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第2話 一通のFAX
しおりを挟むそれは、一通のFAXが始まりだった。
そのFAXはソフトウエア開発業組合から会社宛のものだった。
たまたま目にした俺は、そのFAXの内容も重大性も理解できなかった。
FAXの内容は、ソフトウエア産業が雇用調整助成金の対象業種になったという内容だった。
初めて見た雇用調整助成金という言葉の意味など知らなかったし、これが俺の人生が変わるきっかけになるとも思わなかった。
雇用調整助成金とは「おたくの業種は不況での落ち込みが著しいから、お上がちょっとだけ面倒みてあげますよ」というもので、例えば仕事がなくて自宅待機にした社員の給料の一部を政府が負担するなど、いわば日本国認定不況業種のお墨付をもらったわけだ。
FAXの中の「自宅待機」という文字を見ても、ウチの会社には関係ないことだとしか思わなかった。
そのFAXを元の場所に戻して、俺は自分の机に戻った。
それから数ヶ月後、冬のボーナスが支給された。
ウチのような中小のソフト会社は基本給が安く、残業手当がないと生活できない会社が多かった。
また恒常的に月40時間前後は残業しないと終わらない仕事量があった。
ウチの会社もご多分に漏れず基本給は安いし、当然ボーナスも安かった。
しかしこの冬のボーナスは特別、なんと前年比25%アップだったのだ。
加えてこの年の社員旅行は創立以来初めての海外旅行、会社はイケイケムード一色だった。
もともと安いボーナスが25%上がったところで世間並みには程遠かったのだが、それでも嬉しかったし懐はうるおった。
ささやかながら我が世の春、という感じだった。
社員旅行を奮発して海外にしたのは、社員への還元ではなくリクルート対策だった。
成長を続けるソフトウエア産業は人手不足が続いており、特に大学卒業の新卒は喉から手が出るほど欲しかった。
しかしウチのような中小企業はなかなか振り向いてもらえず、そこで会社が考え出したのが社員旅行を海外旅行にすることだ。
一度でも海外旅行に行っていれば求人する上で有利になる、これといって取り柄のない会社が考え出した手だ。
だから毎年海外に行けるとは誰も思っていなかったが、それでもボーナスは増えたし海外にも行けたし、会社も社員も明るい未来しか考えていなかった。
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