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続編/燈子過去編

不安の日々(燈子)―1

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 店の奥のスタッフルームで麻里奈と遅いランチを取っていた。レンジで温めたお弁当を取り出そうとしていたら麻里奈の驚いた声に思わず取りこぼしそうになる。


「ええ?駿くん会ってんの?」
「ストレスで死にそう……」
 昨夜自分が平常心を保つのにどれだけ苦労したか、そして自分のポーカーフェイスさに感心した。多分、彼は気づいていない。幸いなことに私の動揺は女性の名刺の携帯番号に注がれていると思い込んでいる。

「燈子の前にいた会社に来てるってこと?それで駿くんと仕事で絡んでるわけ?」
「どれくらい絡んでるのかわからないけど……外部監査って言ってたから私のいた関連会社の方に昔来ていた時と同じ感じかな……本体の方に来てるから部署としてお手伝いしてるって聞いたけどしっかり監査に駿くんが絡んでることはないと思うんだけど」
「えー、気づいてる可能性は?」
「ないはず、二人ともないと思う。私は職場も離れてるしあの人と接触する機会はもうないし。もしあるなら駿くんが私のことを言う以外ないと思うけど、そんな会って数回の人にプライベートなこと話すような人じゃない」
 そう言ったら麻里奈がう~ん、と唸りながらお箸を咥えて何かを考えている。

「なんか内緒にしててもバレちゃいそう、だからもう先に燈子が会って終わらせた方が良くない?なんか駿くんってそういうの気づいちゃうよ、絶対!」
 麻里奈は彼に何度か会っている。コミュ力の高い者同士、そして私という共通点があって出会ってすぐに仲良くなっていた。そんな二人を横目にすごいなぁと他人事のように見ていたのだけど、あとで麻里奈は私に言ってきた。


「駿くんって洞察力がすごい人だね。会話をしててもさぁ、相手の意図とか思考が読めるんだろうね、常に先回りしてくるじゃん。コミュニケーションの取り方やばいわぁ」
 そうなのだ、私も一番そこが不安ではある。私から打ち明けるのは勇気がいる、けれどもし彼が先に気づいてしまったらどうしよう。情報が限られていても相手の意図を素早く読み取れる、そこが洞察力に長けた人。そして彼は間違いなくそれができる。


「駿くんはさぁ、先入観や固定観念とかは持たずに客観的に物事の本質にたどり着いてくれるとは思うよ?そのうえで適確な意見とか考えを持ってくれるって私は思う。でもだからこそ燈子から話をした方がもっとスムーズなんじゃないかなぁ。言わないってことをどう受け止めるかだと思うんだよね」
「……どういうこと?」
「言いたくない本音が知りたくならない?どうして自分には話してくれなかったんだって。それってさ、客観的にはなかなか捉えられないよ。好きな人相手にそこまで冷静になれるかなって。燈子の持つ不安と駿くんが感じる不安は別物だと思うよ?燈子だって思うでしょ?なんでも自分に話してほしいって、そう伝えてるんじゃないの?」
 麻里奈の言う通りだ。
 話した方がいいのかもしれない、変に勘繰られたり心配させるくらいなら正直に話して知ってもらうほうが安心かも、そんな気持ちが芽生えてきてもまたすぐに心の扉が閉じてしまう。


 あの頃――、精神的に弱っていた私は彼の優しさを目の前にして、心のやり場を見失って縋ってしまった。


 雨の中濡れた私たち。

 お礼を言う前に泣きじゃくってしまった私に何も言わず、その人は落ち着くまで傍にいてくれた。ようやく涙を止められた私は冷静になるととたんに慌ててなにかお礼を、そう言ったが「そんなつもりではない」と、優しく笑顔で突っぱねられた。
 結局なにも出来ないままその人は行ってしまって私の手の中には失うと思ったブルートパーズのピアスが舞い戻ってきた。
 もしまた落としたらたまらない、そう思ってつけるのはやめようか、そんな風にも思ったが、変化を起こすのが怖かった。今まで当たり前に行っていたことをあえて変えるのは勇気がいった。母のこともある、身に着けていたものを外したくはなく、ピアスをまたお守りとして耳に戻した。

 その数日後、母も無事に退院でき、当たり前の日常が戻りつつあった。

 そんな時、偶然また再会できたのだ。
 
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