上 下
613 / 729
連載

王は城に表れる

しおりを挟む
「入ってもよろしいですか?」

 サウザンドの声だ。
 ここはバレンドットの王城の一室で、倉野たちは待機室を借りている状態なのだが、バレンドット側の人間といえども声かけは当然の礼儀だ。
 倉野が慌てて「はい」と返事をするとサウザンドが扉を開けて入ってくる。

「謁見の準備が整いましたので、ご案内いたします。どうぞ、こちらへ」

 そう話すサウザンドの背後には兵士が二人立っていた。彼らは王城の前で見た兵士と同じく、黒の軍服に身を包んでいる。
 知っていたことだが、サウザンドは若いながら人を従える立場にあるのだと再認識させられる。
 倉野たちの話はまだ終わっていなかったが、全てバレンドット前に何度も確認していたことだ。あくまで再確認である。
 すぐに全員サウザンドの近くに集まり、その案内に従った。
 部屋を出た倉野は改めて王城の内装に目を向ける。
 決して貧相というわけではないが、圧倒的に豪華というわけでもない。エスエ帝国にあるグランダー伯爵邸の方が豪華に見える程度の内装だ。
 サウザンドは全員の先頭を歩きながらも背後に気を配っていたのか、倉野の視線に気づき声を掛ける。

「王の住まう城にしては・・・・・・とお思いですか?」
「あ、いえ、そんなことは」

 自分の気持ちを読まれたのか、と倉野が否定するとサウザンドは喉の奥で小さく笑う。

「いいんですよ。王城とは王を表すものです。ときに権力、ときに武力。そしてこのバレンドット王城では、国王様の意志を表しています」
「国王様の意志、ですか?」
「はい。王城などハリボテでいい。豪奢に飾る余裕があるのならば、国民の生活を豊かにするべきだ、というのが築城当時、国王様から受けた指示だったと聞いています。とはいえ、他国の要人や使者を招くこともありますから、文字通りのハリボテとはいかなかったようですが」

 国を想う自慢の国王だ、と言わんばかりに語るサウザンド。そこだけを見れば、国王エクレールに忠誠を誓う騎士にしか見えない。
 本当にゼット商会と繋がっているのか。スキル『説明』が情報を表示しないから、と余計な猜疑心を抱いているだけではないのか。
 疑惑による想像と目の前にいる男の表情が心を惑わせる。
 倉野はわからないことがこれほど不安なものなのだと久しぶりに感じていた。スキル『説明』を得てからは忘れていた感情である。
 
「ああ、こんな話をしているうちに到着しましたね。どうぞ、ここが謁見の間です」

 長い廊下の突き当たり。一際装飾された扉の前で足を止め、サウザンドが説明した。やはり謁見の間は特別なのだとわかる。
 すると、先程までサウザンドの背後で黙っていた二人の兵士が、素早く前に立って同時に左右の扉を開いた。
 この扉の向こうにいるのはバレンドット国王であり、ノエルの父であり、雷帝と呼ばれる男、エクレール・マスタングだ。
 倉野は一度深呼吸してから前へと進む。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界召喚された俺は余分な子でした

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,044pt お気に入り:1,749

冒険者ギルドの受付でチート持ち主人公の噛ませ犬にされた男の一生

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:51

あやかし鬼嫁婚姻譚

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:1,226

異世界でショッピングモールを経営しよう

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,090pt お気に入り:1,831

憧れの召喚士になれました!! ~でも、なんか違うような~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:721

転生したら、なんか頼られるんですが

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:426pt お気に入り:7,168

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。