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続編/燈子過去編

予期せぬ出会い(高宮)―1

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 感じていた違和感は確実なのに原因がまったくわからなくて正直困っていた。なにをあんなに不安になっているのだろう。彼女から感じる言いようのない不安、それをただ単純に感じるが彼女がその不安に触れてくることはない。


(城内さんの名刺?いや、この違和感はもう少し前からあったはずだ)


 キッカケがわからない、そのタイミングも俺は見落としている。
 付き合う前に俺が持っていた不安に似ている気はする、でもそれとはまた少し違う気もして余計に考えてしまう。


 カップ一つのことにあんなに必死になって食いつくからさすがに驚いた。冷静な彼女があんな風に取り乱したのは初めてで、それも理由が割れたカップだ。
 自分のものじゃないからショックだったのか、申し訳なさや後悔よりも納得できない、そんな感じでそのカップへの執着さが少し度を超えていた。
 とりあえず約束した通り仕事を定時で終えて帰ろうとしたら部長に呼ばれて時間をロスしてしまう。走って正門を出ようとしたらまた声をかけられた。急いでいるときほど声をかけられる、そんなうんざりした気持ちで振り向いたら予想外の人だった。


「お疲れ様です、最後に挨拶も出来なかったから会えてよかったな」
「織田さん、お疲れ様です。あれ、今日って……」
「いえ、大した用事じゃなくてもう済みました、以前お世話になっていた方に挨拶に来ただけです」
「前って……あぁ、関連会社の方の?」
「ええ。もしかして急いでます?よかったら送りましょうか?」
 そう言って織田さんはフッと笑った顔の横に車のキーをチラつかせた。


「おー、かっこいい!BMW!」
「いや、やっぱり国産がいいですね、まぁ好みでしょうけど」
「ええ?かっこいいでしょ、BM。なんか織田さんっぽいですよ」
「え、僕ってこういう感じ?」
「イメージですよ?国産より外車乗ってそうですけどね」
「そうなのかなぁ」となんだかつまらなさそうに言うから笑ってしまった。


「人ってどうしてイメージばかり持つんでしょうね。弁護士ってだけで目の色変えられたり」
「そりゃ変えられるでしょ、織田さんなんかヒエラルキーの頂点にいるじゃないですか。むしろイメージしか持てない世界にいるんだから仕方ないですよ」
「そんな風に思われるほど暮らしの違いはないですよ。普通です」
「勝手に線引きされるのは辛いですよね」
 俺の言葉に織田さんの視線を感じた。


「高宮さんはまだ若いのにしっかりしてるよね」
 常に丁寧だった織田さんの言葉が急にフランクになって少し驚いた。気が緩んでしまっただけなのかそれも一瞬だったけど。


「急いでいたようですけど、時間とかあったんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど早く行きたかっただけです。なんで送ってもらえるのめっちゃ助かります、ありがとうございます」
「ナビいれてもらえる?」
「とりあえず国道出てもらって南です。ナビ入れさせてもらいますね」
 携帯を取り出して店の住所を検索する。ここから車なら三十分もかからない、電車で向かえば彼女の仕事の上がり時間を過ぎていたが、このままならきっと仕事をしている時間までにつけるだろう。


「昔、線引きしない人がいてね。肩書とか条件とかそういうものなんか全然無視して向き合ってくれる人がいました」
「過去なんですね」
「ええ。もうずっと昔です、昨日のことみたいに思い出す日もあるけどもう遠い過去です」
「それは……惜しいですね。記憶の中で生き続ける人って自分にとったらやっぱり大事なひとだったって証拠ですよね」
 車内という特別な異空間の中で二人になったからか、織田さんとももうきっと会うことがない人だ、それをきっと彼自身も感じていたんだろうか。だからこんな話を投げてくれたのではないか、そんな気がして俺も織田さんの言葉に寄り添っていた。


「大事に思っていてもそれを伝えられなかったら意味はないですよね」

 
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