世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 3章 ドロップ品のオークション

13-2. チーズ祭り

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 馬車が教会につくと、多くの司教様たちに出迎えられたけど、その中には大司教様がいなかった。前にブランから聞き取り調査をした司教様が代表して、いつもの難しい言葉でブランへ挨拶をしている。その中で、大司教様がいないことを謝られたけど、それってもしかして。

「あの、大司教様は、大丈夫ですか……?」
「今はヴィゾーヴニル様のおそばに。今回はかろうじて踏みとどまりましたよ」

 グザビエ司教様も他の司教様たちも笑っているから、大司教様が感激で倒れてしまうのではないかという心配をしていたのは僕だけじゃなかったらしい。よかった。ブランが声をかけただけで感激で倒れてしまう大司教様が、リネが気軽に肩に乗ったりしたらどうなってしまうのか不安だったのだ。

「モクリークでドガイからの首飾りをヴィゾーヴニル様に献上したのですが、そのときに一度声をおかけいただいておりましたので」
「そのときは問題なかったんですか?」

 僕の質問に司教様たちが含みのある笑顔で黙っているので、これ以上触れないでおいたほうがよさそうだ。きっと倒れてしまったに違いない。
 今はリネをチーズ置き場に案内してくれているそうだ。ここの教会でリネと会ったことがある人は、モクリークまで来てくれた人だけだ。そんな中、とても自由なリネを部屋に置いて、ブランの出迎えに出てこられないのはよく分かる。

「あの首飾り、リネはとても気に入っていますよ。ダンジョンで冒険者に自慢していました」
「それは大変光栄です」

 ドガイの教会が贈った首飾りを気に入ったリネは、モクリークの大司教様にお願いして自分の好みの宝石で新しい首飾りを作ってもらった。今は日替わりで気に入った首飾りをつけている。
 僕だったら壊れるのが怖いから大事にアイテムボックスにしまってしまいそうだけど、リネは気にせず着けている。神獣にはダンジョンなんてお散歩みたいなものなのかもしれないけど、大切なものは使ってこそ価値がある、というのを体現している気がする。僕はいろんなものをしまい込んでしまうので、これからは気をつけよう。特に容量無制限のアイテムボックスがあるから、いくらでも溜め込むことができて、それが今回のオークションにつながっているのだから。

「ブランも何かつけようよ」
『断る』
「お揃いでつけたいのに」

 ブランとお揃いなら宝石でもつけていたいのに、すげなく断られてしまった。何でブランはそこまで装飾品を嫌うのかなあ。


 司教様たちのブランへの挨拶が終わるとすぐに、リネがいるところへと案内された。
 会議室に入ると、広い部屋いっぱいにチーズが並べられている。タペラであふれの渦中に取り残されて、助けてくれたブランへのお礼にドガイに来たときも、教会が大量のチーズを用意してくれたけど、今回はあのとき以上だ。チーズ品評会の会場か何かかな。

「前回と違って、今回は神獣様への貢ぎ物だと知れ渡りましたので、生産者から献上されたのです」
「じゃあ前回なかった種類もあるんですか?」
「はい。おそらくこの国の全種類が揃ったのではないでしょうか」

 しかも今回は、どういう料理に合うか、おススメの料理方法のメモも生産者から聞き取ってつけられている。すごい。
 前回なかった種類の中から代表的なチーズを使ってお試しに料理が作られているので、すごくいい匂いがしている。と思ったら、リネだけでなくブランもすでに食べ始めていた。

「ちょっと、ブラン、お礼を言う前に食べないでって、いつも言ってるのに!」
「ユウさん、お気になさらずに」
『ユウ、これ美味しいよ。ユウも食べてみなよ』
「料理長にレシピをお伝えしますので、お気に召したものはモクリークでもお召し上がりいただけますよ」

 そうなのだ。今回、僕たちがカザナラの別荘で雇って、その後中央教会で僕たちの食事を作ってくれている料理長が、王子様と一緒にドガイに来ているのだ。今も部屋の隅でチーズ料理を食べるリネとブランを見ている。
 今回の同行は、僕たちや教会が頼んだわけではなく料理長の一存で決まったものだ。リネとブランが好きなチーズの産地ということで、王子様に同行する料理人の一人として随行員に潜り込んだらしい。さすが王宮の元料理長だ。 
 料理長には、ブランの正体は知らせていない。だからブランは料理長のいる今、人の言葉を話さないし、この場にいる司教様たちもブランに話しかけない。でも神獣であるリネと一緒に食べているのを誰も止めない時点で、バレバレな気がする。王宮の料理長をしていた人だから、見ないふりをするのには慣れているだろう。

「ブラン、どれが美味しい?」
『(全部だ)』

 僕は部屋に漂う濃厚なチーズの香りだけでお腹がいっぱいになりそうなのに、片っ端からペロリと平らげている。カラフルな鳥と白銀のオオカミが一心不乱にチーズを食べる光景を見て、この国の人たちの信仰心に疑いが生じないか不安になってしまうよ。

「とても珍しいチーズがあるのでご紹介します。こちらは、ある村でしか作られていないフレッシュチーズです」
「これは……、チーズなのか?」
「ええ。柔らかく日持ちはしませんが、あっさりしていて美味しいですよ」

 白いお豆腐のようなチーズ。これって、もしかしてモッツァレラチーズ? 姉さんが好きでよくトマトと一緒に食べていたチーズに似ている。懐かしいな。

「ユウ、知っているのか?」
「これ、姉さんの好きだったチーズかも」

 家族の話をしたことでアルが心配してくれているけど、大丈夫。以前のように、会えないことに絶望を感じることはなくなった。ただ寂しいだけだ。

「ユウの食べたい料理を作ってもらおう」
「ありがとう」

 僕の気分が落ち込まないように、アルが優しく抱きしめてくれる。料理に夢中になっていたブランが僕の足元まで来てくれる。リネが飛んできて「どうしたの?」と聞いてくれる。司教様たちが遠くから心配そうに見守ってくれている。みんな、ちょっと過保護だけど、僕の心に寄り添ってくれる。
 新しい家族に愛されているから、僕は大丈夫。
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