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その仄暗い目に
満足した?
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「斗羽は少し話があるから残れ。あと、陽太坊ちゃんは帰りに管理人室に寄って朝日に顔見せてやれ。仕事があるからって嫌そうに寮に戻っていったから。」
鬼束先生が、そう教えてくれた。
本当は起きた瞬間から気になっていた。
会いたくて。
顔が見たい。
少しだけでも会えたら、きっと落ち着くから。
でないと夢に引きずられて不安定になって、腕が疼いて、これまでにない位に酷く腕を噛んでしまいそうだ。
本当に薄情だけれど、駆けつけてくれた姉と話している間も頭の隅では朝日さんの事が気になっていた。
会いたいと子供のように泣きわめくわけにもいかないため抑えていたけれど、本当は早く顔が見たい。
残るのが嫌そうな斗羽を慰めつつ保健室を出たら、途端に頭の中が「朝日さんに会いたい」で溢れた。
自然と足取りも早くなる。
早く、早く。
早く。
気が付いたら駆け出していた。
寮に到着した。
まだ授業があっている時間のためエントランスは閑散としている。
走ってきた勢いのまま管理人室に声をかける。
切れる息がもどかしい。
「朝日さんっ」
「陽太?」
声をかけたら直ぐに管理人室のドアが開いた。
「…ッ」
「おっと。」
管理人室に入り顔を見たら、もう気持ちが追いつかなくて思わず勢いに任せて抱きついてしまった。
朝日さんは驚きながらも、しっかりと受け止めてくれる。
ああ、なんて居心地がいいんだ。
「もう大丈夫か?」
「大丈夫。なんか凄く会いたくて。」
朝日さんの心臓の音が聞こえる。
落ちつ…あれ、落ち着かない。
なんだろう。
朝日さんに会えばザラついた気持ちがなくなると思っていたのに。
凄く安心はするのに落ち着かない。
思わず離れて腕を軽く擦る。
「どうした?」
「…ッ!?」
朝日さんに腕を掴まれた瞬間、両腕が疼いた。
いつものこの感じ。
いや、いつも以上に、ざわざわと体が騒ぎ出す。
噛みたい。
痛みが欲しい。
そういう合図。
朝日さんに会えたら、夢に引きずられて疼く腕も落ち着くと思ってたのに。
駄目だ、帰らないと。
「俺、帰ります。」
知られたくない。
こんな浅ましい、幼さを引きずった本当の自分。
「朝日さん…離して。帰ります。」
逃げないと。
知られてしまう。
朝日さんは勘が良いんだ。
早くここから離れないと。
帰りたいのに朝日さんが離してくれない。
「陽太。」
「帰るからっ…」
抱き込まれた。
離してくれない。
なんで。
どうして。
「前に教えたよな。」
「え?」
「して欲しい事があるんだったら声に出す。」
「うわっ、え!?え、ちょ、朝日さん?」
俺を肩に担ぎ上げて、窓口に「本日は不在」と書かれた札を立てた朝日さんは、そのまま住居の自室に移動してしまった。
そして降ろされた先は朝日さんのベッド。
ポスンと下され組み敷かれ見下ろされる。
腕は相変わらず疼いている。
「俺に会えたから満足した?」
「うん。」
「本当に?」
「うん…ほんと…」
「何か他にあるんじゃないか?」
「…無い。」
嘘だ。
満足なんてしていない。
初めは会いたいだけだったのに。
治ると思っていた腕が、余計疼いてたまらない。
本当は疼きをどうにかして欲しい。
でも腕を噛んで欲しいと朝日さんに頼むなんて、あまりにも浅ましすぎて無理だ。
それに。
会長が言っていた事でハッキリした。
やっぱり本当の俺は無価値な幽霊だった。
本当の俺には価値がないから。
価値がない俺が、何か欲しがったって、誰も何も与えてくれない。
価値がない俺のことなんて誰も見てくれない。
いくら朝日さんでも、本当の俺を見たら呆れるに決まってる。
だって実の母親にさえ見捨てられたのだから。
「陽太。嘘吐くなよ。」
「嘘じゃないっ」
半泣きで訴える。
朝日さんは「珍しく素直じゃ無いな。」と苦笑いして俺を見てる。
鬼束先生が、そう教えてくれた。
本当は起きた瞬間から気になっていた。
会いたくて。
顔が見たい。
少しだけでも会えたら、きっと落ち着くから。
でないと夢に引きずられて不安定になって、腕が疼いて、これまでにない位に酷く腕を噛んでしまいそうだ。
本当に薄情だけれど、駆けつけてくれた姉と話している間も頭の隅では朝日さんの事が気になっていた。
会いたいと子供のように泣きわめくわけにもいかないため抑えていたけれど、本当は早く顔が見たい。
残るのが嫌そうな斗羽を慰めつつ保健室を出たら、途端に頭の中が「朝日さんに会いたい」で溢れた。
自然と足取りも早くなる。
早く、早く。
早く。
気が付いたら駆け出していた。
寮に到着した。
まだ授業があっている時間のためエントランスは閑散としている。
走ってきた勢いのまま管理人室に声をかける。
切れる息がもどかしい。
「朝日さんっ」
「陽太?」
声をかけたら直ぐに管理人室のドアが開いた。
「…ッ」
「おっと。」
管理人室に入り顔を見たら、もう気持ちが追いつかなくて思わず勢いに任せて抱きついてしまった。
朝日さんは驚きながらも、しっかりと受け止めてくれる。
ああ、なんて居心地がいいんだ。
「もう大丈夫か?」
「大丈夫。なんか凄く会いたくて。」
朝日さんの心臓の音が聞こえる。
落ちつ…あれ、落ち着かない。
なんだろう。
朝日さんに会えばザラついた気持ちがなくなると思っていたのに。
凄く安心はするのに落ち着かない。
思わず離れて腕を軽く擦る。
「どうした?」
「…ッ!?」
朝日さんに腕を掴まれた瞬間、両腕が疼いた。
いつものこの感じ。
いや、いつも以上に、ざわざわと体が騒ぎ出す。
噛みたい。
痛みが欲しい。
そういう合図。
朝日さんに会えたら、夢に引きずられて疼く腕も落ち着くと思ってたのに。
駄目だ、帰らないと。
「俺、帰ります。」
知られたくない。
こんな浅ましい、幼さを引きずった本当の自分。
「朝日さん…離して。帰ります。」
逃げないと。
知られてしまう。
朝日さんは勘が良いんだ。
早くここから離れないと。
帰りたいのに朝日さんが離してくれない。
「陽太。」
「帰るからっ…」
抱き込まれた。
離してくれない。
なんで。
どうして。
「前に教えたよな。」
「え?」
「して欲しい事があるんだったら声に出す。」
「うわっ、え!?え、ちょ、朝日さん?」
俺を肩に担ぎ上げて、窓口に「本日は不在」と書かれた札を立てた朝日さんは、そのまま住居の自室に移動してしまった。
そして降ろされた先は朝日さんのベッド。
ポスンと下され組み敷かれ見下ろされる。
腕は相変わらず疼いている。
「俺に会えたから満足した?」
「うん。」
「本当に?」
「うん…ほんと…」
「何か他にあるんじゃないか?」
「…無い。」
嘘だ。
満足なんてしていない。
初めは会いたいだけだったのに。
治ると思っていた腕が、余計疼いてたまらない。
本当は疼きをどうにかして欲しい。
でも腕を噛んで欲しいと朝日さんに頼むなんて、あまりにも浅ましすぎて無理だ。
それに。
会長が言っていた事でハッキリした。
やっぱり本当の俺は無価値な幽霊だった。
本当の俺には価値がないから。
価値がない俺が、何か欲しがったって、誰も何も与えてくれない。
価値がない俺のことなんて誰も見てくれない。
いくら朝日さんでも、本当の俺を見たら呆れるに決まってる。
だって実の母親にさえ見捨てられたのだから。
「陽太。嘘吐くなよ。」
「嘘じゃないっ」
半泣きで訴える。
朝日さんは「珍しく素直じゃ無いな。」と苦笑いして俺を見てる。
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