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続 1章 神なる存在

11-9. 水の魔石

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 昨日は挨拶だけで切り上げたので、今日はブランも交えてドガイの大司教様たちと、俺たちの部屋で話をしている。ブランのためにもともと教会で一番いい部屋を使わせてもらっているので、ドガイとモクリークの司教様たちが全員入ることのできる客間もついている。

「ユウさん、お元気になられたようで良かったです。体力はもう戻られましたか?」
「はい、もう戻って、ときどきダンジョンに行ったりもしています。ご心配をおかけしました。でも今はブランからダンジョンに行く許可が出なくて」
『ヴィゾーヴニルの騒動が落ち着くまではダメだ』

 今俺の周りはまだ少し騒がしいので、落ち着くまでは一緒に潜らないほうがいい。だいぶ平気になったが、ユウはいまだに知らない冒険者が近づいてくると身構える。リネがいると今まで以上に注目を浴びるので、ユウにとっては居心地が悪いだろう。

「ブラン様がユウさんのためにヴィゾーヴニル様をお連れになったのですか?」
『アルがダンジョンに潜っていると無事かどうか心配するからな。あれは治癒魔法が使える』
「風の御方と聞いておりますが、治癒魔法もお使いになるのですね」

 ブランはユウの足元に座り、ウィズを背中に乗せて、司教様の質問に答えている。
 グザビエ司教様は、以前馬車の中でブランと話したこともあるので、モクリークの司教様たちがおそらく聞きたいだろうけれど聞かないでいることを質問していく。
 今更だが、モクリークの教会はブランに関してドガイの教会への遠慮があるのかもしれないと気付いた。
 俺たちはドガイの教会とは親しくしていたが、モクリークの教会とはずっと距離を置いていた。それはモクリークの教会に原因があったわけではなく、単純に国とユウの関係に教会を巻き込まないためだったが、俺の襲撃後にモクリークの教会と親しくし始めたころには、すでにドガイの教会との関係はかなり強固なものになっていた。そのことに対する遠慮があるのかもしれない。

「神獣様同士で交流はあるのですか?」
『ないな。今回はたまたま近くに来たのが分かったから捕まえた』

 頼んだわけではなく、捕まえたのか。やはり力関係ではブランがリネよりも上のようだが、司教様もそこには触れなかった。人間が興味本位で知っていいことではないだろう。

「契約の対価は魔剣だとお聞きしましたが、あの魔剣ですか?」
「そうです。モクリークのダンジョンから出たものです」

 壁に飾ってある魔剣を見ている司教様たちの反応が面白い。リネがあれのどこに価値を見出したのか、計りかねている。
 説明を求められても俺にだって分からない。ブランにも分からないようなので、単純にリネの感性の問題なんだろう。

 ブランへの質問が終わったところで、ドガイで育てている付与魔法スキル持ちについて話が移った。
 パン屋の息子が第一号として修行に励んでいるというのは聞いていたが、ついに販売が開始されたらしい。ちょうどいいので、ユウに見てもらおうと持ってきたそうだ。

 魔石の働きを阻害する箱から取り出すと、魔石を入れた器の中にドンドン水が溜まっていく。大中小の魔石で、生み出される水の量も変えてある。これは日常に使えそうだ。

「すごいですね!」
「この大きなものは、井戸水が使えなくなったときのために、全ての教会に備蓄しておく予定です。カークトゥルスから大きな魔石が手に入るようになったお陰です」
「これはモクリークにも欲しいですね。あふれのときに役立ちそうです。国も購入を検討するのではないでしょうか」

 確かにすごい。魔石が井戸の代わりになるなど考えられなかったことだ。今まで大きな魔石は、国などが買い取って、おそらく王宮の防御などに使われていたはずだ。それがこうして庶民に役立つ形で利用されるなど、カークトゥルスから大量に魔石が供給されるようになったからこそできることだ。

「これを一つ、カークトゥルスの前に置いてはどうでしょう」
「冒険者が水をくめるようにですか?」

 現在カークトゥルスの上層には魔石収集のために定期的にAランクが入っているが、中層、下層の大きな魔石はSランクに任されている。この大きさの魔石は下層で出る。
 教会の付与の店が始まってからは、そのSランクが中層や下層で拾ってくる魔石の数が増えたと聞いた。拾った魔石がいずれは自分たちのところへ商品として帰ってくるのだと分かって、拾う人、拾う量が増えたのだ。
 ならば、これを見てさらに拾う人が増えるのではないだろうか。生きていくのに水は欠かせない。こんこんと水が湧き出る魔石をカークトゥルス前に置いておけば、見た目にかなりインパクトがある。冒険者なら、ダンジョン内で水が足りなくなって苦労した経験があるはずだから、この魔石のありがたみがよく分かるだろう。

「効果はありそうに思いますね。冒険者ギルドに相談してみます」
「滑りだしが順調で、嬉しいです。これ、お祝いにあげてください。アイスの水差しです」

 ユウが自分のことのように喜んでいる。その子にプレゼントだと、アイテムボックスからアイスの水差しを取り出した。水の魔石を入れれば、いつでも冷たい水が飲めるだろう。

「モクリークでも最近、孤児院の子どもが付与魔法を持っていることが分かりました。これを見せれば、修行の励みになるでしょう」
「二人目ですね。こちらの修行で躓いたところなどをお知らせしましょう」

 俺が襲撃される前に野営地で会った子どもが成人し、スキル確認をしたようだ。ユウは驚いていないから知らされていたのだろう。

 ユウの優しさが一つずつ形になっていく。
 ユウにとっては生きづらいだろうこの世界で、それでも目標を見つけて一生懸命生きている。
 ユウの努力に恥じないよう、俺も頑張ろう。
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