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続編/燈子過去編
欲しかった時間(燈子)―1
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「会いたくなかっただろうに、会ってくれてありがとう」
久しぶりに聞く織田さんの声はどうしたって耳に心地よく響いてしまう。懐かしさからか、記憶がそうさせるのか、嫌いで別れたわけではない、だからこそ余計会うのが切なかった。
仕事終わりに駅前の喫茶店で待ち合わせた。待ち合わせの五分前に着いたのに織田さんはもう先に着いていて、腕時計を五分早く設定するほど時間に厳しい人だったと思い出した。
「織田さんは……お元気でしたか?相変わらずお忙しいですか?」
「うん、まぁ……仕事はそれなりに。今回またここの会社に来ることになったのも本当に偶然で。梶山さんにも会えて挨拶がてら久しぶりに軽く世間話してたんだ。その時聞いて、お母さんのこと……大変だったね」
「……いえ、人の命なんてわかりません。母は体調の波もあったし、生き急ぐみたいに忙しい人でしたから」
「それでも……本当に辛い時に支えてやれなかった、ごめん」
店内に流れるクラシックが沈黙の中でやたら響く。昔ならきっとそんな話をしていた気がする。織田さんはクラシックが好きな人だから。でももう今はあの頃の二人じゃない、好きなものを語り合う関係は終わったのだ。
「お母さんの話を聞いて、君が職場を離れたことも聞いた。もしかしたら会うかもしれない、そう思っていた現実は起きないって分かった時に思わずメールを送っていた。会えないと思っていたから会いたいと、会うチャンスを作らないともう会えないんだって思ったから……勝手を承知で送りつけた。返事が来るとは思わなかったし思ってなかった、でも言わずにはいれなかった」
「会って、なにを話したかったんですか?もう何もかも終わってるじゃないですか。今さらです、十年です」
「……そうだね、気づいたらそんなに経ってるんだね。でも毎年雨の季節は思い出していた、僕にとってはそれくらい思い返す時間があった。だからこの季節にここに来るのは会えるタイミングだと思ったんだ」
「……どうして、離婚されたんですか?」
あなたが幸せになるならと思った時もあった、私が身を引いて、あなたが選ぶ道が正しいのならそれも諦められるキッカケになる、そう納得する日だってあったのに。
「うまくいくわけなかった、彼女との結婚は契約みたいなものだったから」
「え?」
「仕事絡みで知り合ってるし、上司と深い縁のある社長だったから間に上司も入ってのほとんど見合いみたいな出会い方だった。彼女は僕を一目見て気に入ってくれたらしいけど、その時僕は君とも付き合っていたし断る前提で。その時抱えていた案件が少し厄介で、仕事に手を取られていたら勝手に話が進んでいた。もう取材も受けて公表されるとまで言われて流石に焦って止めてくれと頼んだけれど、事務所の知名度を上げるためとこれからの相手との付き合いを考えたら断るメリットがないから当然聞いてもらえない。そこに言われたよ、僕もちょうどキャリアアップの時期だった、将来のことをよく考えろって」
織田さんはずっと目を伏せて話をしてくれている。私だけがずっと織田さんを見つめていた。ずっと、もう目は合っていない。
「君と天秤にかけた。言い訳なんかない、謝る言葉しか言えなかったのはそれが事実だから。僕は仕事を選んだ」
久しぶりに聞く織田さんの声はどうしたって耳に心地よく響いてしまう。懐かしさからか、記憶がそうさせるのか、嫌いで別れたわけではない、だからこそ余計会うのが切なかった。
仕事終わりに駅前の喫茶店で待ち合わせた。待ち合わせの五分前に着いたのに織田さんはもう先に着いていて、腕時計を五分早く設定するほど時間に厳しい人だったと思い出した。
「織田さんは……お元気でしたか?相変わらずお忙しいですか?」
「うん、まぁ……仕事はそれなりに。今回またここの会社に来ることになったのも本当に偶然で。梶山さんにも会えて挨拶がてら久しぶりに軽く世間話してたんだ。その時聞いて、お母さんのこと……大変だったね」
「……いえ、人の命なんてわかりません。母は体調の波もあったし、生き急ぐみたいに忙しい人でしたから」
「それでも……本当に辛い時に支えてやれなかった、ごめん」
店内に流れるクラシックが沈黙の中でやたら響く。昔ならきっとそんな話をしていた気がする。織田さんはクラシックが好きな人だから。でももう今はあの頃の二人じゃない、好きなものを語り合う関係は終わったのだ。
「お母さんの話を聞いて、君が職場を離れたことも聞いた。もしかしたら会うかもしれない、そう思っていた現実は起きないって分かった時に思わずメールを送っていた。会えないと思っていたから会いたいと、会うチャンスを作らないともう会えないんだって思ったから……勝手を承知で送りつけた。返事が来るとは思わなかったし思ってなかった、でも言わずにはいれなかった」
「会って、なにを話したかったんですか?もう何もかも終わってるじゃないですか。今さらです、十年です」
「……そうだね、気づいたらそんなに経ってるんだね。でも毎年雨の季節は思い出していた、僕にとってはそれくらい思い返す時間があった。だからこの季節にここに来るのは会えるタイミングだと思ったんだ」
「……どうして、離婚されたんですか?」
あなたが幸せになるならと思った時もあった、私が身を引いて、あなたが選ぶ道が正しいのならそれも諦められるキッカケになる、そう納得する日だってあったのに。
「うまくいくわけなかった、彼女との結婚は契約みたいなものだったから」
「え?」
「仕事絡みで知り合ってるし、上司と深い縁のある社長だったから間に上司も入ってのほとんど見合いみたいな出会い方だった。彼女は僕を一目見て気に入ってくれたらしいけど、その時僕は君とも付き合っていたし断る前提で。その時抱えていた案件が少し厄介で、仕事に手を取られていたら勝手に話が進んでいた。もう取材も受けて公表されるとまで言われて流石に焦って止めてくれと頼んだけれど、事務所の知名度を上げるためとこれからの相手との付き合いを考えたら断るメリットがないから当然聞いてもらえない。そこに言われたよ、僕もちょうどキャリアアップの時期だった、将来のことをよく考えろって」
織田さんはずっと目を伏せて話をしてくれている。私だけがずっと織田さんを見つめていた。ずっと、もう目は合っていない。
「君と天秤にかけた。言い訳なんかない、謝る言葉しか言えなかったのはそれが事実だから。僕は仕事を選んだ」
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