上 下
522 / 729
連載

信念を宿した瞳

しおりを挟む
「賛同に感謝する。クラノの故郷では埋葬の前にしばらく遺体を眠らせておくそうだ。この世でやり残したことを完遂させる時間を与える為にな。そうすることで未練なく旅立てるという考え方をするらしい」

 全てレオポルトの出まかせである。倉野の体を素早く埋葬させない為の偽証だった。
 しかし、すでに信じきっているレイン達は疑うことなく了承する。
 レオポルトの話が終わるとそれぞれ気持ちを落ち着かせるために倉野の部屋を出て行った。
 しばらく埋葬しないと決定したことで最後の別れまでは時間があると判断したのだろう。
 もちろん、レイチェルやリオネはこのまま残ろうとしたがレオポルトが一度部屋で落ち着くように言い聞かせた。
 倉野の部屋に残ったのはレオポルトとツクネだけになる。
 
「クク」

 悲しげな声を出すツクネを抱きしめながらレオポルトが口を開いた。

「ツクネ・・・・・・お前さんが見つけた違和感のおかげで何かが分かりそうだ。しかし、何かが分かったからといってクラノが帰ってくるわけじゃあない。それでもお前さんはワシと来るか?」

 ツクネは全ての言葉を理解しているわけではないが感情を読み取ることはできる。レオポルトの感情を読み取ったツクネはうっすら涙を浮かべてから頷いた。

「クク!」
「そうか、お前さんは強く育っているな。こんなことを言いながらもワシは今すぐクラノが目を覚まさないかと期待してしまっている・・・・・・奇跡を願っている。前に進めば進むほどクラノの死を認めなければならない。お前さんがそばにいてくれれば、ワシも助かる」

 普段は弱音など漏らさないレオポルトが珍しくそう語る。
 出来事が突然すぎて心の余裕も時間も何もかもが足りない。足りなさすぎる。
 どのように調査を進めるべきか、『ピース・リンク』はどうするのか、本当に倉野を殺した者がこの屋敷にいるのか。
 様々な情報と推理がレオポルトの脳細胞を熱していく。考えすぎで脳が沸騰しそうだった。
 しかし、レオポルトはこれまでの経験から考え過ぎてしまう時の対処法を知っている。

「落ち着け。一つずつだ・・・・・・すべきことを順序立てて考えろ。まず、何が起きたのかを調べなければならない。その為には伯爵からの報告が必要だ。『ピース・リンク』については一旦保留・・・・・・クラノを殺した者がいる可能性があるのならば昨夜から今朝にかけての行動を調べる必要がある。その中で今ワシにできることは、仲間を疑うこと」

 まるで自分に言い聞かせるように呟くレオポルト。戸惑いの心がなくなったわけではないが、その瞳には確固たる信念が宿っていた。
 その目で倉野を見つめ、自分の覚悟を言葉にする。

「クラノ、必ず全ての謎を明らかにしてやる。お前から受けた恩を返すには到底足りんが、ワシにできることはそれだけだ。安心して眠っていろ」

 そう言ってからレオポルトはツクネを抱いたままその部屋を出た。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

無能な癒し手と村で蔑まれ続けましたが、実は聖女クラスらしいです。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:7,087

【完結済み】婚約破棄致しましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,343pt お気に入り:8,515

星   

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

転生ババァは見過ごせない!~元悪徳女帝の二周目ライフ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,328pt お気に入り:13,508

その花の名前は

恋愛 / 完結 24h.ポイント:653pt お気に入り:4,164

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:518pt お気に入り:2,319

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。