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本編
6話・選べない言葉(高宮)
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「いて」
紙で叩かれただけだから大して痛みなんかないけれど、束になればそこそこ重みがある。顔を上げたら知った顔だ。
「ハンコくれ」
「久世ぇぇーーまさか心配して会いに来てくれたわけ?!」
メールでは素っ気なかったのになんだかんだ良い奴、そう思った矢先に冷たい声で言われた。
「んなわけねー、ハンコ一個押し忘れてる。クソ忙しいのに勘弁してくれ」
「え、うそごめん。え?来たのハンコのため?メールで来てくれたわけじゃないわけ?それだけ?俺の様子見てなんかないの?」
「だからハン……「ハンコハンコうるせぇな!押してやるよ!押したらちょっと顔貸せ!!」
喫煙ルームは誰もいなかった。胸もとからタバコを取り出して一本火をつけると一服して一息吐く。久世は喫煙者じゃないけれど強引に引っ張りこんで付き合わせた。
「俺それ出てないからなぁ」
「うそ、久世いなかったけ?」
「納期前の試験出来てなかったから飲み会行ってる暇なんかなかったわ」
(まじか……久世がいないことにも気付いてなかった)
「なんかあった?営業参加のやつだよな?」
「そう、行きたくなかったけど、仕方ねぇよな。営業部長が次に執行役員になるって話じゃん?横繋がり乱すとやべーからなー」
「なに?営業となんかあった?」
「いや……」
「――俺さ、忙しいんだけど」
「いや、わかってる、ちょっと待って、整理してるから」
「じゃあまとめてから言えよ、時間無駄、超絶うぜぇ」
「お前ほんとに口悪いよね。ちょっと待ってよ」
まとめるもなにも何から言えばいいかさえわからない手前、情けなくて泣きそうになっているところに察しのいい久世が助け舟を出してくれる。
「……女?」
「――マジどうしよう。考えても考えても堂々巡りでさ……どうしよう」
「えー、なんだっけ、総務の子?」
「あー、それはもうめちゃくちゃ面倒くせぇから触れんといてくれ」
「じゃあ……経理?」
「あれはもう誤解は解けて納められて終わってる」
「お前さ、ほんとめんどくせぇな。どんだけ社内の女と絡んでんだよ……「開発部……」
その部署名に久世の目が開かれる。開かれるのも理由がある。案の定、久世はある子の名前を出して食いついてきた。
「……開発?お前千夏にまだ絡んでんの?」
「絡むか。お前のモンに手出すほど命知らずじゃねーわ」
開発部には久世の彼女がいる。二人の仲は公にはされていない、本人たちの意志にもよるが立場的に口外するには面倒も多そうだ。ふたりは――直属の上司と部下だから。
「てか、久世さぁ、菱田ちゃんと付き合ってからあの子のことばっか考えてんだろ。あんまねちっこいと嫌われんぞ」
「うるせーよ、てかお前俺に話聞いてもらいたいっつって態度舐めてない?もう行くわ」
そう言われて行こうとする腕を掴む。
「――美山さんとヤってしまった」
「は?」
「だから、美山さんと……「マジか」
久世さえもそういうほど、これはマジかと思う事件なのだとその時改めて痛感した。
紙で叩かれただけだから大して痛みなんかないけれど、束になればそこそこ重みがある。顔を上げたら知った顔だ。
「ハンコくれ」
「久世ぇぇーーまさか心配して会いに来てくれたわけ?!」
メールでは素っ気なかったのになんだかんだ良い奴、そう思った矢先に冷たい声で言われた。
「んなわけねー、ハンコ一個押し忘れてる。クソ忙しいのに勘弁してくれ」
「え、うそごめん。え?来たのハンコのため?メールで来てくれたわけじゃないわけ?それだけ?俺の様子見てなんかないの?」
「だからハン……「ハンコハンコうるせぇな!押してやるよ!押したらちょっと顔貸せ!!」
喫煙ルームは誰もいなかった。胸もとからタバコを取り出して一本火をつけると一服して一息吐く。久世は喫煙者じゃないけれど強引に引っ張りこんで付き合わせた。
「俺それ出てないからなぁ」
「うそ、久世いなかったけ?」
「納期前の試験出来てなかったから飲み会行ってる暇なんかなかったわ」
(まじか……久世がいないことにも気付いてなかった)
「なんかあった?営業参加のやつだよな?」
「そう、行きたくなかったけど、仕方ねぇよな。営業部長が次に執行役員になるって話じゃん?横繋がり乱すとやべーからなー」
「なに?営業となんかあった?」
「いや……」
「――俺さ、忙しいんだけど」
「いや、わかってる、ちょっと待って、整理してるから」
「じゃあまとめてから言えよ、時間無駄、超絶うぜぇ」
「お前ほんとに口悪いよね。ちょっと待ってよ」
まとめるもなにも何から言えばいいかさえわからない手前、情けなくて泣きそうになっているところに察しのいい久世が助け舟を出してくれる。
「……女?」
「――マジどうしよう。考えても考えても堂々巡りでさ……どうしよう」
「えー、なんだっけ、総務の子?」
「あー、それはもうめちゃくちゃ面倒くせぇから触れんといてくれ」
「じゃあ……経理?」
「あれはもう誤解は解けて納められて終わってる」
「お前さ、ほんとめんどくせぇな。どんだけ社内の女と絡んでんだよ……「開発部……」
その部署名に久世の目が開かれる。開かれるのも理由がある。案の定、久世はある子の名前を出して食いついてきた。
「……開発?お前千夏にまだ絡んでんの?」
「絡むか。お前のモンに手出すほど命知らずじゃねーわ」
開発部には久世の彼女がいる。二人の仲は公にはされていない、本人たちの意志にもよるが立場的に口外するには面倒も多そうだ。ふたりは――直属の上司と部下だから。
「てか、久世さぁ、菱田ちゃんと付き合ってからあの子のことばっか考えてんだろ。あんまねちっこいと嫌われんぞ」
「うるせーよ、てかお前俺に話聞いてもらいたいっつって態度舐めてない?もう行くわ」
そう言われて行こうとする腕を掴む。
「――美山さんとヤってしまった」
「は?」
「だから、美山さんと……「マジか」
久世さえもそういうほど、これはマジかと思う事件なのだとその時改めて痛感した。
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