細胞がはじけた時が噛み頃です。

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秘め事の決め事

何から始める

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汗をかいてるため見苦しかっただろうか。
急いでリュックから取り出したタオルで汗を拭き取る。
それでもまだ朝日さんは俺を見ている。


「顔に何か付いてます?」
「陽太。」
「はい?」
「手。」
「…?」


右手をテーブルの上に置いた。
朝日さんの手が徐々に右手に近づいてくる。
それだけなのに何故か緊張する。


「悪い大人に捕まって可哀想にと思って見てた。」


右手の中指の先に、ほんの少し朝日さんの指が触れる。
指先が過敏になり、そこから体全体に広がる痺れ。
心臓がうるさい。


「何から始めようか。」


何から?何からって何の?
触れた指が、ゆっくりと中指を登り、俺の手を包んだ時には何も考えられなくなていた。
朝日さんはそんな俺を、微笑むこともなく鋭く見つめることもなく、ただ見ている。
それだけなのに、この人は、とんでもなく俺を蝕む。
ぼんやりと朝日さんを見つめ返していたら、パッと手が離れる。


「動ける?」
「あ、はい。大丈夫…」


手が離れた瞬間に、店内の喧噪が耳に戻ってきた。
そうだ、ここはカレー屋だった。
昼時になり混んできた。
お客さんが並び始めたため店を出ようかと、そう穏やかに微笑み俺に問う朝日さんは、いつも通りだ。
いや、さっきも別に変わったところは無かった。
ただ、じっくりと見られていただけ。
さっき変になっていたのは、きっと俺だけ。
さも平然と会計をしている背中が少し憎たらしい。


「…痺れてる。」


未だ手に残る甘美な痺れを噛み締め、もしかしたら、とんでもない人と付き合うことになったのかもと実感した。
それでも後悔など微塵も無い自分が少しだけ怖い。





「はぁ。疲れた…」


ショッピンングモールでは朝日さんのジョギング用のウエアを見たり、本屋に行ったり、ペットショップで動物を見たりして楽しんだ。
はしゃぎ回ってモール内を歩き尽くしたら足が疲れてしまった。
通路に置いてあった座り心地の良いソファーで休憩をとる。


「運動しよ。」


日頃の運動不足を実感する。
朝日さんは近くのコーヒーショップに飲み物をテイクアウトしに行ってくれた。
疲れただろうから座って待ってなと気を使ってくれたのだ。

今日は人が多い。
通路は混雑していたが、朝日さんは俺が人にぶつからないように配慮して歩いてくれた。
買い物した荷物は全部持ってくれ、歩くペースも合わせてくれた。
優しいのは俺にだけじゃない。
接客してくれた店員さんにも丁寧に御礼を言っていたし、混雑したレジに並んでいたら後ろのヨボヨボなお婆ちゃんに順番を譲っていた。
この優しさ。
ドン引きされる程のドSというのが嘘のようだ。
でも実際、この前、唇を噛まれた。
思い出すたびに唇が疼く。
あれは衝撃だった。
痛いなんてものじゃ無い。
今まで自分で自分に与えていた痛みなどとは比べ物にならない程の、多幸感溢れる苦痛。


今日は、キス、するのかな。
痛い事するのかな。
何かするのかな。


俯き気味に以前のキスを反芻しながら、無意識に唇を舐めていることに自分では気づかなかった。


変態。


そう耳元で囁かれるまで朝日さんが戻ってきている事にも気づいていなかった。
反射的に耳を手で隠し、驚いて顔を上げる。
にこりと笑ってコーヒーを差し出す朝日さんが居た。
考えを見透かされている。
自分の顔の血管が広がり、ぶわわと赤面するのが分かった。


「今日は、しないよ。」


この前は性急過ぎたと頭を撫でられる。
しないのか。
残念顔をしてしまったのだろう。
ちょっと笑った朝日さんが、よく分からないことを言う。


「しないけど、その代わりホームセンターに行こうか。」


ホームセンター?
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