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続編/燈子過去編
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「すみません、ちょっとああいうところがあって困ってるんですよ、彼女」
織田さんが上司の立場としてか、謝罪してくるから思わず笑ってしまった。
「いえ……大変ですね。どこでもこんな?」
こんなの意味が伝わって今度は織田さんが笑う。
「いや、クライアントとかとは絶対ないですけど……さっきのタイミングじゃないですけど、いいなと思ったらフラッと行ってしまうんで最初は驚きましたよね」
今では慣れました、と呆れ気味に言う。その感じから一緒に仕事している時間は長そうなのがよく分かった。
「織田さんは城内さんの上司なんですか?」
「いいえ、ボスは同じ人で別にいます。僕は……先輩、になるのかな。今回は過去に関連会社と絡んでいたっていうのもあって、彼女の補佐的な感じですかね。まだもう少し手綱がいるんですよ、彼女。こういう時のためにね」
そう言って俺を見て笑う。
「なるほど」
「気にしないで受け流してください、あ、興味があるなら別ですけど」
「ないですね、もう無理です」
即答したら目を細めて聞いてくる。
「ご結婚なさってる?」
「いえ、まだです。織田さんは?」
「僕は失敗組です、もう結婚はいいかな」
まさかのバツイチ、離婚歴がある風には全く見えない。完璧な成功者、そんな感じがする織田さんにそもそもそういったマイナスなイメージなんか一切感じなかったから意外過ぎてむしろ好感度が上がった。
「意外でした?」
そんなに顔に出したつもりはなかったが読まれてしまったので正直に頷いた。
「織田さんとうまく行けない女性もいるんですね」
「買いかぶりすぎです、うまくいかないことばかりでした。だから未だに独り身です。でもそれも身から出た錆です、受け止めるしかない」
織田さんから感じた孤独、寂しさを紛らわすことさえせず受け止めて今を生きているのか。そんな風に思わなくても織田さんなら包み込んでくれる人がいるだろうに……珍しく人に対しておせっかいな思いを抱いた。それくらい織田さんは感じのいい人だったから―。
帰り道に雨に降られて濡れて帰ったら案の定彼女が飛びついてくる。
「はやく拭いて!風邪ひいちゃう!雨強いの急に降ってきたね、朝はなんともなかったのに……今年の梅雨はこんな降り方って今もテレビでやってたよ」
タオルをもらって頭や顔を拭いていたら荷物などを彼女が拭いてくれて声をかけてくる。前殴りの強い雨だったからか特に前がヤバい、びしょびしょになって服が肌に張り付くほどに濡れてしまっていた。
「先に上着とか脱げる?お風呂入っちゃった方がいいね」
そう言ってくれるから上着やシャツを玄関先で脱ぎだすと首から下げた社員証がぼたぼたと雫を落とした。それを見た彼女が心配そうに社員証を拭き始めて聞いてくる。
「社員証もドボドボ……ICチップ大丈夫?」
「ICチップは結構水に強いから平気だと思うよ。洗濯しても使えるって聞いたことある」
「そっか、じゃあ安心。濡れて困るようなものは入ってないかな」
「うん、別に……あー、名刺が……もうヤバいかもしれないな」
名刺?と、彼女がホルダーの中から数枚の名刺を取り出した。原型は保っているけど完全に濡れている質感を目視で感じる。彼女の手が名刺を見て固まるからハッとした。
「あ、違う、それ深い意味ない。なんか勝手に書かれただけでホント全然関係ない、電話することなんかないから」
「――ほんと?」
「するわけないし」
そう言ったらまだ動揺したような顔はしているけれど深くは追及されず――。
「お仕事関係の名刺ならちゃんと保管しておかないとだよね……乾かしておかないと」
濡れた名刺を手に持ってタオルで包んだ。
「燈子さん、ほんとに誤解しないでね?なんでもないからね?」
「わかった、とりあえず先にお風呂して?本気で風邪ひいちゃうよ?」
いつも冷静で大人な彼女だから多分そこまで疑っていないとは思う、けれどいい印象は持たなかっただろう、そんな風に思っていたこの時の俺は心底まぬけだったとあとになって気づくのだけど。
織田さんが上司の立場としてか、謝罪してくるから思わず笑ってしまった。
「いえ……大変ですね。どこでもこんな?」
こんなの意味が伝わって今度は織田さんが笑う。
「いや、クライアントとかとは絶対ないですけど……さっきのタイミングじゃないですけど、いいなと思ったらフラッと行ってしまうんで最初は驚きましたよね」
今では慣れました、と呆れ気味に言う。その感じから一緒に仕事している時間は長そうなのがよく分かった。
「織田さんは城内さんの上司なんですか?」
「いいえ、ボスは同じ人で別にいます。僕は……先輩、になるのかな。今回は過去に関連会社と絡んでいたっていうのもあって、彼女の補佐的な感じですかね。まだもう少し手綱がいるんですよ、彼女。こういう時のためにね」
そう言って俺を見て笑う。
「なるほど」
「気にしないで受け流してください、あ、興味があるなら別ですけど」
「ないですね、もう無理です」
即答したら目を細めて聞いてくる。
「ご結婚なさってる?」
「いえ、まだです。織田さんは?」
「僕は失敗組です、もう結婚はいいかな」
まさかのバツイチ、離婚歴がある風には全く見えない。完璧な成功者、そんな感じがする織田さんにそもそもそういったマイナスなイメージなんか一切感じなかったから意外過ぎてむしろ好感度が上がった。
「意外でした?」
そんなに顔に出したつもりはなかったが読まれてしまったので正直に頷いた。
「織田さんとうまく行けない女性もいるんですね」
「買いかぶりすぎです、うまくいかないことばかりでした。だから未だに独り身です。でもそれも身から出た錆です、受け止めるしかない」
織田さんから感じた孤独、寂しさを紛らわすことさえせず受け止めて今を生きているのか。そんな風に思わなくても織田さんなら包み込んでくれる人がいるだろうに……珍しく人に対しておせっかいな思いを抱いた。それくらい織田さんは感じのいい人だったから―。
帰り道に雨に降られて濡れて帰ったら案の定彼女が飛びついてくる。
「はやく拭いて!風邪ひいちゃう!雨強いの急に降ってきたね、朝はなんともなかったのに……今年の梅雨はこんな降り方って今もテレビでやってたよ」
タオルをもらって頭や顔を拭いていたら荷物などを彼女が拭いてくれて声をかけてくる。前殴りの強い雨だったからか特に前がヤバい、びしょびしょになって服が肌に張り付くほどに濡れてしまっていた。
「先に上着とか脱げる?お風呂入っちゃった方がいいね」
そう言ってくれるから上着やシャツを玄関先で脱ぎだすと首から下げた社員証がぼたぼたと雫を落とした。それを見た彼女が心配そうに社員証を拭き始めて聞いてくる。
「社員証もドボドボ……ICチップ大丈夫?」
「ICチップは結構水に強いから平気だと思うよ。洗濯しても使えるって聞いたことある」
「そっか、じゃあ安心。濡れて困るようなものは入ってないかな」
「うん、別に……あー、名刺が……もうヤバいかもしれないな」
名刺?と、彼女がホルダーの中から数枚の名刺を取り出した。原型は保っているけど完全に濡れている質感を目視で感じる。彼女の手が名刺を見て固まるからハッとした。
「あ、違う、それ深い意味ない。なんか勝手に書かれただけでホント全然関係ない、電話することなんかないから」
「――ほんと?」
「するわけないし」
そう言ったらまだ動揺したような顔はしているけれど深くは追及されず――。
「お仕事関係の名刺ならちゃんと保管しておかないとだよね……乾かしておかないと」
濡れた名刺を手に持ってタオルで包んだ。
「燈子さん、ほんとに誤解しないでね?なんでもないからね?」
「わかった、とりあえず先にお風呂して?本気で風邪ひいちゃうよ?」
いつも冷静で大人な彼女だから多分そこまで疑っていないとは思う、けれどいい印象は持たなかっただろう、そんな風に思っていたこの時の俺は心底まぬけだったとあとになって気づくのだけど。
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