細胞がはじけた時が噛み頃です。

三角

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その仄暗い目に

嵐のように去っていく

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「ちょっと前の家族の話聞いてビックリしただけだから。大丈夫だよ。」


嘘じゃない。
忘れかけていた本来の自分の価値を改めて突き付けられて驚いてしまった。
それだけの事だ。
俺が「柚木陽太」だから、みんな俺に構ってくれている。
そのことを、すっかり忘れかけていた。
思い出したから驚いただけ。
だから大丈夫。



「そう…。分かった。無理しないようにね。」
「うん。有難う。井上さんも、ありがと。」
「坊ちゃん…。」


坊ちゃんっていうの恥ずかしいからやめてくれないかなぁ。
そう呼ばれるたびに鬼束先生が面白そうに俺を見てくる。
絶対後で揶揄われる。


あれ?保健室のドアが少しだけ空いてる。


「…誰か居ますか?」
「悪い、立聞きするつもりじゃ無かったんだ。」


おずおずと保健室に入ってくる天使。
斗羽ちゃんだ。
斗羽ちゃんは俺の事情を少し知っている。
聞かれて困る事はない。


「姉ちゃん、友達の佐野斗羽ちゃん。」
「初めまして。佐野です。」
「まあ素敵!!!!初めまして陽太の姉の皐月です。こっちは執事の井上。陽ちゃんと仲良くしてくれて有難う。ところで貴方の手首のサイズを測っても良いかしら?井上、メジャー!!」
「はい、ご用意しております。」
「え?…え、え?!」


メジャーで手首のサイズを測りだした姉の勢いに怯えて困惑した顔で俺を見てくる斗羽。
とりあえすジェスチャーで謝っておく。
ごめん。
暴走した姉を止められるのは両親ぐらいだ。
俺には無理。


「華奢でシンプルな物が似合いそうだわ!後日、送りますから!ではまたね。陽ちゃん、何かあったら必ず連絡するのよ!」


そう言って姉は帰った。
いつもこうだ。
台風みたいにやってきて台風みたいに去っていく。
保健室に静寂が戻り、呆気にとられていた斗羽が何だったんだと俺を見やる。


「俺の姉ちゃん、綺麗な物見ると暴走する癖があって。触られるの苦手なのに、ごめんね。」
「いや、なんかもう勢いが凄くて、何も考えられないまま終わったから大丈夫。それより陽太こそ大丈夫か?」
「うん。大丈夫。すごい元気。」


そういうと斗羽は少し安堵した顔になった。
みんなに心配をかけてしまったなあ。


「陽太坊ちゃん、念のため今日はもう帰れ。寝る必要はないがリラックスして過ごせ。萱島には俺から言っておくから。ついでに部活の事も聞いといてやる。何も心配するな。」
「わかりました。ありがとうございます。坊ちゃんはやめて下さい。」


鬼束先生が聞いておいてくれるのなら、きっと大丈夫だろう。
会長が言っていたのは何かの間違いだろう。
そう思っておこう。
じゃないと色々と気が狂ってしまいそうだ。


「今回は事情は深く聞かないが、また過呼吸になったら、今度はカウンセリング受けてもらうからな。」
「えー…やだ…では無いです。了解です。」


カウンセリングが嫌で思わず拒否したら凄く怖い顔をされたので、おとなしく了承しておく。
そして保健室から退室しようとしているとき。

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