唾棄すべき日々(1993年のリアル)

緑旗工房

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第1話 退職願

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「ベテランや、おぬしみたいな中堅どころの仕事はあるんだよ。
だけど若い連中の仕事がないんだ、全くないんだ。」

雨の中たどり着いた会社近くの喫茶店の中、上司の業田課長が会社の現状を話していた。

「それで、おぬしの話は?」

話が一段落したときに、俺に振ってきた。

「実は7月15日付けで退職させていただきたいと思いまして」

15日は給料の締め日だったので、この日なら経理が少しは楽かなと思って選んだだけで、とにかく1日も早く辞められればいつでもよかった。

セーラムライトの煙をはきだしながら、業田課長がつぶやいた。
「まあ、しかたがないか」

30歳を過ぎた男が退職を願い出るという重要な話だ、喫茶店でする話ではない。
しかし徹底した経費削減で社内には会議室などなくなっていた。
 
お互いに淡々と穏やかに話は続き、7月25日で退職することになった。

「まあ、おぬしの人生のことだし今の状況だと慰留するといってもな」
業田課長の言葉の中に、今の、そして今後の会社の見通しの暗さが見えていた。


俺は紫煙の向こうに入社した10年前を思いうかべていた。


入社当時、社員数はまだ50人程度と今の半分以下でコピー機も一台しかなかった。
ソフトウエア開発業のくせにコンピュータもなかった。
いや、正確にいえば一台だけあった。
それは漢字は全く使えない上にOSも貧弱で、英数字のテキスト入力程度しか使い道のない使えない業務用パソコンだった。
ワープロも導入されておらず、書類は全て手書きだった。

俺が入社して2年後にワープロ専用機を導入、ようやく会社の文書が手書きからワープロに変わった。
その第一号が給料袋に同封されていた忘年会のお知らせで、文末には「このお知らせはワープロで作りました」と誇らしげに書いてあった。

やがて業務用パソコンも漢字が使える機種に買い替えて、遅まきながら給与計算もパソコン処理になった。
市販ソフトを買ってカスタマイズしたのはいいが給料日までにプログラムミスを取り切れず、残業単価が間違っていり会社名の後ろが文字化けして!マークが印字されていた。
ソフト屋がカスタマイズ失敗とは情けない話だが、それでも嬉しかった。
ようやく会社らしくなってきたことが嬉しかった。
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