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本編
26話・触れられない太陽(燈子)
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愛想のない私にも彼は優しい人だった。しかも私より年下の新人なのに……気遣いまでするのか。私には逆立ちしても出来ないことだ、頭が下がる。
(気を使うにしても……つまらなくないんだろうか、私なんかと話とか。そんなことしてくれなくていいのに)
「11月です」
「じゃあ、美山さんは11月生まれなんですね」
「いえ、違います」
「……」
(だから会話が止まちゃうから本当に気を使ってくれなくってもいいんだってば)
気まずさに絶えれなくて口を開こうとしたら言われた。
「なら、本当に好きなんだ」
私のそっけなく返す言葉に笑って、優しい声でそんなことを言ってくるから戸惑った。
「ブルートパーズかぁ、綺麗な青だなー」
作業を進めながら言う言葉は本当にそう思っているように聞こえて、彼は愛想でもなく私と会話をしてくれていたのがわかった。そんな彼を見て恥ずかしくなった、自分が勝手に線を引いて相手を軽く見てないがしろにしたことを。
「ていうか、俺の誕生石ってトパーズだったんだ。知らなかったです」
「……そうなんですか」
「パワーストーン?て言うんですっけ、誕生石って。捉え方かもしれないですけど、身につけて力をもらえるっていいな」
(何かの力に頼らなくても、高宮さんなら自らの力でなんでも手に入れられそうじゃないか)
ひねくれでもなく素直にそう思った。だから自然と言葉が落ちた。
「高宮さんはトパーズよりシトリンの方が似合いそう」
「え」
「シトリンは、太陽の神のアポロンのような石って言われてます。光と一緒にあるから石自体も黄金の光を放つらしいです。その自分で生み出す光にはカリスマ性があって明るい強さに満ち溢れているって……どんなときでも自分の力で自分の能力で与えられたものに応えてそれを成し遂げられるだけの力を持ってるんですよ」
そこまで話してハッとした。
(しゃ……しゃべりすぎた――オタクすぎる石ネタに自分でドン引き。絶対引いてるよね)
「すみません、忘れてください」
「いえ、覚えておきます。シトリン」
笑うことも茶化すこともなく、彼が穏やかに言うからバカみたいに照れた。
「好きなものがあるって素敵ですね」
その笑顔がまぶしい。本当に太陽のように光り輝いている――。
そして胸が張り裂けそうになる。
(胸がーー痛い)
彼と一緒にいれる人は幸せな人だ。
この人はきっと人を尊重できる人、だれかと心を通わせられるのは奇跡に近いのに、その心にそっと寄り添えるようなそんな人なんだろう、その時そう思った。
(……素敵なのは高宮さんでしょう?)
太陽には近づくことはできない。普通に暮らしていて、太陽が近いと感じることがないのと同じ、彼と私の距離は絶対に変わらない。近づくことはできないし、近づいてくることもない。
絶対に好きになんかなっちゃダメ、そう思った。
好きになっちゃダメ、そう思うこと自体が間違いだった。
(気を使うにしても……つまらなくないんだろうか、私なんかと話とか。そんなことしてくれなくていいのに)
「11月です」
「じゃあ、美山さんは11月生まれなんですね」
「いえ、違います」
「……」
(だから会話が止まちゃうから本当に気を使ってくれなくってもいいんだってば)
気まずさに絶えれなくて口を開こうとしたら言われた。
「なら、本当に好きなんだ」
私のそっけなく返す言葉に笑って、優しい声でそんなことを言ってくるから戸惑った。
「ブルートパーズかぁ、綺麗な青だなー」
作業を進めながら言う言葉は本当にそう思っているように聞こえて、彼は愛想でもなく私と会話をしてくれていたのがわかった。そんな彼を見て恥ずかしくなった、自分が勝手に線を引いて相手を軽く見てないがしろにしたことを。
「ていうか、俺の誕生石ってトパーズだったんだ。知らなかったです」
「……そうなんですか」
「パワーストーン?て言うんですっけ、誕生石って。捉え方かもしれないですけど、身につけて力をもらえるっていいな」
(何かの力に頼らなくても、高宮さんなら自らの力でなんでも手に入れられそうじゃないか)
ひねくれでもなく素直にそう思った。だから自然と言葉が落ちた。
「高宮さんはトパーズよりシトリンの方が似合いそう」
「え」
「シトリンは、太陽の神のアポロンのような石って言われてます。光と一緒にあるから石自体も黄金の光を放つらしいです。その自分で生み出す光にはカリスマ性があって明るい強さに満ち溢れているって……どんなときでも自分の力で自分の能力で与えられたものに応えてそれを成し遂げられるだけの力を持ってるんですよ」
そこまで話してハッとした。
(しゃ……しゃべりすぎた――オタクすぎる石ネタに自分でドン引き。絶対引いてるよね)
「すみません、忘れてください」
「いえ、覚えておきます。シトリン」
笑うことも茶化すこともなく、彼が穏やかに言うからバカみたいに照れた。
「好きなものがあるって素敵ですね」
その笑顔がまぶしい。本当に太陽のように光り輝いている――。
そして胸が張り裂けそうになる。
(胸がーー痛い)
彼と一緒にいれる人は幸せな人だ。
この人はきっと人を尊重できる人、だれかと心を通わせられるのは奇跡に近いのに、その心にそっと寄り添えるようなそんな人なんだろう、その時そう思った。
(……素敵なのは高宮さんでしょう?)
太陽には近づくことはできない。普通に暮らしていて、太陽が近いと感じることがないのと同じ、彼と私の距離は絶対に変わらない。近づくことはできないし、近づいてくることもない。
絶対に好きになんかなっちゃダメ、そう思った。
好きになっちゃダメ、そう思うこと自体が間違いだった。
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