異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

レインらしさ

　それだけを聞けば、誰もがこう思うだろう。
　デュワールが所持している『ドラゴンの逆鱗』を奪い取れば、解決ではないか、と。
　倉野の持つ様々なスキルを複合させれば、潜入し奪い取ることは可能だろう。『ドラゴンの逆鱗』が実体のある物ならば、の話である。

「厄介だな」

　と、レオポルトが言う。

「まさか、デュワールの奴が『ドラゴンの逆鱗』を体内に取り込んでいるとはな・・・・・・」
「そうだね。だからこそ、ノエルは強行突破するわけにはいかなかった。単身、敵だと分かっているデュワールのもとに向かったんだね」

　レオポルトの言葉に答えながら、レインは窓の外で視線を泳がせた。もしかすると、その先にノエルがいるかもしれない。彼の視線にはそんな期待が感じ取れる。
　左右上下するレインの視線を眺めながら、倉野は己の無力感を胸に覚える。
　現在、ゼット商会に関する情報はスキル『説明』で調べることはできなくなっていた。詳しい原因はわからない。
　だが、ノエルの居場所を探すことができなくなっていることだけは事実だ。
　レインの視線を固定させることすらできない。

「レインさん、すみません。僕が」

　無力感に耐えかねた倉野が口を開いた瞬間、レオポルトが言葉を遮る。

「クラノ。お前さんがすべきことは『それ』か？」

　レオポルトの言葉の意味は倉野だけでなく、レインにも伝わった。
　倉野が優しさ故に、自分を気遣ってくれたのだと。

「いや、悪いのは俺だ。たっく、情けないね。いつまでもこんな顔をして、俺らしくもない。気にせず話を続けてくれ」

　レインは『レインらしく』微笑みながら、手を開いて倉野を促す。
　
「・・・・・・そうですね。ノエルさんはデュワールの口からクリステラルドさんの話も『ドラゴンの逆鱗』の話も聞いています。だからこそ、黙ってデュワールに従い、ついて行くしかなかった・・・・・・僕らに命を預けて」

　倉野が言うとレオポルトたちは力強く頷いた。
　全てはここから始まる。ノエルの選んだ作戦はここからだ。

「預けられたのはノエルの命だけではない」

　倉野の言葉に続けてレオポルトが言う。

「ノエルは自分が守りたいもの全てをワシらに託した。ワシらなら、それができると信じてな」

　そこでようやく、レインは自然な微笑みを浮かべた。

「ああ、俺もそう思うよ。この間、クラノから話を聞いてようやく安心した。ノエルはどこにも吐き出せなかった苦しみを、自分の目から流すわけにはいかなかった涙を、何も掴むことができなかった手を、俺たちに吐き出し、流し、伸ばしてくれたんだ」
「ようやく『らしく』なってきたな、レイン」

　立ち上がりながらレオポルトが言う。驚くほど柔らかい声だった。
　その直後、部屋の扉が何度か叩かれ、外から声が聞こえる。