異世界に行けず現世に戻されたので、僕は今から家出します。

なんだかんだ楽しいかもしれない。

目が覚めたら夜だった。
誰も居ない。
身体中痛い。
ベトベト感はないから、たぶん拭いてくれたんだろう。
叫び過ぎて喉がイガイガする。
もう夜じゃん…宿も探してないし、今日中に家も探し始めたかったのに…


「やってしまった…あー…もう…なんでこんなことに…。」

何か忘れてる気がする。

「……日光浴…魔力…フェロモンのせいか！！」

忘れてた。
魔力増えたらフェロモン出るって言ってた。
なんか甘い匂いするって言われたし、魔力増えた直後だったし。
そうか、ギルド長さんはフェロモンに当てられたんだ、きっと。
魔力が上がるのは良いけど、厄介な副作用だなあコレ…。

ドアからギルド長か戻ってきた。

「おー、起きたな！ほら飲めよ。」
「ギルド長さん…」
「ナックルだ。そう呼べ。」
「あ、はい、ナックルさん、ありがとうございます。」

果実水を初めて飲んだ。
うわぁ！！！
なんだこれ。
屋敷の人間達が毎日飲んでいたのは知っていたけど、僕には飲ませてくれなかった。
こんなに美味しかったのか。
甘くて瑞々しくて冷たい。

「美味しい！」
「初めて飲んだみたいな反応だな」
「うん、初めて！」

勢いよく飲み干す。

「初めて？そんなに珍しい物じゃないだろう」
「あー、あんまり、裕福な家庭じゃなかったというかーそんな感じです。それよりナックルさん、どこか今日まだ空いてそうな宿知りませんか？」
「ここに泊まっていけばいいだろう」
「え、それはちょっとなあ…」


さすがになあ、フェロモンのせいとはいえ、あんな事した人の家で寝るのはな…

「もうなんもしねーよ。悪かった。夜は危ねぇから、ここに泊まれ。風呂入って飯食ってゆっくり寝ろ。」
「お風呂！！泊まる泊まる！ナックルさんありがとう！」

お風呂に入れるなんて。
なんて贅沢だよ。







湯気が出てるけど、これ入って大丈夫なの？
恐る恐る湯に浸かる。
ちゃぽん。


「はぁ～～～～あったかい…」

人生で初めてのお風呂。
全身が弛緩する。
こんなに良いものに入れる日が来るなんて。

「ぅ…」

涙が出てきた。
家も無いし、親も兄弟も捨ててきたけど。
今までで一番幸せだ。
ナックルさんも、なんだかんだ世話をやいてくれる。
家出して良かった。
あの屋敷に居るよりずっとずっと楽しい。
お風呂で気が緩んだせいかな、涙が溢れて止まらない。

「っはぁ…めっちゃ泣いたなあ…。」

産まれて17年分の涙が出た。
すびっと鼻をすする。

「家出したは良いけど、これからどうしよう…」

何をしたらいいのか分からない。
人生を楽しむ。
そんな事絶対出来ないと思っていたけど、もしかしたら僕にも出来るのかな。
そうだよ。
もう自由なんだから。

「決めた！」

人生を楽しむ努力をしよう。
その為に何をしたらいいかは、まだ分からないけど僕の二度目の人生の目標は決まった。
あんな屋敷の人間のために生きる人生なんてまっぴらごめんだ。

「僕は僕のために人生を楽しく生きよう。」


手始めに、お風呂のある家が欲しいな。
一軒家じゃなくていいから、明日はお風呂のある物件を探しにいこう。
楽しくなってきた。