①天乃屋兄弟のお話

あきすと

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初恋の自覚(サンプル版)

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珍しく、朝から雨が降り続いている休日。
午前中には兄貴と動画を録って、編集作業をしている中
「…っ!?」
雷鳴と稲光が、すぐ近くに感じられた。
俺は、隣に座っていた兄貴に飛びつきそうになるのを
耐えていたけど。
『これ、近くに落ちたんだろうな。』
なんて、平然とした顔で言うから拍子抜けしていた。

雷はどうにも苦手だった。過去の事をどうしても思い出すから。

兄貴はレイアウトを自分で直しながら、俺を見てニコリと笑う。
『そっかぁ、星明の臍取られそうで怯えてるのか。』
「ぇ…?馬鹿言ってないでさ。ここら辺は停電しないかな?」
『そんな簡単には、起きないでしょ。まぁ、今起きたら俺は
ただ笑うだけなんだけど。』

眼鏡を掛けて、コツコツと地道な作業を順番にしている兄貴は
いつもの雰囲気と少し違って、これはこれで見てるのが
スキでもある。

「星明は、まだあの事思い出すのか…さっさと忘れろ。」


あなたが居ない日。


今から、数年前。兄貴が学生だった頃の話。
俺がようやく中学生になって兄貴との生活にも何となく
慣れて来ていた。

あの日の朝も、今日みたいに朝からずっと雨で時々雷雨に
見舞われていた。

午後の授業が始まるって時に、担任の先生が血相を変えてクラスに
飛び込んで来て。俺を探し当てるなり、今すぐに病院に…と言われて
俺は頭が真っ白になった。

両親が国内に居ないせいで、連絡が取りようも無くて俺に知らせてくれたのだろう。
俺は席を立ってすぐに鞄を腕に引っかけ、廊下に出てとにかく走ったのを
覚えている。一旦家に帰ってタクシーの会社に連絡をし(商店街に事務所があるのが助かった)
着替えを念の為準備をした。兄貴からは、何かあった時の為のお金をしまってある
小さな金庫を預かっているから、そこから手持ちのお金にと数万を財布に入れた。

タクシーは、すぐにウチの事務所前に来てくれた。
運転手さんは、何か言いたげにしている。
行き先を告げた時点で、予測が出来たんだと思う。

市内の総合病院にタクシーが到着して、お金を支払ってから少し大きめの
バッグを持って俺はお礼を言ってから、降車した。

案外冷静な自分が居る事に、自分でも驚いている。
総合受付で、さっき先生に聞いた事と兄貴の名前と
学校名を伝えた。

待合室で待っていると、母親程の世代かな?と思う看護師さんが声を
掛けてくれた。兄貴は、今すぐには会えないと言われて。
そんな気はしていたから、ショックと言うよりも
早く会いたい一心で、言葉に頷いていた。

久し振りに、家族以外の人に頭を撫でられて。
堪えていた筈の涙が、ぽろぽろ零れてしまう。
まだまだ自分は子供なんだと、イヤになりながらハンカチで涙を拭く。
午後の病院は、しんと静かで。
外来の患者さんが居ないと、本当に待合室もガラガラだ。

看護師さんが言うには、お昼頃に外に買い出しに行こうとした際に
車と接触事故を起こしたらしい。
(ちなみに、校外にお昼を買いに行く事は禁止されてたりする)
外傷は、それ程ひどくは無いものの精密検査を兼ねて入院はしなければいけないと
言われた。

「…何してんだよ…ばか…」
夕方をまわった頃、もう一度看護師さんが様子を観に来てくれて
左腕を骨折した事を告げられた。後は、少し顔や頭部の擦り傷。
入院の手引きを渡されて、簡単に説明を受けた。

頭部の検査も済み、より細かなものは明日以降と言われて
病棟と、部屋番号を聞いた。
よく、お礼を伝えて看護師さんとはそこで別れた。

ちょっと、病室に行く前に休憩コーナーで飲み物を買って
少し飲む事で気を落ち着けた。

心配よりも、少し時間が経って今は腹が立っていた。
だって、そうでしょ?
お弁当、俺が作ったの持って行ってるはずなのに?
なんで近くのコンビニに行く必要があるのか。

駄目だなぁ、今きっと兄貴の顔見たらすぐに責めちゃうかもしれない。
お茶を飲んで、バッグに仕舞った。
エレベーターで移動して、兄貴が入院している階に到着する。
教えられた部屋は、個室になっていて一応軽くノックをしてから
ドアを静かに開けた。すぐにカーテンが目の前に飛び込んで来た。

ベッドを回り込んで、そっとカーテンレールを引いた。
「……」
ショックだった。右側の頭に包帯が巻かれていて、大きなガーゼが右目を隠すほどに
宛てられている。目は大丈夫らしく、ホッとした。
疲れて、眠っている感じだった。

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