7 / 145
本編
7話・忘れてください、忘れますから(燈子)
しおりを挟む
「――忘れてください」
あの朝……そう言わずにいれなかったのは耐えられなかったからだ。同情が一番されたくない。彼に罪悪感を持たれるのも後悔されるのもどれも嫌だった。なにより、私みたいな女に勘違いさせたら悪いなと、そんな風に思わせたらと思うとたまらなかったのだ。
(高宮さんこそ罪悪感や申しわけない気持ちを持つ必要こそない)
だから忘れてほしい、なかったことにしてくれていい。なかったことにして?
酔った勢いのただの間違い、そうしてほしかった。
(高宮さんは悪くないんです、なんにも酷いことしてません。受け入れた私が悪いんです)
そう思わないとやってられない。それも本音だった。そうじゃなきゃ自分で自分の精神を保てない。
(だって、あんなに激しく……それに優しく抱かれるなんて思わなかったから……)
思い出すと体の奥が熱くなる。だって今まで過ごした彼氏のどれとも比較できないくらい甘い時間で忘れなきゃと思うほど思い出させてくる濃厚な夜だったから。
オフィスで見かける時でも思わず二度見してしまいそうな整った甘いマスクに優しそうな雰囲気。背も高いから単純に目を引くのに、いつも笑顔を絶やさないような人だから無駄に目立つ。穏やかで優しくて、会えば気さくに挨拶なんかもしてくれる。誰にも隔たりなく、紳士な人だ。なのに――。
「美山さん……足上げて?」
あの夜の、あの艶っぽい声、なに?
「ここ、気持ち良い?もっと奥も触っていいですか?」
「あ、ぁ……だめ、だ、めぇ、それ……」
「だめじゃないですよね?指、すげー締めてくる……気持ちいいってなってほしい……俺の手で、もっと」
そんな風に言いながら指を巧みに動かして唇を塞がれた。
(おおお、思い出すなぁぁぁ!)
忘れてくれと、どの口が言うんだ。どの口が言っているんだ。私こそ、全く忘れていないじゃないか!
(はぁぁ、無理……)
私の知っていた高宮さん、それは本当にすれ違うだけの高嶺の花で想像するのもおこがましいほど距離感のある人だった。そんな人が服を脱いで私に触れて腕を絡めてきた。抱きしめて、熱い吐息をこぼしながらキスを……。
(ぎゃぁぁー!)
まだまだ全然私がなかったことにはできそうになかった。
あの朝……そう言わずにいれなかったのは耐えられなかったからだ。同情が一番されたくない。彼に罪悪感を持たれるのも後悔されるのもどれも嫌だった。なにより、私みたいな女に勘違いさせたら悪いなと、そんな風に思わせたらと思うとたまらなかったのだ。
(高宮さんこそ罪悪感や申しわけない気持ちを持つ必要こそない)
だから忘れてほしい、なかったことにしてくれていい。なかったことにして?
酔った勢いのただの間違い、そうしてほしかった。
(高宮さんは悪くないんです、なんにも酷いことしてません。受け入れた私が悪いんです)
そう思わないとやってられない。それも本音だった。そうじゃなきゃ自分で自分の精神を保てない。
(だって、あんなに激しく……それに優しく抱かれるなんて思わなかったから……)
思い出すと体の奥が熱くなる。だって今まで過ごした彼氏のどれとも比較できないくらい甘い時間で忘れなきゃと思うほど思い出させてくる濃厚な夜だったから。
オフィスで見かける時でも思わず二度見してしまいそうな整った甘いマスクに優しそうな雰囲気。背も高いから単純に目を引くのに、いつも笑顔を絶やさないような人だから無駄に目立つ。穏やかで優しくて、会えば気さくに挨拶なんかもしてくれる。誰にも隔たりなく、紳士な人だ。なのに――。
「美山さん……足上げて?」
あの夜の、あの艶っぽい声、なに?
「ここ、気持ち良い?もっと奥も触っていいですか?」
「あ、ぁ……だめ、だ、めぇ、それ……」
「だめじゃないですよね?指、すげー締めてくる……気持ちいいってなってほしい……俺の手で、もっと」
そんな風に言いながら指を巧みに動かして唇を塞がれた。
(おおお、思い出すなぁぁぁ!)
忘れてくれと、どの口が言うんだ。どの口が言っているんだ。私こそ、全く忘れていないじゃないか!
(はぁぁ、無理……)
私の知っていた高宮さん、それは本当にすれ違うだけの高嶺の花で想像するのもおこがましいほど距離感のある人だった。そんな人が服を脱いで私に触れて腕を絡めてきた。抱きしめて、熱い吐息をこぼしながらキスを……。
(ぎゃぁぁー!)
まだまだ全然私がなかったことにはできそうになかった。
23
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる