上 下
6 / 145
本編

6話・選べない言葉(高宮)

しおりを挟む
「いて」
 紙ではたかれただけだから大して痛みなんかないけれど、束になればそこそこ重みがある。顔を上げたら知った顔だ。

「ハンコくれ」
「久世ぇぇーーまさか心配して会いに来てくれたわけ?!」
 メールでは素っ気なかったのになんだかんだ良い奴、そう思った矢先に冷たい声で言われた。

「んなわけねー、ハンコ一個押し忘れてる。クソ忙しいのに勘弁してくれ」
「え、うそごめん。え?来たのハンコのため?メールで来てくれたわけじゃないわけ?それだけ?俺の様子見てなんかないの?」
「だからハン……「ハンコハンコうるせぇな!押してやるよ!押したらちょっと顔貸せ!!」

 喫煙ルームは誰もいなかった。胸もとからタバコを取り出して一本火をつけると一服して一息吐く。久世は喫煙者じゃないけれど強引に引っ張りこんで付き合わせた。


「俺それ出てないからなぁ」
「うそ、久世いなかったけ?」
「納期前の試験出来てなかったから飲み会行ってる暇なんかなかったわ」

(まじか……久世がいないことにも気付いてなかった)

「なんかあった?営業参加のやつだよな?」
「そう、行きたくなかったけど、仕方ねぇよな。営業部長が次に執行役員になるって話じゃん?横繋がり乱すとやべーからなー」
「なに?営業となんかあった?」
「いや……」
「――俺さ、忙しいんだけど」
「いや、わかってる、ちょっと待って、整理してるから」
「じゃあまとめてから言えよ、時間無駄、超絶うぜぇ」
「お前ほんとに口悪いよね。ちょっと待ってよ」
 まとめるもなにも何から言えばいいかさえわからない手前、情けなくて泣きそうになっているところに察しのいい久世が助け舟を出してくれる。

「……女?」
「――マジどうしよう。考えても考えても堂々巡りでさ……どうしよう」
「えー、なんだっけ、総務の子?」
「あー、それはもうめちゃくちゃ面倒くせぇから触れんといてくれ」
「じゃあ……経理?」
「あれはもう誤解は解けて納められて終わってる」
「お前さ、ほんとめんどくせぇな。どんだけ社内の女と絡んでんだよ……「開発部……」
 その部署名に久世の目が開かれる。開かれるのも理由がある。案の定、久世はある子の名前を出して食いついてきた。

「……開発?お前千夏ちなつにまだ絡んでんの?」
「絡むか。お前のモンに手出すほど命知らずじゃねーわ」
 開発部には久世の彼女がいる。二人の仲は公にはされていない、本人たちの意志にもよるが立場的に口外するには面倒も多そうだ。ふたりは――直属の上司と部下だから。

「てか、久世さぁ、菱田ひしだちゃんと付き合ってからあの子のことばっか考えてんだろ。あんまねちっこいと嫌われんぞ」
「うるせーよ、てかお前俺に話聞いてもらいたいっつって態度舐めてない?もう行くわ」
 そう言われて行こうとする腕を掴む。

「――美山さんとヤってしまった」
「は?」
「だから、美山さんと……「マジか」

 久世さえもそういうほど、これはマジかと思う事件なのだとその時改めて痛感した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

処理中です...