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旦那様とお買い物

3ー1

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 本当に、なぜあのタイミングで私はプロポーズをされてしまったのでしょうか。

 一度旦那様にも聞いてみたのですが、『したいと思ったから』で済まされてしまったのです。

 過去を思い出していると、御屋敷の中に戻られた旦那様が戻ってきました。

「すまんな、待ったか?」

「いえ、大丈夫です」

 旦那様が私の頬に触れ、優しく撫でてくれます。
 これだけで、旦那様の温もりや優しさが伝わり胸がポカポカ。

「では、くぞ」

「はい!」

 旦那様は私が転ばないように支えてくれ、馬車の中に入ったことを確認すると、旦那様も乗り込み、私の隣に座りました。

「出ろ」

 旦那様の声に応じ、御者席の人が馬車を出発させます。

 カラカラと音が響き、馬車が動きだしました。

 外の景色が動き始め、外にいた女中さん達が腰を折り姿が写ります。

 私も手を振り返し、女中さん達が見えなくなると、今度は景色を楽しむことに。

 ゆっくりと切り替わる景色に、目が奪われます。

 桜が舞い散る薄紅色の道。
 自然の美しさを現しているような光景から目を離すことが出来ません。

「なぁ、華鈴よ」

「はい。いかがいたしましたか、旦那様」

「我より、景色の方が見ていて楽しいのか?」

「え?」

 旦那様のふてくされたような声。
 振り返ると、黒い布で顔を隠していてもわかるほどにむくれている旦那様が私を見ていました。

 ふふっ、プンプンしている旦那様、可愛いです。

「旦那様、私は何よりも旦那様を好いているのですよ? 安心してください」

「それならいいが……。もっと我を構え」

「わかりました。申し訳ありません」

 可愛い旦那様の頭を撫で、ちらっと外を見ます。そこには、何百年も育ち続けている神木が、自然に囲まれ立てられていました。

 周りは桜で覆われておりますが、神木だけは緑のまま。
 風にそよがれ、気持ちよさそうに揺れています。

「神木が気になるか?」

「あ、はい。あの神木は、私が元居た世界と、今いる世界を繋ぐ道、なんですよね? あそこを潜り抜けると、旦那様がプロポーズをしてくださった森の中に行くことが可能だとか」

「そうだ。あの神木で人間の世界に行き来が出来る。そのおかげでぬしと出会う事が出来た。我は喜ばしいぞ」


 ドキッ


 旦那様が膝に置かれている私の手を優しく包みこみます。

 黒い布の隙間から覗き見える口元は微かに微笑まれており、思わず心臓が跳ね上がってしまいました。

「ふっ、これだけでこんなに赤くなるようでは、先が思いやられるな」

「っ! もう!! からかわないでください!!」

「我をおろそかにした罰だ」

 いたずらっ子のような笑顔を浮かべないでくださいよ旦那様、もう!


 やっぱり、私は旦那様には勝てないです。

 神木の前でプロポーズをされた時も、何とか言い訳をしていた私を抱きしめ、耳元で囁かれてしまったのです。

 体がぞくっと震え、甘い匂いが鼻をくすぐり。
 もう、何も考えられなくなった私は、そのまま頷き身を委ねました。

 隣に座る私の旦那様は、本当にずるいし、可愛いし、かっこいい。

 そんな、素敵で自慢なあやかし様です。

 ※

 旦那様と馬車の中で他愛無い話をしていると、目的地に着き馬車が止まりました。

「おっ、着いたな」

「ここって……」

 馬車の窓から外を見ると、そこにはあやかし達が沢山!

 様々なあやかしが真っすぐ並んでいるお店を、笑いながら見て回っています。

 一緒にお買い物を楽しんでいたり、お店番をしている方とお話をしていたりと。

 皆様本当に楽しそうです。
 私も、早く旦那様と一緒に回りたいです。

「口をムズムズさせておるが、そんなに楽しみか?」

「はい!! 旦那様と回れるのです! すごく楽しみです!!」

 思ったことをそのまま言うと、何故か旦那様に笑われました。

 な、何故ですか。
 私は思っていたことを言っただけなのですが……。むぅ……。

「そうふてくされるな、ほれ」

「プフッ! ちょ! 頬を挟まないでください!! 変な声が出てしまったじゃないですか!!」

「可愛い顔してるから悪いんだろう」

「かわっ――!?」

 頬を膨らませてふてくされていると、旦那様が大きな右手で頬を挟めてきました!

 膨らませていたから、空気が口から出てしまい変な声を出してしまいました。

 旦那様の前で変な声を出してしまって恥ずかしかったです!

 旦那様をポコポコしていると、馬車がゆっくりと止まりました。

「ほら、行くぞ」

「むぅ、はい!」

 旦那様が先に降りて、私の手を取り、ゆっくりと下ろしてくれました。

 藍色主体で、桜がちりばめられている和風な鞄を手にし、旦那様と手を繋ぎ市場へと向かいます。

「迷子になるなよ?」

「旦那様が手を離さなければ大丈夫ですよ」

「それもそうだな」
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