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第2話 単眼の男
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「Dにだって快楽はあるのさ。散々試した」
「どうやって……」
純粋な疑問をぶつけた僕に、アサトは興味深げな視線を向ける。少し考えて誤解されたのだと察する。
「いや僕は別に、Dと何しようってわけでは。アサトじゃあるまいし。ただ、危険だろう?」
「コツさえ掴めばまあ問題ない。あまり深く息を吸い込まない。あいつらの匂いは危ういからな。──それにDの体は、俺のどんな無茶な要求にも耐え得る。楽しいぜ?」
「……あそう」
何を考えているのだこの男は。僕はいたたまれなくなり、固い椅子から腰を上げると小さなキッチンスペースへ向かった。
とても聞いていられない。アサトはよりにもよってDに、性的な行為をしたと僕に告げているのだ。しかも無茶な要求とは一体なんなのだ。まともに顔を突き合わせて話すような内容でもなかった。
アサトとはニ、三年ほどの付き合いだ。
地下に潜り共に暮らす相棒という関係性。この世の中は一人ではとても生きていけない。命が、保てない。僕のような男は特に。
生きてゆく為にお互いのメリットを提供する。アサトは筋肉で覆われた逞しい肉体を持ち、行動力もある。生きる術を持ち合わせている。そんな男が何故僕を相棒に選んだのか。
モノアイはアサトに付けて貰ったものだ。視力を奪われた経緯は残念ながら詳しく覚えていない。ただDによって負傷し、瀕死だったところを彼に救われたらしい。
「こんな姿にしてしまって、すまない」
アサトは当時本当にすまなそうに、僕に謝罪した。
しかし感謝こそすれ、恨みなどなかった。僕は命を繋いだのだ。単眼でも人の形をしているだけましとも言える。横長の黒いゴーグルのような土台の上に、直径2センチほどの丸い機械の目が付いていた。
助けられてばかりの僕にこれといった取り柄はなかったが、アサトに娯楽を提供している。
拙い文章を書いている。先程ワードプロセッサに入力していたのはそれだ。それを読むのが、アサトの娯楽だった。
世界がこんなことになっても、娯楽は必要なのだろう。……果たしてこれは娯楽なのだろうか?
まあ、なんだかんだ、そんな理由で一緒にいる。
「アサト、何か飲む?」
「酒があれば」
「昼間から? ……それに冷蔵庫に酒は……」
まだ冷蔵庫の中身を確認したわけではないが、ストックはないはずだ。
昼間も何もない地下空間でも、僕の腕時計はまだ午前中だったし、きっと地上に出れば太陽の光が満ちているに違いない。
ここでは、地上の天気も季節もわからない。無味乾燥なコンテナを繋いだ、一時的な避難場所のようなスペース。あまり広くもないこのコンテナで、僕たちは慎ましく暮らしていた。
限られた空間に、アサトがどこかから拾ってきたパーツで組み立てた簡易な作りのベッドが一つあり、僕たちはそこでひっついて寝ている。
たまにその狭いベッドで、アサトと僕はお互いの性処理をする。
アサトは性欲の強い男で、自分より華奢な肉体を持つ僕を好きなように扱うのは容易だった。もしかしたらそれも込みの娯楽なのかも知れない。アサトに初めて求められた時は面食らったが、次第に慣れたし行為自体は嫌いではなかった。
そこでふと気づく。
昨日Dをヤったと言ったアサトは、昨晩僕とも行為に及んだではないかと。
Dを抱いたその体で、僕のことも抱いたのか。それを考えたらわけのわからない感情が芽生えて、やりきれなくなった。ふつふつとした衝動が体の奥底から湧いてきたが、それがどういった種類の感情であるのか、どうにも判断がつかなかった。
「どうやって……」
純粋な疑問をぶつけた僕に、アサトは興味深げな視線を向ける。少し考えて誤解されたのだと察する。
「いや僕は別に、Dと何しようってわけでは。アサトじゃあるまいし。ただ、危険だろう?」
「コツさえ掴めばまあ問題ない。あまり深く息を吸い込まない。あいつらの匂いは危ういからな。──それにDの体は、俺のどんな無茶な要求にも耐え得る。楽しいぜ?」
「……あそう」
何を考えているのだこの男は。僕はいたたまれなくなり、固い椅子から腰を上げると小さなキッチンスペースへ向かった。
とても聞いていられない。アサトはよりにもよってDに、性的な行為をしたと僕に告げているのだ。しかも無茶な要求とは一体なんなのだ。まともに顔を突き合わせて話すような内容でもなかった。
アサトとはニ、三年ほどの付き合いだ。
地下に潜り共に暮らす相棒という関係性。この世の中は一人ではとても生きていけない。命が、保てない。僕のような男は特に。
生きてゆく為にお互いのメリットを提供する。アサトは筋肉で覆われた逞しい肉体を持ち、行動力もある。生きる術を持ち合わせている。そんな男が何故僕を相棒に選んだのか。
モノアイはアサトに付けて貰ったものだ。視力を奪われた経緯は残念ながら詳しく覚えていない。ただDによって負傷し、瀕死だったところを彼に救われたらしい。
「こんな姿にしてしまって、すまない」
アサトは当時本当にすまなそうに、僕に謝罪した。
しかし感謝こそすれ、恨みなどなかった。僕は命を繋いだのだ。単眼でも人の形をしているだけましとも言える。横長の黒いゴーグルのような土台の上に、直径2センチほどの丸い機械の目が付いていた。
助けられてばかりの僕にこれといった取り柄はなかったが、アサトに娯楽を提供している。
拙い文章を書いている。先程ワードプロセッサに入力していたのはそれだ。それを読むのが、アサトの娯楽だった。
世界がこんなことになっても、娯楽は必要なのだろう。……果たしてこれは娯楽なのだろうか?
まあ、なんだかんだ、そんな理由で一緒にいる。
「アサト、何か飲む?」
「酒があれば」
「昼間から? ……それに冷蔵庫に酒は……」
まだ冷蔵庫の中身を確認したわけではないが、ストックはないはずだ。
昼間も何もない地下空間でも、僕の腕時計はまだ午前中だったし、きっと地上に出れば太陽の光が満ちているに違いない。
ここでは、地上の天気も季節もわからない。無味乾燥なコンテナを繋いだ、一時的な避難場所のようなスペース。あまり広くもないこのコンテナで、僕たちは慎ましく暮らしていた。
限られた空間に、アサトがどこかから拾ってきたパーツで組み立てた簡易な作りのベッドが一つあり、僕たちはそこでひっついて寝ている。
たまにその狭いベッドで、アサトと僕はお互いの性処理をする。
アサトは性欲の強い男で、自分より華奢な肉体を持つ僕を好きなように扱うのは容易だった。もしかしたらそれも込みの娯楽なのかも知れない。アサトに初めて求められた時は面食らったが、次第に慣れたし行為自体は嫌いではなかった。
そこでふと気づく。
昨日Dをヤったと言ったアサトは、昨晩僕とも行為に及んだではないかと。
Dを抱いたその体で、僕のことも抱いたのか。それを考えたらわけのわからない感情が芽生えて、やりきれなくなった。ふつふつとした衝動が体の奥底から湧いてきたが、それがどういった種類の感情であるのか、どうにも判断がつかなかった。
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