70 / 84
その仄暗い目に
嵐のように去っていく
しおりを挟む「ちょっと前の家族の話聞いてビックリしただけだから。大丈夫だよ。」
嘘じゃない。
忘れかけていた本来の自分の価値を改めて突き付けられて驚いてしまった。
それだけの事だ。
俺が「柚木陽太」だから、みんな俺に構ってくれている。
そのことを、すっかり忘れかけていた。
思い出したから驚いただけ。
だから大丈夫。
「そう…。分かった。無理しないようにね。」
「うん。有難う。井上さんも、ありがと。」
「坊ちゃん…。」
坊ちゃんっていうの恥ずかしいからやめてくれないかなぁ。
そう呼ばれるたびに鬼束先生が面白そうに俺を見てくる。
絶対後で揶揄われる。
あれ?保健室のドアが少しだけ空いてる。
「…誰か居ますか?」
「悪い、立聞きするつもりじゃ無かったんだ。」
おずおずと保健室に入ってくる天使。
斗羽ちゃんだ。
斗羽ちゃんは俺の事情を少し知っている。
聞かれて困る事はない。
「姉ちゃん、友達の佐野斗羽ちゃん。」
「初めまして。佐野です。」
「まあ素敵!!!!初めまして陽太の姉の皐月です。こっちは執事の井上。陽ちゃんと仲良くしてくれて有難う。ところで貴方の手首のサイズを測っても良いかしら?井上、メジャー!!」
「はい、ご用意しております。」
「え?…え、え?!」
メジャーで手首のサイズを測りだした姉の勢いに怯えて困惑した顔で俺を見てくる斗羽。
とりあえすジェスチャーで謝っておく。
ごめん。
暴走した姉を止められるのは両親ぐらいだ。
俺には無理。
「華奢でシンプルな物が似合いそうだわ!後日、送りますから!ではまたね。陽ちゃん、何かあったら必ず連絡するのよ!」
そう言って姉は帰った。
いつもこうだ。
台風みたいにやってきて台風みたいに去っていく。
保健室に静寂が戻り、呆気にとられていた斗羽が何だったんだと俺を見やる。
「俺の姉ちゃん、綺麗な物見ると暴走する癖があって。触られるの苦手なのに、ごめんね。」
「いや、なんかもう勢いが凄くて、何も考えられないまま終わったから大丈夫。それより陽太こそ大丈夫か?」
「うん。大丈夫。すごい元気。」
そういうと斗羽は少し安堵した顔になった。
みんなに心配をかけてしまったなあ。
「陽太坊ちゃん、念のため今日はもう帰れ。寝る必要はないがリラックスして過ごせ。萱島には俺から言っておくから。ついでに部活の事も聞いといてやる。何も心配するな。」
「わかりました。ありがとうございます。坊ちゃんはやめて下さい。」
鬼束先生が聞いておいてくれるのなら、きっと大丈夫だろう。
会長が言っていたのは何かの間違いだろう。
そう思っておこう。
じゃないと色々と気が狂ってしまいそうだ。
「今回は事情は深く聞かないが、また過呼吸になったら、今度はカウンセリング受けてもらうからな。」
「えー…やだ…では無いです。了解です。」
カウンセリングが嫌で思わず拒否したら凄く怖い顔をされたので、おとなしく了承しておく。
そして保健室から退室しようとしているとき。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。


双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる