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第3話 涙ではないもの
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「なあミチル、Dは殺せないが、動きを封じることは可能だ。幽霊みたいに実体がないわけじゃないからな」
アサトはちらりとキッチンの隅に置かれた冷蔵庫に目をやった。ここには電気が来ている。太陽光発電が奇跡的にまだ稼働しているようなのだ。給料も貰えないだろうに、誰かがメンテナンスをしているのだろうか。
それでも潤沢なエネルギーが用意されているわけではない。冷蔵庫には残された食料が冷凍保存されていたが、電気の供給が断たれるのが先か、食料が尽きるのが先か……考えたくはない。
アサトはその冷蔵庫の扉を開けて、中から無造作に何かを取り出した。スイカほどの大きさだ。あんなものが入っていただろうか。
「──わあっ!」
「わはは驚いたか。可愛いなあミチルは」
「……ア……サト……なんてものを」
アサトが手にしているもの、それは……生首だった。
目隠しをされ、半透明のビニール袋に入れられているそれは、なんだか現実離れしていてマネキンの頭部のようにも思える。
──とても美しい、生首。
体が存在しないのもあって、それは男とも女とも取れる見た目をしていた。そして単なる屍とするには、奇妙なまでに体裁が整っている。薄く結ばれた唇は今にも喋り出しそうに見えた。
これは、D。
人類の天敵だ。
「これは俺が以前バラした、Dの一人だ。首から下があると、動き回られて厄介なんでな」
「なんでこんな……冷蔵庫に……! 昨日はなかった」
信じられないことをする男だ。予想だにしていなかった事態に心拍数が上がる。胃から酸っぱいものが上がってくる感覚を覚え、僕は咄嗟に自分の口元を抑えた。アサトはいたずらっぽい笑みを見せると、僕からDの首を遠ざけた。
「今まで冷凍庫の奥にしまっておいたんだが、思うところあって解凍してみた。Dが恐ろしい存在であることは否定しない。だがよ、魅力的であることも否定は出来ないだろう。ただ天敵と一括りにしちまうには惜しい……ほれ、目隠しを取ってやろうか」
アサトはビニール袋からそれを取り出し、目隠しをほどいた。
すると生首は、体がないにも関わらずうっすら目を開けたではないか。解凍されたばかりだからか、睫毛にまとわりついた水分が涙のように頬を伝った。
Dの目がきょろりと動き、僕の目と合う。どきりとした。瞳と髪は闇のように黒かったが、肌の色素は薄い。白と黒とその中間色しかわからない僕にも、非常にわかりやすい配色だ。
Dにも性別はあるのだろうか。アサトに聞けばわかるのだろうが、聞きたくなかった。
僕に向かってDが薄い唇を開き、何か言葉を発しようとした。しかし声帯がうまく動作しないのか、それは声にならない。
「こんにちは、だとよ」
アサトは何故か感情を殺した声で、喋れないDの代わりに挨拶をした。
アサトはちらりとキッチンの隅に置かれた冷蔵庫に目をやった。ここには電気が来ている。太陽光発電が奇跡的にまだ稼働しているようなのだ。給料も貰えないだろうに、誰かがメンテナンスをしているのだろうか。
それでも潤沢なエネルギーが用意されているわけではない。冷蔵庫には残された食料が冷凍保存されていたが、電気の供給が断たれるのが先か、食料が尽きるのが先か……考えたくはない。
アサトはその冷蔵庫の扉を開けて、中から無造作に何かを取り出した。スイカほどの大きさだ。あんなものが入っていただろうか。
「──わあっ!」
「わはは驚いたか。可愛いなあミチルは」
「……ア……サト……なんてものを」
アサトが手にしているもの、それは……生首だった。
目隠しをされ、半透明のビニール袋に入れられているそれは、なんだか現実離れしていてマネキンの頭部のようにも思える。
──とても美しい、生首。
体が存在しないのもあって、それは男とも女とも取れる見た目をしていた。そして単なる屍とするには、奇妙なまでに体裁が整っている。薄く結ばれた唇は今にも喋り出しそうに見えた。
これは、D。
人類の天敵だ。
「これは俺が以前バラした、Dの一人だ。首から下があると、動き回られて厄介なんでな」
「なんでこんな……冷蔵庫に……! 昨日はなかった」
信じられないことをする男だ。予想だにしていなかった事態に心拍数が上がる。胃から酸っぱいものが上がってくる感覚を覚え、僕は咄嗟に自分の口元を抑えた。アサトはいたずらっぽい笑みを見せると、僕からDの首を遠ざけた。
「今まで冷凍庫の奥にしまっておいたんだが、思うところあって解凍してみた。Dが恐ろしい存在であることは否定しない。だがよ、魅力的であることも否定は出来ないだろう。ただ天敵と一括りにしちまうには惜しい……ほれ、目隠しを取ってやろうか」
アサトはビニール袋からそれを取り出し、目隠しをほどいた。
すると生首は、体がないにも関わらずうっすら目を開けたではないか。解凍されたばかりだからか、睫毛にまとわりついた水分が涙のように頬を伝った。
Dの目がきょろりと動き、僕の目と合う。どきりとした。瞳と髪は闇のように黒かったが、肌の色素は薄い。白と黒とその中間色しかわからない僕にも、非常にわかりやすい配色だ。
Dにも性別はあるのだろうか。アサトに聞けばわかるのだろうが、聞きたくなかった。
僕に向かってDが薄い唇を開き、何か言葉を発しようとした。しかし声帯がうまく動作しないのか、それは声にならない。
「こんにちは、だとよ」
アサトは何故か感情を殺した声で、喋れないDの代わりに挨拶をした。
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