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続 3章 ドロップ品のオークション
13-1. 着地場所
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僕は十五歳のある日、魔物がいてダンジョンがある剣と魔法の世界に迷い込んだ。
最初はだまされて辛い思いをしたけれど、僕と契約してくれたオオカミの神獣のブランと、戦闘奴隷から恋人になってくれた剣士のアルと一緒に、冒険者としてそれなりに幸せに暮らしていた。
けれど僕の持つ希少スキル「アイテムボックス」のために、十年以上住んでいるモクリーク王国の軍の一部に狙われてしまい、ダンジョン内で襲われアルが大怪我をした。そのときのトラウマで、僕は冒険者としてダンジョンに潜るのはほとんどお休みして、教会の手伝いをしている。その間、僕とは別行動でダンジョンに潜るアルの安全を心配していたら、ブランが治癒魔法も使える鳥の神獣であるリネを連れてきてくれた。それ以降アルは、ダンジョン内でアルの安全を守るという契約を結んだリネと一緒にダンジョンに潜っている。
僕たちはアルの襲撃後、モクリークの中央教会に住んでいる。衣食住の全てを頼り、ときには国と対立してまでも僕たちを守ってくれる教会には、感謝してもしきれない。そのお礼として、それでも足りないと思うけれど、アイテムボックスの中にため込んでいたダンジョンのドロップ品を全て教会に寄付した。
そのドロップ品のオークションがアルの故郷であるドガイで開かれるため、今僕たちはリネに乗ってドガイへと向かっている。
モクリークのカザナラの別荘を出ると、山を越え、アルの生まれ育ったミダの上空を飛び越え、タゴヤヘと続く街道を目印に南下する。以前ブランや馬車に乗って南下した街道を上空から見ると、穀倉地帯であるタサマラから王都であるタゴヤに向けて街道が一本まっすぐに伸びているのが分かる。最初に食糧の輸送のためにできた道があって、その後に周りの街が発展したんだろう。
あまり揺れずに高速で移動するリネの翼のおかげで、あっという間にドガイの王都タゴヤの上空だ。
『あのキラキラのところに降りればいいよね?』
「ああ。降りる前に、上空を旋回してくれ」
初めて訪れるドガイの中央教会にいきなり降りると驚かれてしまうので、まずは上空を旋回して、これから降りると知らせることになっている。
王都の中央教会を中心に円を描くように飛びながら少しずつ高度を下げていくと、だんだん地上から見上げている人たちも見えるようになってきた。特に中央教会の隣、王宮の広場に人がたくさん集まっている。僕たちというかリネに向かって大きく手を振っている人もいる。この国にリネがくるのは初めてだけど、魔物の襲撃ではなく神獣だと認識されているようだ。
『あ、チーズくれる人発見。そこに降りるね』
「グザビエ司教様か。頼む」
リネは、自分に何をくれる人なのかで人を判別しているらしい。モクリークの晩餐会でアルがチーズの名産地の司教様だと紹介したから、リネの中でグザビエ司教様はチーズの人になっている。
旋回しながら高度を下げて、リネが地面に着地しようとしているけど、リネの目標地点がずれている気がする。あれ?と思っているうちに、リネが一気に高度を下げた。
「リネ、違う。そっちじゃない!」
『待て!』
アルとブランが急いで止めたけれど、リネは気にせずそのまま下降して、グザビエ司教様のいる王宮の広場に降りてしまった。
「神獣様だ!」
「わあ! 神獣様!」
王宮の広場が大騒動になっている。ただでさえ上空を旋回する神獣を発見して、広場に人が集まっていたのだ。
けれどリネは気にせず、着地するとすぐに羽根を滑り台にして僕たちを背中から降ろし、小さくなってグザビエ司教様のところへ飛んだ。
『チーズは?』
「神獣様、ようこそドガイへいらっしゃいました。中央教会にご用意しておりますので、まずはそちらへ」
『どこ?』
「あそこに見える建物です」
『先行ってるね』
あっという間にリネが単独で中央教会に飛んでいってしまった。残された僕たちはどうすればいいのか、ぼう然としてしまう。人が集まってきているので、早く逃げたい。アルが人目から隠すように、僕にフードをかぶせてくれたけど、周囲のざわめきが聞こえて落ち着かない。
「アレックス様、ユウさん、お久しぶりです。馬車へご案内いたします」
「司教様、申し訳ございません」
リネを見送った教会の人たちが、すばやく僕たちの周りを取り囲んで、人が近づけないようにしてくれた。ご迷惑をおかけします。
アルは、僕の足元にぴったりと寄り添ってくれていたブランの背に僕を乗せると、すぐ僕の横を歩いてくれる。遠くから「どっちが契約者様だ?」という声が聞こえるんだけど、リネの契約者であるアルより、僕のほうが待遇がよく見えるから混乱しているみたいだ。僕はみんなの視線から逃げるように下を向いているうちに、ブランが馬車まで進んでくれた。
グザビエ司教様は、リネを迎えるにあたり、警備などの調整をするために王宮をたまたま訪ねていたそうだ。
司教様の乗ってきた馬車に乗り込む直前、キラキラした服の騎士が走ってきてアルに話しかけてきたけど、僕たちは馬車へと押し込まれた。外でグザビエ司教様が、騎士を追い返しているのが聞こえる。
「せっかくいらしたのですから、ぜひ王宮へ」
「到着されたばかりでお疲れですので、ゆっくりお休みいただくためにも中央教会へご案内いたします」
とにかくアルを王宮に招待したいとねばる騎士を、司教様が押しとどめているうちに出発準備が整ったようだ。司教様が話を強引に切り上げて馬車に乗り込むと、馬車が走り出した。
「あれって大丈夫なんですか?」
「彼は、陛下のご到着までお二方をここにとどめる係でしょう」
アルと王族の謁見は予定にないので、たまたまアルが王宮に来たこの機会を逃さないように、王様がこちらへ向かっている可能性があるらしい。アルはモクリークの王様とも会っていないので、ここで会うのは良くないと判断して、アルを逃がしてくれた。
「空の旅はいかがでしたか?」
「カザナラで二泊して余裕を持ってきましたが、ユウも酔うことなく着くことができました」
「それはよかったです。モクリークの大司教様は、あと三日でお着きになるそうです。第二王子殿下はすでにご到着されています」
だいぶ前に出たはずの大司教様が着いていないので何かあったのかと心配だったけど、途中のミンギ王国で、あふれが起きた街のすぐそばを通ったので、そこで住民の避難の手伝いをしていたそうだ。ミンギ王国は、アルの襲撃に関わっていた疑惑があるので良い印象はないけど、そこに暮らす人たちは関係ない。リネが懐いているモクリークの大司教様がいないと、ドガイの教会の人たちは大変かもしれないけど、三日くらいならなんとかなるだろう。
王子様は大司教様とは別ルートで、ソント王国を通って到着済みだそうだ。神獣様が住む国の代表として、オークションのためにドガイに来る人たちから、面会をたくさん申し込まれているので、滞在が長めに設定されている。
オークションは十日後に予定されている。僕たちはオークションが始まる前にモクリークに帰る予定だけど、今日のリネの様子を見ていると、本当に出発できるのか不安になってきた。チーズが美味しいから帰らないとか、言いださないよね?
最初はだまされて辛い思いをしたけれど、僕と契約してくれたオオカミの神獣のブランと、戦闘奴隷から恋人になってくれた剣士のアルと一緒に、冒険者としてそれなりに幸せに暮らしていた。
けれど僕の持つ希少スキル「アイテムボックス」のために、十年以上住んでいるモクリーク王国の軍の一部に狙われてしまい、ダンジョン内で襲われアルが大怪我をした。そのときのトラウマで、僕は冒険者としてダンジョンに潜るのはほとんどお休みして、教会の手伝いをしている。その間、僕とは別行動でダンジョンに潜るアルの安全を心配していたら、ブランが治癒魔法も使える鳥の神獣であるリネを連れてきてくれた。それ以降アルは、ダンジョン内でアルの安全を守るという契約を結んだリネと一緒にダンジョンに潜っている。
僕たちはアルの襲撃後、モクリークの中央教会に住んでいる。衣食住の全てを頼り、ときには国と対立してまでも僕たちを守ってくれる教会には、感謝してもしきれない。そのお礼として、それでも足りないと思うけれど、アイテムボックスの中にため込んでいたダンジョンのドロップ品を全て教会に寄付した。
そのドロップ品のオークションがアルの故郷であるドガイで開かれるため、今僕たちはリネに乗ってドガイへと向かっている。
モクリークのカザナラの別荘を出ると、山を越え、アルの生まれ育ったミダの上空を飛び越え、タゴヤヘと続く街道を目印に南下する。以前ブランや馬車に乗って南下した街道を上空から見ると、穀倉地帯であるタサマラから王都であるタゴヤに向けて街道が一本まっすぐに伸びているのが分かる。最初に食糧の輸送のためにできた道があって、その後に周りの街が発展したんだろう。
あまり揺れずに高速で移動するリネの翼のおかげで、あっという間にドガイの王都タゴヤの上空だ。
『あのキラキラのところに降りればいいよね?』
「ああ。降りる前に、上空を旋回してくれ」
初めて訪れるドガイの中央教会にいきなり降りると驚かれてしまうので、まずは上空を旋回して、これから降りると知らせることになっている。
王都の中央教会を中心に円を描くように飛びながら少しずつ高度を下げていくと、だんだん地上から見上げている人たちも見えるようになってきた。特に中央教会の隣、王宮の広場に人がたくさん集まっている。僕たちというかリネに向かって大きく手を振っている人もいる。この国にリネがくるのは初めてだけど、魔物の襲撃ではなく神獣だと認識されているようだ。
『あ、チーズくれる人発見。そこに降りるね』
「グザビエ司教様か。頼む」
リネは、自分に何をくれる人なのかで人を判別しているらしい。モクリークの晩餐会でアルがチーズの名産地の司教様だと紹介したから、リネの中でグザビエ司教様はチーズの人になっている。
旋回しながら高度を下げて、リネが地面に着地しようとしているけど、リネの目標地点がずれている気がする。あれ?と思っているうちに、リネが一気に高度を下げた。
「リネ、違う。そっちじゃない!」
『待て!』
アルとブランが急いで止めたけれど、リネは気にせずそのまま下降して、グザビエ司教様のいる王宮の広場に降りてしまった。
「神獣様だ!」
「わあ! 神獣様!」
王宮の広場が大騒動になっている。ただでさえ上空を旋回する神獣を発見して、広場に人が集まっていたのだ。
けれどリネは気にせず、着地するとすぐに羽根を滑り台にして僕たちを背中から降ろし、小さくなってグザビエ司教様のところへ飛んだ。
『チーズは?』
「神獣様、ようこそドガイへいらっしゃいました。中央教会にご用意しておりますので、まずはそちらへ」
『どこ?』
「あそこに見える建物です」
『先行ってるね』
あっという間にリネが単独で中央教会に飛んでいってしまった。残された僕たちはどうすればいいのか、ぼう然としてしまう。人が集まってきているので、早く逃げたい。アルが人目から隠すように、僕にフードをかぶせてくれたけど、周囲のざわめきが聞こえて落ち着かない。
「アレックス様、ユウさん、お久しぶりです。馬車へご案内いたします」
「司教様、申し訳ございません」
リネを見送った教会の人たちが、すばやく僕たちの周りを取り囲んで、人が近づけないようにしてくれた。ご迷惑をおかけします。
アルは、僕の足元にぴったりと寄り添ってくれていたブランの背に僕を乗せると、すぐ僕の横を歩いてくれる。遠くから「どっちが契約者様だ?」という声が聞こえるんだけど、リネの契約者であるアルより、僕のほうが待遇がよく見えるから混乱しているみたいだ。僕はみんなの視線から逃げるように下を向いているうちに、ブランが馬車まで進んでくれた。
グザビエ司教様は、リネを迎えるにあたり、警備などの調整をするために王宮をたまたま訪ねていたそうだ。
司教様の乗ってきた馬車に乗り込む直前、キラキラした服の騎士が走ってきてアルに話しかけてきたけど、僕たちは馬車へと押し込まれた。外でグザビエ司教様が、騎士を追い返しているのが聞こえる。
「せっかくいらしたのですから、ぜひ王宮へ」
「到着されたばかりでお疲れですので、ゆっくりお休みいただくためにも中央教会へご案内いたします」
とにかくアルを王宮に招待したいとねばる騎士を、司教様が押しとどめているうちに出発準備が整ったようだ。司教様が話を強引に切り上げて馬車に乗り込むと、馬車が走り出した。
「あれって大丈夫なんですか?」
「彼は、陛下のご到着までお二方をここにとどめる係でしょう」
アルと王族の謁見は予定にないので、たまたまアルが王宮に来たこの機会を逃さないように、王様がこちらへ向かっている可能性があるらしい。アルはモクリークの王様とも会っていないので、ここで会うのは良くないと判断して、アルを逃がしてくれた。
「空の旅はいかがでしたか?」
「カザナラで二泊して余裕を持ってきましたが、ユウも酔うことなく着くことができました」
「それはよかったです。モクリークの大司教様は、あと三日でお着きになるそうです。第二王子殿下はすでにご到着されています」
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王子様は大司教様とは別ルートで、ソント王国を通って到着済みだそうだ。神獣様が住む国の代表として、オークションのためにドガイに来る人たちから、面会をたくさん申し込まれているので、滞在が長めに設定されている。
オークションは十日後に予定されている。僕たちはオークションが始まる前にモクリークに帰る予定だけど、今日のリネの様子を見ていると、本当に出発できるのか不安になってきた。チーズが美味しいから帰らないとか、言いださないよね?
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