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第7巻第2章 連携

聖剣とマヤ

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「はあああああっ!」

 マヤは気合いの声を上げながらカーサへと斬りかかる。

「甘い」

 マヤの渾身の一撃を難なく受け流したカーサは、返す刀でマヤを斬りつける。

 カーサのカウンターをすんでのところかわしたマヤは、そのまま地面を転がって距離を取った。

「マヤさん、動きが、単調。いつもより、速い、けど、そんなに、まっすぐ、じゃ、逆に、対処、しやすい、くらい」

「うーん、やっぱりそうかー……」

 マヤは聖剣を握った手に目を落とす。

 しばらくカーサと戦ってわかったことは、この聖剣は強化魔法を使わずともマヤの身体能力を大きく向上させるということだ。

 加えて、聖剣を手にした状態でマヤが自身へ強化魔法をかけると、普段より強力に身体能力や思考速度が強化される。

 と、これだけ聞くとメリットばかりのようなのだが、問題は突然身体強化の上限が上がったことでマヤ自身がついていけていない、ということだ。

「わかって、るんだ。なら、そうなら、ない、ように、頑張る、しか、ない、ね」

「まあそうなるよね。今のままじゃ、カーリを出てこさせるとかそういう次元じゃないもん。せめてカーサには勝たないと」

「ふふっ、マヤさん、私も、強く、なって、るん、だよ?」

 マヤの言葉に思うところがあったのか、カーサは珍しく好戦的な笑みを浮かべる。

 といっても、カーサは基本無表情なので、多少口角が上がったくらいなのだが、付き合いの長いマヤには、カーサが本気になったことがわかった。

「まだ本気を出してないカーサにも勝ててなかったのに、余計なこと言っちゃったかな?」

「さあ、どう、だろう、ね?」

「まあいいや、戦って確かめることにするよっ!」

 マヤは踏み込みで背後の地面に大きなくぼみを作りながらカーサへの距離を詰める。

 マヤは再び、全力の一撃をカーサへと放った。

***

「はあはあはあ…………駄目だったかあっ……!」

 マヤは汗だく泥だらけの状態でその場に倒れ込んだ。

「ふう、久々に、ちゃんと、戦った、気が、する」

 地面に大の字なって荒い息を吐くマヤを覗き込みながら、カーサは額の汗を拭った。

 マヤと対照的に、カーサは少し息が上がっており、汗を滲ませてはいるものの、まだまだ余裕がある様子だ。

「くううぅっ! カーサが余裕そうなのが悔しいっ!」

「ふふん、私、すごい、でしょ?」

 カーサは自慢気に胸を張る。

 胸の大きなカーサがそんな仕草をすると、その2つ塊は大きく上下し、下から見上げているマヤからは完全にカーサの顔が見えなくなってしまう。

(男なら眼福だったんだろうけど、すっかり女になっちゃった今では、その胸の大きさもまた悔しい……)

 マヤが2つの意味で敗北感を感じでいると、カーサがマヤへと手を差し伸べてくる。

「とり、あえず、今日は、これで、おし、まいに、しよう?」

「うん、そうだね。泥だらけだから早くお風呂に入りたいなあ」

「今度は、ルースさん、の、封印、空間で、戦おう。あそこは、土じゃ、ない、から、汚れ、ないし」

「そうだね。でも、今度は今日みたいにやられっぱなしじゃないからね?」

「それは、どう、かな? 私も、まだ、本気じゃ、なかった、り?」

「えー、うっそだー」

「ふふっ、次の、お楽しみ」

 マヤとカーサはそんな他愛もない会話をしながら、キサラギ亜人王国の中心街にある大浴場にやってきた。

 2人が多くの人で賑わう大浴場の中へと入っていくと、大浴場のエントランスホールはにわかに騒がしくなった。

 キサラギ亜人王国最強の剣士として、そしてキサラギ亜人王国一の巨乳として主に男性の間で有名なカーサと、言わずとしれた美少女国王兼魔王のマヤが、突然市民で賑わう大浴場に現れれば、騒ぎになって当然である。

 その上、国王たるマヤは全身泥だらけだし、カーサはカーサで汗で服が張り付いて身体のラインがはっきりと浮かび上がっているせいで男性の視線を釘付けにしているしで、余計に人々の注目を集めていた。

「なんか目立ってるね」

「マヤさん、王様。王様が、泥、まみれで、出て、きたら、みんな、びっくり」

「いやいや、カーサのおっぱいにみんな釘付けなんだよ。私が泥だらけでも誰も驚かないって、いつもこんな感じだし」

 そんな2人の会話に「いやどっちもだよっ」とツッコミを入れたい市民たちだったが、仮にもこの国のトップとその側近なので、誰も口には出せなかった。

「それより、早くお風呂入ろう。確かここは魔法で服も洗ってくれたはずだから服も洗いたいなあ」

 マヤは慣れた足取りで女風呂の洗い場に向かうと、泥まみれの服を洗濯の店員に預けて浴場へと向かう。

 カーサもそれに続いて浴場に入る。

 2人は髪と体を洗い、湯に身を沈めた。

「ふう……気持ちい~」

「マヤさん、おじさん、みたい」

「えぇ~、そうかなぁ~」

 マヤは緩みきった表情でお風呂を満喫する。

「そう、いえば、マヤさん、お兄、ちゃんと、どう、なりたい、の?」

「うぇっ? な、何、どういうこと?」

「ちょっと、気に、なった、から」

 カーサはマヤの正面に移動すると、マヤの顔をしっかりと見る。

「うーん、どうなりたい、か…………そういえば考えてなかったなあ……」

「考えて、なかった、の? じゃあ、お兄、ちゃんの、ことは、本気じゃ、ない、とか?」

「いや、それはないよ。私がウォーレンさんのことが好きな気持ちは本物だよ。少なくとも私はそう思ってる」

「じゃあ、なんで、その先は、考えて、なかった、の?」

「そうだなあ……考えてなかったって言うより、考えられなかったんだと思う」

「考え、られな、かった?」

「うん。ウォーレンさんから返事を貰うまでは、とにかくウォーレンさんと恋人同士になれるか、ってことだけが心配で、それ以外のことを考える余裕がなかったんだよね」

「じゃあ、今は? 考え、られるん、じゃ、ない、の?」

「そうだね、考えられると思ったんだけど……」

 マヤは思い出しただけで顔が熱くなるのを感じた。

 幸いなことに、湯に浸かっているため、それにカーサが気付くことはなかったが。

「恋人同士になっても、まだウォーレンさんのことで頭の中がいっぱいで、やっぱりこれからのことなんて考えられないかな。もうちょっと落ち着いたら考えてみるよ」

「そう、なんだ…………恋って、やっぱり、そういう、もの、なんだ…………」

「うん。私も今回が初めてだし、私の恋しか知らないから、恋が全部こういうものなのかはわからないけど…………カーサ?」

 なんだか難しい表情で黙ってしまったカーサに、マヤは首を傾げる。

 その後しばらくしてマヤの言葉に反応したカーサだったが、その日はその後もずっとどこか上の空だった。
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