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エクレール・マスタング

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 独特な重圧を感じる謁見の間。左右に立派な石柱が並び、中央には赤の絨毯が扉から部屋の奥まで続いていた。広さでいえば、エスエ帝国で見た謁見の間と同じくらいである。
 城自体の大きさに差があることを考えると、この王城は必要な部分以外を極端に削っているのだと推測できた。
 そして一番奥には、これみよがしなほど豪華な装飾が施された椅子が存在感を放っている。背もたれ部分があまりにも長く、天井に向かって伸びていた。椅子が後方に倒れないか、と心配になる。
 シェフの帽子よろしく、背もたれの高さで階級を表しているのかもしれない。
 その椅子こそ、王座。
 立派な髭をたくわえた男性が、背中どころか後頭部を背もたれに預けるように座っていた。黄色に近い金髪と鋭い眼光。刺繍だらけの分厚い服の上からでもわかるほど、筋肉質な体。年齢は五十代半ばといったところか。しかし、今すぐにでも戦場で剣を振り回しそうな迫力がある。
 本人を視認して、ようやく倉野の中で雷帝という呼び名がようやく腑に落ちた。
 この男こそ、バレンドット国王エクレール・マスタング。
 エクレールすぐ右にはサウザンドと同じ青の軍服に身を包んだオールバックの男が一人。少し離れてエクレールの左右には黒の軍服を着た兵士が二人ずつ立っていた。
 オールバックの男が一歩前に出て、口を開く。

「こちらへ」

 促された倉野たちはそのまま赤い絨毯の上を歩き続け、王座から数メートル離れた場所で立ち止まる。
 その間も王座から発せられる無言の重圧はひしひしと感じ続けていた。
 倉野たちが立ち止まった瞬間に、オールバックの男がまだ扉のところにいたサウザンドに声をかける。

「サウザンド、お前も入れ」

 指示を受けたサウザンドは右手を左胸に当て、頷くと急いで倉野たちの横に並んだ。
 謁見の間に国王エクレールとサウザンドを含む兵士が六人、倉野たち四人が集まったところでレオポルトが片膝をついて、地面に向かって話し始めた。

「お久しぶりです、エクレール王」

 するとエクレールは気に食わない、といったように眉をひそめて言い返す。

「似合わない真似をするな、レオポルト。お前からそのようにかしこまった口調を聞いたことはないぞ」
「あの頃とは立場が違いますので」
「お前も歳をとったということか。血煙と呼ばれた獅子が、随分と丸くなったものだ。似合わぬな」
「エクレール王は随分と王座が似合うようになられましたね」

 顔を伏せたままレオポルトが言うと、エクレールは鼻で笑った。

「ふっ、それは皮肉か? 確かにあの時の私は王座を得ることに必死だったからな。その意味も重みも理解していなかった」
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