! わしの心を蝕むなど」

「大人しくしているであります。そうすればそのうちに心が消えていって楽になるであります。抗うと苦しむだけでありますよ。クックック」

「く、くそっ! わしを馬鹿にしおって。吸血鬼が」

「馬鹿になどしておりませぬ。むしろ最大限に評価しているのでありますよ。あなたとまともにやり合うと痛い目を見るのは2000年前に学習済みであります。だから今回は同じ愚を犯さないように細心の注意を払っているのであります。クックックック」

 そのうちにバハムートの目から元あった光がなくなるのを感じた。死人のような目になった。精神支配が完了したようだ。

「ふむ。完了したであります。竜王バハムートよ。魔王様の魂を封じ込めた宝玉はどこにあるのですか?」

「はい……ここにあります」

 バハムートは懐から魔王の宝玉を取り出した。黒い淀んだ闇の力を秘めた宝玉。間違いなく魔王の魂が封じ込められた宝玉である。

「なるほど。最強の竜人である竜王自らが保管する。それがもっとも安全な保管方法だと思っていたのでありましょうね。でも、今回ばかりは裏目に出ましたね。クックックック。アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 カーミラの哄笑が響き渡る。

「バハムート。命令です! その宝玉を砕きなさい」

「はい」

 バハムートは手に力を込め、宝玉をたたき割った。

「ご苦労様。2000年間も肌身離さず持っているなんて、無駄な苦労をしましたね。クックックックック! アッハッハッハッハッハッハ! 一石二鳥とはまさにこの事、笑いがとまりませぬわっ! これで残る魔王様の宝玉はひとつきり」

 魔王の復活は近い。カーミラはそう予感していた。故にその笑いは止まらなかった。

「ですが、まだやる事があります故。バハムート、命令があります。愛する国民、竜人達を私達に協力して鏖にしなさい!」

「はい……わかりました」

 意思なき傀儡となったバハムートは答える。

「クックックック! アッハッハッハッハッハ! 置き土産に竜人の国を血の色で真っ赤に染め上げてやります! アッハッハッハッハッハ! アッハッハッハッハッハッハ!」
 
 カーミラの哄笑が響く。カーミラの赤い目が尚更一層、赤く不気味に光った。
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