聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!

つくも

文字の大きさ
上 下
2 / 61

冒険者学校の記憶

しおりを挟む
エルクは思い出す。冒険者学校での記憶だ。講師をしていた時の彼女達の瞳。それは未来に希望を馳せている人間の瞳だった。その色はかつてエルクが宮廷錬金術師に対して憧れていた時の瞳と同じものだった。その無垢な瞳はエルクにとっては懐かしいものだった。

「冒険者になりたいんです」

 そう、リーネは言っていた。だが現実は甘くない。冒険者というのは夢のある稼業ではあるが当然のように多くの危険を孕んでいる。危険なモンスターに出くわす事もある。それに人間というのは必ずしも良い人間ばかりではない。同じ冒険者に危害を加えられる事もありえた。そんな事は彼女もわかっている事であろう。冒険者が危険な稼業という事も。だが、それでも彼女は冒険者を目指す事に何の躊躇いもなかった。
 エルクの講義が終わった時の事だった。エルクはリーネと会話をする機会があった。

「なぜ、そこまで冒険者になりたいのです?」
 
 純粋な疑問からエルクはリーネにそう質問をする。気になったのだ。

「よくある話です。父が冒険者で、滅多に家には帰ってこないんですけど帰ってきた時には色々と土産話をしてくれて。幼い頃の私はその土産話を夢中になって聞いていたんです。だから、父と同じ景色を見たくなって冒険者を志しました」
「そうですか。ですが現実はあなたが思ったよりよりも残酷で過酷なものです。無論、それはあなたもわかっていて目指しているのでしょうが」
「はい。その通りです。けどそういう残酷さも過酷さも含めて、父が見てきた光景なのだと思います。それを含めて私は見てみたいのです」

 リーネはそう言っていた。彼女の瞳の光は一向に衰える気配がない。その瞳の光はかつてエルクが抱いていた瞳の光と同じ者であり、昔の自分を思い出させる事となる。

「そうですか。あなたが良い冒険者になる事を私は祈ってますよ」
「はい。がんばります」

 そう、リーネは笑みを浮かべた。


「そうでした。あなた達はあの冒険者学校で教えていた」
「は、はい。そうです」
「それであなた達は何をしているのですか?」
「ここからしばらく行ったところにあるラピスラズリという名前の迷宮都市へ向かっているところなんです」

 そう、リーネは言った。彼女達は冒険者学校を卒業したのだから、冒険者となる事は自然な流れであった。

「ところで先生は何をされているのですか?」

 冒険者である彼女達が街道を歩いている事よりも宮廷錬金術師である自分(エルク)が街道を歩いている事の方が余程不自然な事であろう。当然、その疑問は出てくる。
 だが、エルクは何と答えればいいか悩んだ。正直に宮廷錬金術師の身分を追われたというべきか。恰好はつかない。だが、教え子達に嘘を教えるべきではないだろう。嘘をつくのは良くない事だ。エルクはそう考えていた。

「宮廷を追われてね。それで途方に暮れて彷徨っていたところだよ」
「え!? 先生が!? 一体どうして」
「何でも国王は錬金術の価値をわかっていないらしいんだ。それで私が部屋に閉じこもっていて高い給金を得ている給料泥棒だと独断されてね。それで王国アーガスを追放されたんだ」
「そ、そんな事があったんですか」
「情けない話だろう?」
「そんな事ありません! 先生が授業で見せてくれた錬金術は大変見事なものでした! 私、凄く感激しましたもの」
「……そうですか」
 
 エルクが見せた錬金術は単に石を鋼鉄に変える程度の初歩的な錬金術ではあったが、それでも錬金術を知らないリーネが驚くには十分なものであったのであろう。

「それで先生はこれからどうするおつもりなのですか?」
「別に何も決まっていないよ。言っては何だけど今の私はただの無職でね。今も行く宛もなく彷徨っているところだよ」
 
 幸いな事に宮廷錬金術師時代はそれなりに高い給金を貰っていた為、しばらく働かずとも生活できるだけの蓄えはあった。

「そうだったんですか。だったら先生、私達と一緒に冒険者になりませんか?」
「え? 冒険者に?」
「はい。冒険者です。錬金術のエキスパートである先生が私達のパーティーに入ってくれれば心強いです」

 冒険者。宮廷に入っていた自分からは最も遠いところにある存在であった。宮廷に入るという事は言わば籠の中の鳥になるという事だった。籠の中は安全ではあるが、それと同時に大空を自由に飛び交う鳥に憧れを抱く。エルクにとっては冒険者という稼業は言わば大空を飛び交う鳥である。無論、それは良い事ばかりではない。籠の中の鳥は飼い主に餌を与えられ、安全を確保されている。空を飛ぶ鳥は自ら餌を取りに行かなければならず、外敵に襲われる危険性もあった。だが、それでも大空を飛ぶ自由には代えがたいものがあるだろう。

「いかかですか? 先生」
「後ろの二人はどうなのですか?」

 リーネの後ろには二人の少女がいた。魔道士風の少女。それから僧侶風の少女だ。流石に全生徒の名前を覚えているわけでもないので後でそれとなく聞いておく必要性があるが。

「異議なし」
「私も特にありません」
「だそうです。後ろの二人も歓迎していますよ」
「そうですか。でしたら」

 エルクは思う。かつて自分は宮廷錬金術師、言わば籠の中の鳥であった。第二の人生を大空を飛び交う鳥。冒険者として生きてみるのも悪くない。
 行く先の無くなったエルクが彼女達の差し伸べてきた手を取る事に何の躊躇いもあるはずもなかった。

「不束者ながらお邪魔させて貰いますか」
「そんな。お邪魔だなんて。大歓迎ですよ。先生」

 エルクはリーネの差し伸べてきた手を取った。こうしてエルクは第二の人生として冒険者の道を歩む事になったのである。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...