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月夜の誕生日
休日にデートしつつの誕生日。
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今日は、兄貴の誕生日だ。
お月見、2度目の十三夜にもあたる。
なんて、素敵な日に誕生日を迎えるのだろうと
名前を体現している様な兄貴に、思わずうっとりしてしまう。
『星明、一緒に出掛けるか。』
午前中の内から一緒に外に出かける。
風が、すっかり秋らしく冷たくなって来ている。
いつまでも残暑が続いている気がしていたけれど。
人知れず、季節は深まっていた事を身をもって味わう。
「秋の匂いがする…」
『金木犀の香りだな。』
「するする、良いね。ふわ~ってして来て」
『自然な香りが、やっぱり一番華やぐな。』
バス停の停留所で、バスを待っている。
市内に行くには、電車の方が早いけれど。
バスに揺られてまったりと兄貴と、たわいない話をしていると
時間はあっという間に流れていく。
「座席のシートがあったかいね。」
『今日、天気いいからな。でも、午後からは雨っぽいケド。』
「それで、兄貴は傘持って来たんだね。」
『降られると、面倒だからな。俺の髪は特に…。』
「でも、1本しかないんだったら…一緒に相合傘だね。」
『俺は、降らない方が良いな。』
「夜の月が、見れなくなるのは寂しいよ。」
後部の座席で、道路の揺れを体に受けながら
久し振りに休日を過ごしている。
今年の夏は、色々あって…きっとこの先も
色々はあるんだろうけど。
兄貴の出生に関わる事だから、かなり心が揺れた。
2週間ぐらい、離れて過ごした事なんて今まで無かったから。
もしかしたらもう、一緒には暮らせなくなるのか。
なんてかなり悲観的になったりもしたけれど。
今、隣にこうして兄貴が居る。
この事実だけで充分だ。
季節が深まる時期には、一緒に兄貴の誕生日のお祝いをして。
また、日常が戻って来る。
俺にとっての日常が、いかに特別なのか。
「ケーキ、焼こうよ。兄貴。」
『たまには、買って食べるのも…それに、星明だって大変だろう?』
「全然、むしろ…毎年楽しみにしてるよ。」
『もう…それを聞けるだけで、俺からすればプレゼントみたいな物だけど。』
バスの車内は、日中の平日だから割と空いている。
乗車して来る人も、まばらだ。
みんな、それぞれこれからどこに向かうのか。
視線で、色んな人の背中を見送る。
さっきから結構視線を感じるのは、気のせいかな?
兄貴は、すっかりバスに揺られていて眠くなったのか。
俺に寄りかかりながら、ほぼ寝てしまった。
肩に、兄貴の頭が乗っている。
ここの所、出張イベントに参加したりする機会が多かったから
休み明けは、なるべく休みを取ってもらう様にしている。
「…風、気持ちいい。」
少しだけ明いている窓の下部から風が吹き込んでいる。
ゆらゆらする兄貴が、なんだか大きな子供みたいに思える。
そろそろ降車しなければいけない。
降車ブザーを押すと、
『…ねっむ…』
兄貴が俯いていた顔を上げる。
「次で降りるよ。」
『電子決済で済ますわ。』
「俺は、小銭たくさんあるから現金で払う。」
『星明、カード渡して。』
何故か俺の財布に兄貴の電子決済カードが入っているから
取り出して、兄貴に手渡す。
「使う事も無いもんな~商店街だと。」
『一応、対応はしてるみたいだけどな。』
市役所前で降車して、なんだか急に現実感が湧いて来る。
「まさか、兄貴がプラネタリウムに行きたいって言うなんて。」
『占いでは天体めっちゃ関係あるけどな。』
「そっか、あながち無関係でもないんだよね。」
今日の兄貴の服装は、いつもの鑑定用衣装とは違って
まるで学校の先生みたいな雰囲気だ。(ジャージでは無いよ)
『大人2枚でお願いします。』
兄貴は受付で鑑賞券を購入してくれた。
「俺が出すのに…」
『まぁ、同じ事だろう?星明からも俺からも。』
「それ言われるとね~…。ありがとう。」
もうしばらくすると、シアターホールの方でプラネタリウム上映が開始される。
それまでは、常設展示室で星空に関する掲示を読んだりして過ごす。
さっきから、なんとなく館内がバタバタしている気がする。
『ここの、解説…確か俺の後輩がしたりしてて』
「え、そうなの?学芸員さん?」
『…アイツ、どうなんだろう。大学院卒ではあるけど。』
「今はしてないんだ?」
『今、何して暮らしてるのかももう知らないんだよな。』
兄貴が、後輩の話をするなんてかなり珍しい。
俺は、なんとなく兄貴を見上げて
「きっと、何か…兄貴からすれば引っかかる存在なんだね。」
薄暗いフロアーを歩きながら、フフッと笑うと
『そこに、確かにいるのに…今にも泡になって消えそうな。不思議なヤツなんだよ。』
「なんだか、人魚姫みたい。」
一体どんな人なんだろうと、想像してみる。
儚げなイメージが真っ先に浮かぶ。
『星と海が好きなヤツでさ。俺もきっと、少なからず影響は受けた気がする。』
「…まだまだ、兄貴の事で知らない事があるんだよね、俺も。」
フロアー内に人はほとんど居なくて、さながら貸し切り状態になっている。
ぽそぽそと交わす言葉は、静かに重くて。
流れる解説の音声に、気が持って行かれる。
『秋の大四角形が、今日のプラネタリウムで観られる。』
「三角形じゃないんだね。」
『うん。秋は四角。俺も、読むまで忘れてた。』
子供の頃から見上げれば、星空はすぐ真上にあったのに。
ついつい本ばかり読んでしまって、下ばかり向く様になっていた。
兄弟ともに、自分が興味のある物事に対しては
向学心が向く所はきっと同じなんだと思う。
【続きます】
お月見、2度目の十三夜にもあたる。
なんて、素敵な日に誕生日を迎えるのだろうと
名前を体現している様な兄貴に、思わずうっとりしてしまう。
『星明、一緒に出掛けるか。』
午前中の内から一緒に外に出かける。
風が、すっかり秋らしく冷たくなって来ている。
いつまでも残暑が続いている気がしていたけれど。
人知れず、季節は深まっていた事を身をもって味わう。
「秋の匂いがする…」
『金木犀の香りだな。』
「するする、良いね。ふわ~ってして来て」
『自然な香りが、やっぱり一番華やぐな。』
バス停の停留所で、バスを待っている。
市内に行くには、電車の方が早いけれど。
バスに揺られてまったりと兄貴と、たわいない話をしていると
時間はあっという間に流れていく。
「座席のシートがあったかいね。」
『今日、天気いいからな。でも、午後からは雨っぽいケド。』
「それで、兄貴は傘持って来たんだね。」
『降られると、面倒だからな。俺の髪は特に…。』
「でも、1本しかないんだったら…一緒に相合傘だね。」
『俺は、降らない方が良いな。』
「夜の月が、見れなくなるのは寂しいよ。」
後部の座席で、道路の揺れを体に受けながら
久し振りに休日を過ごしている。
今年の夏は、色々あって…きっとこの先も
色々はあるんだろうけど。
兄貴の出生に関わる事だから、かなり心が揺れた。
2週間ぐらい、離れて過ごした事なんて今まで無かったから。
もしかしたらもう、一緒には暮らせなくなるのか。
なんてかなり悲観的になったりもしたけれど。
今、隣にこうして兄貴が居る。
この事実だけで充分だ。
季節が深まる時期には、一緒に兄貴の誕生日のお祝いをして。
また、日常が戻って来る。
俺にとっての日常が、いかに特別なのか。
「ケーキ、焼こうよ。兄貴。」
『たまには、買って食べるのも…それに、星明だって大変だろう?』
「全然、むしろ…毎年楽しみにしてるよ。」
『もう…それを聞けるだけで、俺からすればプレゼントみたいな物だけど。』
バスの車内は、日中の平日だから割と空いている。
乗車して来る人も、まばらだ。
みんな、それぞれこれからどこに向かうのか。
視線で、色んな人の背中を見送る。
さっきから結構視線を感じるのは、気のせいかな?
兄貴は、すっかりバスに揺られていて眠くなったのか。
俺に寄りかかりながら、ほぼ寝てしまった。
肩に、兄貴の頭が乗っている。
ここの所、出張イベントに参加したりする機会が多かったから
休み明けは、なるべく休みを取ってもらう様にしている。
「…風、気持ちいい。」
少しだけ明いている窓の下部から風が吹き込んでいる。
ゆらゆらする兄貴が、なんだか大きな子供みたいに思える。
そろそろ降車しなければいけない。
降車ブザーを押すと、
『…ねっむ…』
兄貴が俯いていた顔を上げる。
「次で降りるよ。」
『電子決済で済ますわ。』
「俺は、小銭たくさんあるから現金で払う。」
『星明、カード渡して。』
何故か俺の財布に兄貴の電子決済カードが入っているから
取り出して、兄貴に手渡す。
「使う事も無いもんな~商店街だと。」
『一応、対応はしてるみたいだけどな。』
市役所前で降車して、なんだか急に現実感が湧いて来る。
「まさか、兄貴がプラネタリウムに行きたいって言うなんて。」
『占いでは天体めっちゃ関係あるけどな。』
「そっか、あながち無関係でもないんだよね。」
今日の兄貴の服装は、いつもの鑑定用衣装とは違って
まるで学校の先生みたいな雰囲気だ。(ジャージでは無いよ)
『大人2枚でお願いします。』
兄貴は受付で鑑賞券を購入してくれた。
「俺が出すのに…」
『まぁ、同じ事だろう?星明からも俺からも。』
「それ言われるとね~…。ありがとう。」
もうしばらくすると、シアターホールの方でプラネタリウム上映が開始される。
それまでは、常設展示室で星空に関する掲示を読んだりして過ごす。
さっきから、なんとなく館内がバタバタしている気がする。
『ここの、解説…確か俺の後輩がしたりしてて』
「え、そうなの?学芸員さん?」
『…アイツ、どうなんだろう。大学院卒ではあるけど。』
「今はしてないんだ?」
『今、何して暮らしてるのかももう知らないんだよな。』
兄貴が、後輩の話をするなんてかなり珍しい。
俺は、なんとなく兄貴を見上げて
「きっと、何か…兄貴からすれば引っかかる存在なんだね。」
薄暗いフロアーを歩きながら、フフッと笑うと
『そこに、確かにいるのに…今にも泡になって消えそうな。不思議なヤツなんだよ。』
「なんだか、人魚姫みたい。」
一体どんな人なんだろうと、想像してみる。
儚げなイメージが真っ先に浮かぶ。
『星と海が好きなヤツでさ。俺もきっと、少なからず影響は受けた気がする。』
「…まだまだ、兄貴の事で知らない事があるんだよね、俺も。」
フロアー内に人はほとんど居なくて、さながら貸し切り状態になっている。
ぽそぽそと交わす言葉は、静かに重くて。
流れる解説の音声に、気が持って行かれる。
『秋の大四角形が、今日のプラネタリウムで観られる。』
「三角形じゃないんだね。」
『うん。秋は四角。俺も、読むまで忘れてた。』
子供の頃から見上げれば、星空はすぐ真上にあったのに。
ついつい本ばかり読んでしまって、下ばかり向く様になっていた。
兄弟ともに、自分が興味のある物事に対しては
向学心が向く所はきっと同じなんだと思う。
【続きます】
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西条ネア
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