あの夜をもう一度~不器用なイケメンの重すぎる拗らせ愛~

sae

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本編

7話・忘れてください、忘れますから(燈子)

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 「――忘れてください」

 あの朝……そう言わずにいれなかったのは耐えられなかったからだ。同情が一番されたくない。彼に罪悪感を持たれるのも後悔されるのもどれも嫌だった。なにより、私みたいな女に勘違いさせたら悪いなと、そんな風に思わせたらと思うとたまらなかったのだ。


(高宮さんこそ罪悪感や申しわけない気持ちを持つ必要こそない)


 だから忘れてほしい、なかったことにしてくれていい。なかったことにして?
 酔った勢いのただの間違い、そうしてほしかった。


(高宮さんは悪くないんです、なんにも酷いことしてません。受け入れた私が悪いんです)


 そう思わないとやってられない。それも本音だった。そうじゃなきゃ自分で自分の精神を保てない。


(だって、あんなに激しく……それに優しく抱かれるなんて思わなかったから……)


 思い出すと体の奥が熱くなる。だって今まで過ごした彼氏のどれとも比較できないくらい甘い時間で忘れなきゃと思うほど思い出させてくる濃厚な夜だったから。

 オフィスで見かける時でも思わず二度見してしまいそうな整った甘いマスクに優しそうな雰囲気。背も高いから単純に目を引くのに、いつも笑顔を絶やさないような人だから無駄に目立つ。穏やかで優しくて、会えば気さくに挨拶なんかもしてくれる。誰にも隔たりなく、紳士な人だ。なのに――。


「美山さん……足上げて?」


 あの夜の、あの艶っぽい声、なに?


「ここ、気持ち良い?もっと奥も触っていいですか?」
「あ、ぁ……だめ、だ、めぇ、それ……」
「だめじゃないですよね?指、すげー締めてくる……気持ちいいってなってほしい……俺の手で、もっと」
 そんな風に言いながら指を巧みに動かして唇を塞がれた。


(おおお、思い出すなぁぁぁ!)

 
 忘れてくれと、どの口が言うんだ。どの口が言っているんだ。私こそ、全く忘れていないじゃないか!


(はぁぁ、無理……)


 私の知っていた高宮さん、それは本当にすれ違うだけの高嶺の花で想像するのもおこがましいほど距離感のある人だった。そんな人が服を脱いで私に触れて腕を絡めてきた。抱きしめて、熱い吐息をこぼしながらキスを……。


(ぎゃぁぁー!)

 
 まだまだ全然私がなかったことにはできそうになかった。



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