魔拳のデイドリーマー

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第17章 夢幻と創世の特異点

第325話 最後の『模擬戦』……の、説明

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作 者:今年の一文字『災』でしたね。

ミナト:「僕の年だ!」

エルク:「もう今年終わるんだけど」



*****



イーサさんたちとの模擬戦を終えて……翌朝。

僕らは、最後の『模擬戦』の相手を行うため、第一王女様達に指定された……『対特殊部隊』の模擬戦会場を訪れていた…………はずだったんだが。

えっと、何で僕今、こんなところにいるんだろうか?

……今僕は、王都『ネフリム』の外れに設けられている、周囲を自然に囲まれた、そこそこ豪勢な貴族の邸宅、あるいは別邸みたいなところに、仲間たちを伴って訪れていた。

同伴している仲間は、『邪香猫』全員ではなく……エルク、ナナ、シェリー、クロエ、そしてセレナ義姉さんの5人である。エルク以外は全員元貴族、あるいは高級軍人という顔ぶれだ。
なぜかはわからないけど、この布陣でお願いする……という申し出があった。

まあ、構わないけど……エルクや義姉さん、ナナやシェリーはともかく、クロエは戦闘能力そこまで高くないんだよな。特に白兵戦は。模擬戦に出てもらうにはちと難があると思うんだが……特に、あの連中が相手となれば。

いや、それ以前にだから……なんか、これから模擬戦が始まるって感じがしないんだけど。
シェリーとか、てっきり戦闘になると思ってただろうから、ちょっと不満そうなんだけど。

何でこんな、むしろ穏やかにのんびり過ごすための場所って感じの邸宅に呼ばれたんだ?

しかも、服装の指定が『なるべく武装しないで普段着で来てください』って……。
武器の所持自体は禁止されてなかったから、『帯』に収納しておいてるけど。

……さっぱりわからん。重ね重ね……これから模擬『戦』するんだよな?

と、思っていたら、ギィ……と扉が開き、中から……

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました……ミナト・キャドリーユ様」

そんな言葉と共に、1人の女の軍人さんが出て来た。

やや短めの、ほとんど黒に近い深緑色の髪。背が高く……頭の上に2本、触覚みたいなアホ毛。
軍服をぴしっと着こなしている彼女には……見覚えがある。以前、王都に来た時に会っている。

会ったのは、僕の記憶が確かなら、その1回だけであり……こないだの『シャラムスカ』では残念ながら会うことはなかったものの……あそこにもいたはずの女性だ。
割と特徴的な見た目だったことも手伝って、よく覚えていた。

……最も、見た目よりもその中身というか、肩書が特徴的なんだけどね、何よりも。

彼女の名は、『カタリナ・リー』。
ネスティア王国軍において、最強の特殊部隊と言われる『タランテラ』。その、隊長である。

昆虫系の獣人であるということ以外は何も知らないんだけど……こうして今、改めてそのたたずまいを見ると、確かに、一流の戦士を思わせる隙のなさ、っていうものが見て取れる。

ただ、義姉さん情報だと、意外と茶目っ気もあったりするらしいんだが……そういう面はまだ見ることができていないな。

そのカタリナさんは、『どうぞお入りください』と、僕らを普通に邸宅の中に招き入れ……普通に接客する感じで、リビングか応接間か、って感じの部屋に案内した。

「本日は我々……特種部隊『タランテラ』の模擬戦のお相手をお勤めいただけるということで、ありがとうございます。これより模擬戦開始前のご説明をさせていただきますが、今しばし準備の時間をいただきますので、それまでごゆるりとおくつろぎください」

「くつろいでいいんですか? その……これから説明していただけるということでしたけど……模擬戦、なんですよね」

「はい、間違いございません。ただ、極めて特殊な形式のものとなります。もっと申し上げれば、必ずしも『戦い』が主軸となるものではありませんので、『模擬戦』というよりも『訓練』と言った方が正確かもわかりかねます」

「………………???」

訝し気に思いつつ、応接間のソファで、出された紅茶とお茶請けのスイーツをいただいて、しばらく待っていると……更に僕らを混乱させるもの、というか者が現れた。

『失礼いたします』と、断って、扉を開けて入ってきたのは、1人のメイドだった。
ただし、その顔には強烈に見覚えがあり……僕の記憶が正しければ、この人の職業はメイドではなかったはずだ。

「……何してんの、マリーベル?」

ブロンドの長髪にすらりとした体躯が特徴的な美少女……マリーベル・パーシマン。

カタリナさんと同じ……というか、その部下である『タランテラ』のメンバーに間違いないはずなのだが……なぜこんなところでメイド服をまとっているのか。

しかも、僕が今声かけても、無言で、しかも優雅さすら感じる挙動で会釈を返すだけだった。
ああ、お仕事モードなのか、と直感すると同時に、カタリナさんが口を開く。

「それではこれより、本模擬戦についての説明に入らせていただきますが……」

が?

「私からは最低限の説明だけさせていただき、後のことはマリーベルに任せることとなりますので、あらかじめご承知おきください」

「…………??」

結局、事前の予想ってものが何一つできないままここに来たわけだが……まあいいか、ようやく説明入ってくれるみたいだし。

そして、ようやく彼女の口から、今回の模擬戦、というか『訓練』の簡単な概要を聞くことができたわけだが……これがまた、かなり変わり種のそれだった。

「潜入捜査及び情報入手の訓練……ですか?」

「はい。今回ミナト様にご協力いただきたいのは、その相手役になります」

ちょっと今まであんまり聞いたことのない模擬戦の内容に、僕ら一同困惑している中……いや、よく見ると義姉さんとクロエは、微妙に心当たりありそうな表情しているな。
とりあえずそんな中、説明は始まった。

「ご存じの通り、我々『タランテラ』は特種部隊であり、多岐にわたる困難な任務を、その時々の状況に応じて命じられ、そして完ぺきにこなすことが求められる部隊です。そこに下される命令の内で最も多いものの1つが、敵地への潜入、およびそこからの情報や特定物品の押収です」

ふむふむ。なるほど。スパイみたいなもんかな?
で、これからやるのは……その訓練ってことか。

「つまり……僕は、その『情報』とかを盗まれる側として相手をするってことですか?」

僕の問いかけに、カタリナさんはうなずくと……恐らくは収納系のマジックアイテムを使ったのだろう。虚空から、アタッシュケースのような見た目の金属の箱を取り出し、机の上に置く。

それを開いて中を僕らに見せる。そこには……色付きの宝石が5つと、封筒が3つ入っていた。

宝石はどれも大きさや形が違う。ビー玉くらいのものから、握り拳大のものまである。ただ種類は……単なる水晶か、それに近いものだな。見た目はキレイだけど、高価なものじゃない。

一方、封筒はどれも同じ大きさ――B5くらいかな――で、何の変哲もない紙の封筒だ。それぞれでっかく①、②、③と番号が振られている。
中身は……書類か何かが何枚か入っているようだが、封がされていて見ることはできない。

「こちらが今回使う道具です。特に名称を設定しているわけではありませんが、水晶は『宝』、封筒の方は『情報』と呼称させていただきます。ミナト様、及びお仲間の皆様には……これらの『宝』と『情報』を、奪われない、あるいは盗まれないように、隠し、守ってもらうことになります」

ふむふむ。なるほど。

「それでは簡単に説明いたします。ミナト様及びそのお仲間の皆様にはこれより1週間の間、この館に住み、こちらの指定するスケジュールで生活していただきます。そしてその中で、『タランテラ』の隊員達から、これらの『宝』と『情報』を奪われないように守ってもらう……というものです」

その後も続いたカタリナさんの説明は、『簡単に』とは言ったものの、割と複雑で長かった。
それだけ重要な訓練だってことなんだろうけどね。話し方が上手いから、すっと頭に入ってきたのは助かったな。

まず、この『情報』という名の3つの封筒は、3つとも僕が、
『宝』と名付けられた5つの宝玉は、エルク達がそれぞれ1つずつ持つ。

これらを、『タランテラ』の隊員達から奪われないように守る、ということだが……彼女たちは、僕らがここに滞在する7日間のうち、いつどこでどんな風に、これらを狙ってくるかわからない。

方法については、完全に彼女たちに一任されているそうだ。要するに『何でもあり』。
守る僕たちの方も『何でもあり』だそうだが。

そしてこの『情報』と『宝』だが、ただ持っているだけじゃなくて、これを使う時がある。

まず、僕が預かる『情報』だが、訓練開始から3日目と5日目、そして最終日の7日目に、カタリナさんに1つずつ『提出』することになっている。
さらに、エルク達が預かる『宝』も、最終日7日目に、カタリナさんに『提出』する。

しかしこの『提出』だが、単に彼女が取りに来るとかそういうわけではなく、場所や時間といったものを、事前というか直前に彼女が指定してくる。その場所・その時間に、『情報』や『宝』を持って行かなきゃいけないわけだ。

つまり、そのための運搬に動く時間は……僕らにとっては最も危険なタイミングであり、逆に『タランテラ』からすれば、『情報』と『宝』を強奪する絶好の機会ということになるのである。

もっとも、そのタイミングは、『宝』なり『情報』を持っている本人とカタリナさんしか知らないので、それを調べる、あるいは察知するのは簡単ではないだろうが。

もちろん、僕らは襲ってくる『タランテラ』の面々を撃退してもいいし、何なら捕縛してもいいそうだ。この館の地下室には牢獄が備え付けられており、その鍵も貰った。襲撃、あるいは盗みに忍び込んできた『タランテラ』の隊員を捕まえて、そこに入れておくことができる。

どうやらこの人選は、その隊員たちに『戦闘面でも注意しろ、下手をすると返り討ちに遭うぞ』という意味も込めての人選らしい。確かに、僕の仲間たちで、師匠を除けばトップクラスのがほぼ集まってるからな……

……そうなると、言っちゃ悪いけど、戦闘力では中途半端なクロエがなぜ選ばれたのか、余計に疑問だったけど……少し考えると分かった。

彼女確か、『タランテラ』と同じような特殊部隊の出身だった。

つまり、手の内を知っている敵、ということになる……なるほど、そりゃ難易度上がるわ。

そしてこの模擬戦は、①僕らが『情報』と『宝』の全てを奪われる、②『タランテラ』が全員捕縛される、③7日目の規定の時間を迎える、のいずれかを持って終了となるそうだ。

☆☆☆

以上がカタリナさんから説明されたことで……彼女は僕にそれを説明した後、『では私はこれで失礼します』と言って去っていった。

後に残されたのは、僕ら6人と……メイドのマリーベルだけだ。

……ああ、そういえば1つ、さっきのカタリナさんの説明から拾い忘れていた。

「じゃあ、マリーベル……君は、一応だけど僕らの味方なんだよね?」

「はい。規定上、限界はございますが、誠心誠意尽くさせていただきます。何なりとお命じくださいませ」

「……とりあえず敬語やめよっか。仕事の場ではともかく、僕ら身内しかいないところでは普通にして。息が詰まる……っていうか、君の敬語とか違和感酷いし」

「あ、そう? じゃあお言葉に甘えて……っていうかミナト何気にひどくない? そんなに私失礼っていうか、敬語似合わないかなー」

と、僕が許可した瞬間に、見事なまでの変わり身で態度を崩すマリーベル。
うん、やっぱこの娘はこっちの方がいいな。

もともとが、シェリーとタメ張るレベルにフランクで自由な感じの性格だし、僕も彼女のことをそうやって認識している。だから、こうしてくれるとこっちとしても……っと、話がずれた。

「で、話戻すけど……今回、マリーベルは味方なんだよね? 僕らの」

「うん。といっても、何か手を貸せるってわけじゃなくて……単なる『アドバイザー』だけどね」

特殊部隊『タランテラ』の構成員は、隊長であるカタリナさんを入れて、全部で6人いる。
内、今回の訓練で僕らが戦うことになるのは……カタリナさんとマリーベルを除く4人。
ミスティーユさん、ムース、メガーヌ、そして……まだ顔も名前も知らない最後の1人。新入りらしいから……以前、王都でバトった時は、まだ入隊前だったのかも。

今回、カタリナさんは審判役及び、模擬戦全体の進行役であるため、どちらかに助力する立場には立たない。ゆえに中立。

そしてマリーベルは、こちらも今回は僕とは敵対せず、むしろ僕の味方に付く。

ただし、戦力的な意味で味方したり、情報提供してくれるわけじゃなく……この模擬戦の細かいルール等についてのアドバイザーとしてだ。

さっきのカタリナさんの説明だけではわからなかったようなことや、場面場面で『こういう時どうしたらいいんだろ?』っていうようなことを、相談して答えてくれる……言ってみれば、ヘルプ機能みたいなもんである。
それ以外は、メイドとしての仕事のみでの助力になるらしい。地味にありがたい。

この立場が覆ることは絶対にない。例えば……味方とか中立とか言って油断させて、残念裏切り者でした! とかいうような展開はない。ルールとして規定している、と断言された。

「あ、ちなみにメイドの業務であれば何でもするから、遠慮なく命令してね? お茶淹れろとか、買い物行って来てとか、ベッドの上でご奉仕とかでもオッケーだから」

と、笑顔でのたまうマリーベル。またこの娘は……いっそ気持ちいいくらいに変わんないな。

さっきも言ったが、こういう軽口はマリーベルにとっていつものことである。シェリーと同様、いちいち恥ずかしがってるとかえって面白がって加速するので、適当に返しておくのが一番……かと思って聞いていたら、

「も1つちなみに。からかいが含まれてないわけじゃないけど……今回割とマジだよミナト。むしろこの訓練全体通して、そういうのも訓練の一部、一環って感じで組み込まれてるからね」

「……? どういうこと?」

相変わらずのかわいらしい笑顔だが、まとっている空気が若干……なんていうのかな、以前『特殊部隊』としてのマリーベルと対峙した時の、プロフェッショナル的な空気に感じられた。
内容考えるととてもそうは思えないんだが……真面目な話なの、かな?

マリーベルは『順番に説明しようか』とまず言って、

「まず、ちょっとおさらい含めて……さっき隊長が言ってたことをより詳しく説明するね。ミナト達は『宝』と『情報』を、メガーヌ達に奪われないように守るわけだけど、これは当然、どこにどう置いておくかはミナト達に任せられる。館のどこかに隠しておいても、自分で肌身離さずもっていてもいい。何なら、収納系のマジックアイテムに入れておいてもOK。ただし、王都から外へは持ち出さないこと。これはルールとして守ってね」

「王都から……って、随分範囲広いわね? いいの、そんなんで? それだと、王都の貸金庫とかに預けちゃってもいいわけでしょ? それで、『提出』の日に取り出すとか……」

と、エルクが聞くが、マリーベルは表情も顔色も一切変えず、

「全然いいよ? けど、おすすめはできないかなあ……そんなところに預けたら、多分、その日のうちにはメガーヌ達があの手この手で回収しちゃうだろうし」

「……え、マジで?」

「うん、マジマジ。特殊部隊舐めちゃだめだよ、エルクちゃん。エルクちゃんが利用した金庫を調べた後、色々裏から手を回して中のモノ押収するくらい簡単なんだから。向こうも『何してもいい』わけだから、当然、軍人として使える権限フルに使ってくるよ?」

「あー、そういう感じになるんだ? めんどくさ……普通に自分で持って守ってた方が確実ってことかしら?」

「シェリーちゃんくらいの実力ならそうかもだけど、それならそれであの手この手だからね……何をすれば絶対に安全、とかは多分ないと思うよ」

「特殊部隊なら、国家権力としての『権限』のみならず、あらゆる状況を想定し、その場面にあった手札を選択して切る能力を備えているはずですからね……仮にこちらが戦うつもりでも、そのまま乗ってくれるとは限りませんし。むしろ空回りさせて隙をつくくらいはするでしょうし……」

「装備としてのマジックアイテムの種類も半端じゃないわよ。私が知ってる限りでも、鍵開けや盗聴、無音移動に睡眠薬……まあ、あげ連ねていけばきりがないくらいの装備があって、自身のスキル備えているはずだし……収納アイテムを強制的にこじ開けるアイテム、なんてのもあったわね」

「おおっと、さすが詳しいね、ナナさんにクロエちゃん。さすが古巣。こりゃ単に強いだけの敵より俄然注意が必要だなー、この2人は」

「……その『ただ強いだけ』って……僕?」

「あっはっは……まさか、何言ってんの。ミナトはむしろ一番危険だから」

いきなり真顔になるな。怖い。
『一番何してくるかわからない』とのことです。

すると、『はい』って感じで、視界の端で挙手する人物が1人。
先程から考え事をしている風だった、セレナ義姉さんである。

「ネスティアの特殊部隊の優秀さや容赦のなさは……掘り下げても仕方ないから置いときましょ。それよりマリーベルちゃん、もうちょっと詳細な説明貰えるかしら」

「あ、はいはい。えーと……例えばどういった点について?」

「そうね……この『模擬戦』って、『実戦形式』でやるのよね? それなら当然、奪った奪われたではいおしまい、って感じじゃないんでしょ? そのへん詳しく」

「ああ、なるほど。了解しました」

元軍人であるセレナ義姉さんは、さっきまでの説明を聞いて引っかかる、確認しておきたい部分があったようだ。こういう場面では、彼女の昔取った杵柄が役に立つ。

『実戦形式』……か。まだ何か掘り下げる部分があったのかな?

「さてミナト。さっき隊長の説明で、奪われないように……っていうのがあったと思うけど、正確には仮に奪われてもそこで終わりじゃないの。『奪い返す』のもあり」

「奪い返す? 『タランテラ』のコたちから?」

「そう。『タランテラ』の隊員も、ミナト達と同様に、手に入れた『情報』や『宝』を、指令に従ってカタリナ隊長へ『提出』することになってるの。だから、その間に見つけ出して奪い返せば、それでチャラにすることもできる……勿論、簡単じゃないけどね?」

「そりゃ、まあ……隠れてる相手を見つけるわけだしね。そりゃ簡単にはいかないでしょ……あの時と同じで、『サテライト』は禁止されてるしね」

今回の任務、不意打ちやら潜伏が重要になってくる部分が多々あり……そのへんをまるっと無効化してしまう、エルクの伝家の宝刀『マジックサテライト』は、チートすぎるので禁止された。
『何でもあり』な今回の模擬戦の、唯一の例外である。

あれ、最近どんどん精錬されてきて、自動マッピングに加えて、その気になれば個人まで特定できるからね。魔力の残滓とかを追尾して、盗まれたものを見つけ出す、なんてこともできるし、魔力を遮断・封印して感知から逃れようとしても無駄だったりするのだ。

『実戦形式』……あらゆる状況を想定する、という訓練の目的から見ればとしては、むしろ使った方がいいのかもしれなかったが、さすがに使った瞬間隠密行動も何もあったもんじゃなくなるとあっては、禁止せざるを得なかったとのことだ。味方にする分には頼もしいが、敵に回すと恐ろしく、何より訓練するには加減が効かなくて向いていない代物である。

とはいえ、なるたけ『実戦』に近づけたいという第一王女様の要望もあり、『1日1回、3分間だけ使用可能』という条件をいただいている。

これを守るかどうかは、さすがのカタリナさんも観測のしようがないので、僕らを信用してくれるそうだ……そんなこと言われたら、裏切るわけにはいかないな。

「……っと、また話がそれそうになった。えーと、つまり……そういう感じで、遭遇した、あるいは襲撃されたところから追跡するなりして、奪い返せばそれもアリってことね」

「そうね。あと、他の方法としては……捕縛した隊員を尋問して吐かせてもいいし」

「「「尋問!?」」」

突然飛び出した物騒な単語に、僕らの声がそろう。……義姉さんとクロエ以外。

え、ちょ……今何て言った!? じ、尋問って!?
そ、その……色々やって情報を吐かせる、あの尋問?

「そう、その尋問。程度によっては拷問、とも言うね」

「いや、そんなさらっと……」

「……さっき説明途中で止まっちゃったけどね……この『模擬戦』、そのへんマジというかガチで組まれてるんだよ、ミナト」

と、僕の言葉を遮るように言うマリーベル。おっほん、と咳払いをして、姿勢を正す。
この話題は……さっきの『メイドの仕事にベッドの上でのご奉仕云々』の続き……か?

「この訓練において、ミナト達が捕縛した隊員については、地下牢に監禁することの他……肉体的苦痛や、あるいは性的な恥辱を伴った行為による『尋問』ないしは『拷問』も許可されています。また、度を越さない範囲であれば、精神干渉系の魔法や、薬品の使用も可能です」

「……!?」

マリーベルは、いつもの笑顔のまま――しかし、目だけは真剣だ――さらっとそんなとんでもないことを言う。
『やだなー冗談だよ』とか言って、訂正する気配は…………ない。

「ちょっと、それ……マジで言ってるの?」

僕が絶句していると、さすがに驚きを隠せない状態で、代わりにエルクが問い返す。

「マジだよー、エルクちゃん。大いにマジ。そういうのも『訓練の一環』として組み込まれてるの。『タランテラ』の隊員は全員、今回の任務に際して用意した仮の拠点の場所や、押収した『情報』や『宝』の提出場所・時間なんかの情報を共有するからね、直接探してる相手じゃなくても、別な相手を見つけて捕縛できれば、その娘を締め上げて吐かせる、っていうやり方もできるわけ」

「……今言ったみたいなやり方で?」

「そ。縄で締め上げて血が滲むまで鞭で叩くもよし。裸にひん剥いて組み伏せて、前後不覚になるまでひーひー言わせてもよし。絶食、催眠、投薬……極端な話、後から治療して治せるなら割と何しても許容範囲だよ。こっちとしても対尋問の訓練になるし……なんなら質問とか何もせずに、単に慰み者にしてもいい。誰も何も、文句は言わない……『実戦』なら、起こりうることだからね」

「……っ……」

「ただし、余りに度を超えている場合は、アドバイザーとして私の判断でストップをかけるから……もしそうなった場合は、指示に従ってね。所謂『ドクターストップ』だと思えばいいかな。それの関係で、私はこの期間中、正常な思考能力・判断力を保つ必要がある。だからさっき言った通り、メイドとしてベッドの上でのご奉仕を命令しても全然いいけど、判断力が欠落するような過激な、度を越した行為はNGだからね。それは覚えておいて」

すらすらとマリーベルの口から出てくるあんまりな内容に……言葉が出ない。

内容そのものは、煽情的な感じの文言を多分に含むのに、提示されているシチュエーションその他が、別な意味で刺激的、ないし過激過ぎるせいで、正常に反応できない感じだ……。

あくまで『想定』だけとはいえ、何ちゅう内容だよ、今回の『模擬戦』……
いや、別に僕は、今マリーベルが言ったようなことを実行する気はないんだけども……

などと考えていたところで、マリーベルは『ああそれと』と、思い出したようにさらに続ける。

「……ちょっとだけ、アドバイザーの領分を超えちゃうかもしれないけど……2つほど、ミナトに助言をしておこうかな」

「助言?」

「そ。まず、捕縛しても油断はしないこと。ミナト達が『宝』とかを奪い返せるのと同じように、『タランテラ』の隊員も、一度捕まっても普通に脱獄して戦線復帰が認められてるからね。自力で脱出するなり、仲間が助けに来るなりして……油断してるとあっさり逃げられるから」

なるほど……道理といえば道理だな。

「そしてもう1つ。さっき言った通り、捕縛した女の子には何してもいいけど……そっちでも油断してると痛い目に遭うよ? むしろ、私達みたいに、ハニートラップで男を落とすことも仕事のうち、っていう女は……捕まってからが本番、その腕の見せ所、っていう場合もあるんだから。若いカラダに夢中になって溺れてると……気づかないうちに足元救われるかもよ」

…………あのねぇ。

「マリーベル、さっきも言ったように、僕はそういうのはないから安心して」

「うん、さっきも聞いたけど、あくまでたとえ話だからね。……別に、えっちな方向の話だけじゃないんだよ。ミナトってば優しいからね……むしろ、そっちにつけこまれる可能性の方が心配」

「そっち、って……?」

「例えば……そこそこ長い付き合いで、仕事を一緒にこなしたり、助けたり助けられたりした、信頼できる間柄の女の子がいたとして……そうだな……レジーナさんなんかどうかな?」

ああ、まさにそんな感じの間柄の子だな。何で名前出したのかはわかんないけど。
……それに、君たちとレジーナの間に面識って……ああ、シャラムスカで会ってるか。

そうじゃなくても、『リアロストピア』の一件の中心人物の一人だからね。特殊部隊とか軍人なら、知識ないし情報として抑えていてもおかしくはない。

……で、レジーナが何だろう?

「もし、どうしても困ってるからお金貸して、って言われたら? ちょっと行きたいところがあるから、何も言わずに連れていって、とか……あるいは、貴方のことが好きなの、お願い、抱いて……1番じゃなくてもいい、貴方に迷惑はかけないから……とか言われたら、ミナトならどうする?」

「……要するに、簡単に信用するな、って言いたいとか?」

何か、特殊詐欺とか、美人局みたいな手口に聞こえるよ、思いっきり。
というか、なぜそれにレジーナを例に使ったんだ。彼女はそんなこと……

「わかってる。立場とか、立ち位置的にちょうどいいから名前借りただけだよ……でも、もし同じような親しい立場の女の子がいて、その子に真剣に言われたら? 心を揺らすことなく、例に徹して……必要なら、その子を傷つけてでも断ることができる?」

「……えーと……」

すぐには、答えられなかった。

よからぬことを企んでくる奴や、付き合いだしてまだ間もないのにそんなこと言ってくるような奴なら、軽くあしらって気にもしない、って断言できるんだけど……親しい、と言える女のこととかに、正面切ってそういうことを言われたりすると……なあ……。

もしもというか、実際に何度か……そうして、親密な仲になった経験、あるし……いや、彼女達に何か不満や、その選択に後悔があるってわけじゃ、全然ないんだけど。

「うん、迷うよね……それはそれで正常だと思うよ、けど……」

マリーベルはそう言うと、一拍置いて、

「私達みたいなのはね……自分で言うのもなんだけど、そういうところにつけ込むのも得意なんだ。人の善意を利用して、自分に都合のいい感情を抱かせて、利用する。そのために……時に何か月、何年もかけて、信頼関係を形作る下準備をしたりする。まさかそんな、って裏をかくために」

マリーベルは、笑みを消し……真剣な表情になって、僕の目を正面から見て、言う。

不思議なもので……彼女の言葉は、演技でも何でもなく、彼女が本心から言ってくれているのだということが、何となく心で感じ取れるような気がしていた。

「今のは極端な例だし、そもそも今回の訓練はたった1週間のことだし、前提条件が全部違う。けど、根っこのところは同じ……泣き落とし、奇襲……相手の想定外の所から切り込んで突き崩す。決して、相手に分があるような舞台での勝負はしないの。ミナトは強い。戦ったら絶対に勝てない。なら、戦わなければいい。直接戦わず、回り込んで首元に手を回す……それなら……。バカにしているように聞こえるかもしれないけど……やり方は、いくらでもある」

今度はマリーベルは、ずいっ、と、顔を僕の目の前に……それこそ、あと1~2cmでキスできてしまいそうなくらいに寄せる。そして、さっきまでとは打って変わって……自信たっぷりの挑戦的な笑みを浮かべて、言った。

「そうは聞こえないかもしれないけど、善意からのアドバイスだよ、ミナト。今回は残念ながら、私が直接それを見せることはできないけどぉ……自分より弱い、ってくらいで、私の仲間達を甘く見てると……痛い目見る暇もなく・・・・・・・・・終わっちゃうよ? ミ・ナ・ト♪」



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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

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