魔拳のデイドリーマー

osho

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第17章 夢幻と創世の特異点

第324話 オールスター・キャッツ

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(剣、じゃと?)

ミナトの手に突如出現した武器を目にして、イーサは訝し気な視線をそこに向ける。

いきなり剣がその手に現れたことに対する驚きはない。ミナトが様々な発明品を携行し、武器として使ってくることは――そのほとんどがろくでもないものであるということも含めて――前情報として頭に叩き込んでいた。

この模擬戦の趣旨からして、そういったものを『収納』から取り出して使用することを禁止することはないため、これもイーサにとっては想定の範囲内だ。

(問題は、その能力が想定しようがないところじゃがな……)

見た目こそ剣だが、次の瞬間、突拍子もない攻撃手段をそこから発現させても何もおかしくない。それがミナト・キャドリーユという男の怖さである。

彼が今手にしている剣は、どこかメカメカしい装飾が特徴的な剣だ。大きさは『大剣』と呼べるサイズで、見た目通りの重さなら、並の兵士では持ち上げるのも困難だろう。
それを片手で平然と持っているミナトは、イーサが警戒して様子をうかがっている中……隠すことなど考えていないように、早速その大剣のギミックを発動させた。

横一線に、ぶん、とミナトが剣を振るった瞬間……その剣が突如、砕け散った。
いや、正確には……複数のパーツに分解し、一瞬、無軌道に浮遊したかと思うと……次の瞬間、それらが、剣を持っているミナトの右手から右肩にかけてを覆っていく。

「……鎧、じゃと?」

「キャッツアームズ……『レッドバーサーカー』!」

完成したのは……ミナトの右肩から先を覆う、これまたメカメカしい外見の鎧。
その右手に、先程よりも幾分小さくなったが、それでも両手剣サイズはある、赤をメインカラーにした剣が握られている。

見た目通りに剣で攻めてくるのか、それとも別な能力があるのか図りかねているイーサの眼前で、ミナトが地面を蹴って一気に突っ込んでいった。

その背中に……燃える炎の翼を生やして

「っ!? それは……」

見間違いようもない。つい数十分前にも見た……彼の仲間である、ダークエルフの女剣士の技。
期待の俊英と言われ、内外から高い評価を受けているアイーシャ・カーンを秒殺した、強化魔法の類と思しき炎の翼。

生えて来たのは、鎧を装着している右側だけの片翼だったが……そこから感じる圧迫感は、決して侮ってはいけないものだと、イーサは直感的に理解した。

一瞬で矢を精製し装填、射出するが、ミナトはそれを容易く刀身でとらえて切り払い、撃ち落とす。一切スピードを落とすことなくイーサに迫る。

単なる射撃では止められないと悟ったイーサは、違う種類の矢を精製して、自分とミナトの間の地面に放つ。それは着弾と同時に爆発し、周囲に爆風と土煙をまき散らし……

しかし、その瞬間にミナトが大きく踏み込み、剣を縦一閃に振り下ろす。
その際に発生した爆風で、土煙が残らず消し飛ばされ、爆風も相殺された。

想定したよりもだいぶ短い時間しか稼げなかったが、イーサはそのわずかな時間を利用して、魔力で強化した脚力をフルに生かし、後ろに飛び退って距離を取り直しており……

……しかし次の瞬間、一瞬でおいついてきたミナトの炎の片翼が、目の前にゴウッと広がった。

咄嗟に、重量と強靭さゆえに近接武器としても使える弓を突き出してけん制するも、ミナトはそれを、手にした剣を一閃させてはじいてしまう。

鍛えている上に魔力で強化しているため、女性としては腕力は破格の部類に入るイーサだが、さすがにミナトのそれにはかなわない。手放しこそしなかったものの、弓は強引にどかされた。

そして、返す刀で剣を一閃させようとした瞬間……イーサは素早く、空いている方の手で、腰に差していたサーベルを抜き、それを受け流すようにして防いだ。

そのまま、2合、3合と切り結ぶ。膂力で勝るミナトが優勢に見えたが、イーサはそれを熟練の技術で埋めていた。

「なるほど……一通り武器は使えると聞いておったが、確かじゃな……まあ、それでも技量そのものはまだまだじゃが」

「まー、メインはあくまでいつも拳ですんで」

ギィン、と弾かれるようにしてお互いが離れ、距離を取る。
その瞬間、イーサはサーベルをしまってすぐさま弓を構える。距離さえできればこっちの方がいい、と言わんばかりに。再度接近されないよう、ミナトの剣に応戦する方法を考えながら。

すると、ミナトはなぜか……持っていた剣を、右腕を覆う鎧ごと消してしまった。
そのエフェクトから、恐らくは『収納』したのだろうということは予想がついたが……しかし次の瞬間、またしても同じく、空間に干渉する魔力光がミナトの手に現れる。

今度は……

「クロスボウ……? いや、それにしては、弦などはどこにも……ナナ・シェリンクスが使っていた武器に似ているな……だいぶ大きいが」

取り出したのは青い銃だった。
形としては拳銃に近いが、銃身の部分が長く、全体的にやたらと大きく、重厚に見える。
ナナが使っていた『ワルサー』とは、形は似ていてもだいぶ印象は違った。

(ん、待てよ……あの大きさ、重厚さ……まさか!)

その時、イーサが何かをひらめいて……直後、予想が現実になった。

銃口を上に向け、ミナトはその引き金を引き……銃がパーツごとにばらける。
そして、先程と同じように……鎧となって装着された。今度は、ミナトの右腕の肘から先と……右目に、モノクルのように。
青色メインの装備を装着し、銃を構えるミナト。その姿を見て、イーサは……確信したことがあった。

ミナトの取り出す装備の特性と、その傾向。込められている意味、と言ってもいい。

「キャッツアームズ……『ブルーガンナー』」

そこから始まったのは……先ほどとは打って変わって、遠距離戦。
ミナトは青い銃から水魔力の弾丸を放ち、イーサは先程までと同様、魔力の矢を放つ。

それを互いにかわし、あるいは撃ち落としながら、闘技場を走り回って射撃して、という、ラン&ガン形式の戦闘になっている。しかも、飛び交う矢と弾丸は、どちらも様々な種類で、あちこちで色々な現象が巻き起こっている。

単発の矢と魔力弾では、お互いに外すことはなく、互いが互いの攻撃を撃ち落とす。

ミナトが水の散弾を放てば、イーサはそれを炸裂する矢で相殺し、イーサの連射をミナトは鉄砲水のような水流で蹴散らしていく。

イーサの巨大弓による一撃をかわすと、お返しとばかりに、通常の数倍のエネルギーをチャージした特大の魔力弾をミナトが放つ。

グレネードランチャーのようにして爆撃のように魔力弾を降らせるミナトに対し、イーサは放物線を描いて飛んでくるのを利用し、上空にあるうちに撃ち落とす。

(っ……先ほどの剣もそうじゃったが、種類も使い勝手も立ち回りも何もかも違う武器をこうも使いこなすか……! まあ、奴にしてみれば、自分が使う前提で作ったものなのじゃから、当然使いこなせるようにしている、と言えばそれまでじゃが……)

そんなことを考えるイーサの目の前で、再びミナトの手に握られていた武器と、鎧が消える。

同時に、またしても現れる別な武器。

「キャッツアームズ……『シアンアーチャー』」

今度は左手に現れたそれは、水色の弓。
例によってメカメカしいデザインのそれは、今度は何かする前に分裂し、左からから先に装着。軽鎧を思わせる水色の装甲になった。

それを弾いてミナトが放つのは、氷の魔力でできた矢だった。

先程までと同様、正確にイーサを狙って放たれるが……これはイーサにとって好都合だった。そのことをイーサは、ミナトの一射目で見抜く。

(やはり、使いこなしてはいるが、あくまでそれ自体はせいぜい一流かそれに準ずる基準までだ……あらゆる武器に精通している技量は驚異的と言わざるを得んが……)

ぎりり、と自らの持つ弓の弦を引き絞りながら、イーサはそのチャンスに獰猛に笑う。

「同じ武器でなら……負けはせん!」

ミナトのはなった氷の矢と全く同じ軌道で放たれたイーサの魔力矢は、こめられた魔力の差に加え、魔力によって矢を構成する術式の精密さ等の違いから、ミナトのそれを正面から打ち砕き、射線を強奪して標的――ミナトに迫る。

ミナトはそれがはっきり見えており、それにきっちり反応して、矢を弓で払って叩き落すが、その時には既にイーサは2射、3射を終えていた。

ミナトとイーサでは、さすがに弓の扱いの熟練度というものが違う。

リリンの訓練によって、ミナトは言わば武芸百般、最低限、苦手な武器がなくなるように、距離や武器が弱点でなくなるように鍛えられている。それこそ、旅立ちの時点で既に。
普段の遠距離攻撃は、もっぱら自分の発明品か、ノエルの商会で買う手裏剣だが、弓もまた『一人前』あるいは『一流』と言っていい程度には使えるようになっていた。

だが、ミナトが『一人前』なら、イーサは『達人』。この差は果てしなく大きい。
素早く矢を精製し、つがえ、狙いを定めて、放つ。ここに要する速さ、スムーズさに覆しようもない差があった。

ゆえに、一度イーサにペースを譲ってしまった以上、ミナトに巻き返す暇はもはや与えられない……


……ということに、ミナトが気付いていないはずもなく。


「やっぱそうなるよね……キャッツアームズ、『オレンジハーミット』」

右手に出現させた布を翻し、飛来したイーサの矢を払う。
驚くイーサの目の前で、その布の端の方についているパーツがまたしてもばらけ……ミナトの右肩に、布と一緒に装着された。

そうして出来上がったのは、左肩と腕に水色の装甲、左手に水色の弓を持ち……右肩に橙色の装甲を、背中にもう少し明るい、オレンジ色のマントを纏ったミナトの姿。

そのマントで自分の前面を守るようにすると、それに呼応したように土埃……いや、砂嵐が発生し、イーサの矢をことごとく弾く。

一向に弱まらないそれを前に、イーサは攻撃を防がれたばかりか、ミナトの姿までも隠れて見失ってしまったことに気づいた。
続けて矢を放つ。今度は矢を弾かれることはなかったものの、そのまま向こうまで素通りしてしまう。気配もなく、既にミナトはそこにはいない。

「キャッツアームズ……『イエローパペッティアー』、『ブラウンコントローラー』」

その時、背後からそんな声が聞こえ……イーサはとっさに飛びのいた。
その判断が正しかったことを彼女は知る。一瞬前まで自分がいたところに、黄色いヒョウのような魔物が食らいつくように飛びかかっていた。

しかし、それをかわしても彼女に安息の時間は訪れない。

今度は、上空に茶色の装甲に覆われたラジコン、あるいはドローンというような飛行物体が現れ、魔力弾を連射してイーサに攻撃してくる。
それをかわして撃ち落とそうとするが、小ぶりな見た目の通り、縦横無尽に素早く動き回って当たらない上、地上にいる黄色いヒョウが引き続き狙ってくる。

両者をさばきながら立ち回っているうちに、砂埃が晴れてきて……その途端、2つは煙のように消えてしまった。

代わりに、イーサの背後から、残りの土埃を吹き飛ばして現れたのは……右手に紫色の装甲とククリナイフを、左手に銀色の重厚なガントレットを装備したミナトだった。

間一髪その奇襲をかわし、けん制しつつ飛び退るイーサ。

一瞬前まで自分がいたところで、ククリナイフが空を切って横凪ぎに振るわれ、追撃の銀の籠手が地面を砕かんばかりに陥没させていた。

「……おっと、後回しになっちゃったけど、『シルバーストライカー』と『バイオレットパイレーツ』、それに……」

大ぶりの一撃の隙を狙って連射されるイーサの矢。
しかしそれは……紫の武装を消して、代わりに出現した灰緑色の大盾に防がれる。重厚なタワーシールドはミナトの体のほとんどを隠してしまっており、微塵のダメージも通った気配はない。

「『フェルトグラウガーディアン』……です」

「わしはさっきから、本当に同一人物を相手にしとるのか……?」

苦笑するイーサの目の前で、ミナトは両手の武装を解除した。
それと同時にイーサは、気になっていたことを指摘する。

「……先ほどから予想はついとったが……お前、それらの一連の武器……」

言いかけて、イーサはふと何かを考え、言いなおす。

「いや、武器と言っていいものか……お主にとってはそれは何じゃ? パーティーグッズか?」

「いや、パーティーグッズって酷いなあ……普通にちゃんと武器として作りましたよ? まあ……作った主な動機は、確かに、遊び心10割ですけど」

「当然じゃ。その一連の武装……お前の仲間たちの武器や戦闘スタイルを元にしたなりきりグッズにしか見えんからな」

『キャッツアームズ』の名の通り、ミナトは『邪香猫』の仲間たちの力を武器にして形にし、それを纏って戦っていることに、イーサは気づいていた。それが遊び心の産物であろうことも含めて。

分解して装着される『鎧』は全てに共通として、

あの赤い剣と炎の翼は……シェリーの武装と技能。
蒼い銃と水の弾丸は、ナナ。
オレンジ色のマントと砂嵐はザリー。

黄色いヒョウは、ミュウの『召喚術』。
茶色のドローンは、クロエの『パイロット』としての技能だろう。
この2つは、砂嵐に隠れていた間だったので、鎧は確認できていないが。

水色の弓と氷の矢は、スウラ。
銀色の籠手は、ギーナ。
紫色のククリナイフは、シェーン。
そして、灰緑色のタワーシールドは……彼女の元上司でもある、セレナだろう。
この4人は正式にはメンバーではないが、仲間ということで組み込んだのだろう。

と、なれば当然、思いつくのは……残るメンバーのものもあるだろう、ということ。

「他に『桃色』と、『紫色』がもう1個、あと『灰色』があるんですけど……この3つは模擬戦に使うには凶悪過ぎるんでやめときますね。というわけで、ラストの1つです。キャッツアームズ……『グリーンシーフ』」

「やはりあるよな、その装備も!」

短剣を右手に持ち、右肩から先を緑色の装甲で覆ったミナトが、これまでで一番の速さを発揮して接近してくる。けん制のために放った矢はかすめもせず、回避された。

自分めがけて振りぬかれる緑色のダガーを、イーサは弓で受け止めるが、ミナトはそこから怒涛の連撃でイーサを追い詰める。イーサは再び腰の剣も抜き、両手でなんとかさばいている状況だった。

「……っっ! とどめは自分の嫁をモチーフにした武装で、ということか!? 残念じゃのう、お主の本領は拳であろうに、折角の模擬戦で披露してはくれんのか?」

「……それって時間稼ぎのトークですか? それとも本気でそうした方がいいですか?」

「普通ストレートに聞くか? ……半々じゃ、好きなように、せい!」

ギィン、と力を込めて最後の一撃を弾くと……ミナトはそれ以上追撃せず、その場から飛びのいた。そして……緑色の装備を消す。

それを見てイーサは、油断なく観察しつつも、拳でやる気になったか、とあたりをつけるが……

「……今、『拳で戦う気になったか』とか思ったでしょ?」

「……ほう、違うのか? 今のが、お前の仲間を模した最後の装備だと思っとったが……」

「一体いつ僕が、これで終わりなんて言いました?」

「さっき自分で言っとらんかったか? 『これでラスト』じゃと」

「種類としてはその通りですけど……この手の武器にはお約束ってもんがありましてね? あえて生意気なこと言いますけど……もしそれに耐えられたら拳で行きますよ、お望み通り」

「ほう……言ってくれるな若造。よかろう、挑発に乗ってやる、かかって来―――」

『来い』と言い終える前に……イーサの視界に妙なものが見えた。
向こう側に見える、観客席。ミナトの仲間たち……『邪香猫』のメンバーらが座っている所。

そこで……自他ともに認める、ミナトの『嫁』――エルクが、座っている仲間たちを避難させ始めていた。

すさまじく嫌な予感がイーサの背筋を冷やす中、ミナトは……見覚えのない、灰色のクロスボウのようなものを取り出していた。
そして、

「全員……集合! 『オールキャッツ・キャリバーン』!」

その掛け声とともに、今までに登場した全ての武装……赤い剣から緑の短剣まで、さらに、これまた見覚えのない桃色の注射器と紫色のレイピアまでもが現れ……それら全てが変形し、合体した。

ミナトの手元にできたのは……色とりどりの部品をいかにも強引に組み合わせて作ったというような見た目の、どう見ても取り回しに難儀しそうな大きさと形状の剣のような何かだった。

見た目からして剣としての機能性は皆無であろうことは明らか。
だというのにそれを見て、イーサは、動けなかった。

それが内包しているエネルギーに、そして何より、醸し出され、自分の第六感をこれでもかと刺激してくる……圧倒的な危険度に。
本能的に『あれは危険だ』と悟ってしまうほどの『何か』。それが、あの剣(仮)だ。

……あるいは、動いても無駄だと、結果は変わらないと悟ったのかもしれないが。

「あ、回避は無理だと思いますので、防御に絞って対処することをお勧めします」

「……参考までに理由を聞いてもよいか?」

「射程範囲がちょうどこの試合場と同じくらいなんで」

「………………そうか」



この5秒後、
全装備合体剣に暴力的なまでの魔力が充填され、色とりどりの魔力光をほとばしらせて放たれた必殺技『レインボーキャッツフィニッシュ』は、宣言通り、試合場をほぼ埋め尽くすほどの虹色の衝撃波を全方位に発生させ……それによって模擬戦は終わった。

なお、試合終了後にミナトはエルクから『遊びすぎ。あれじゃ何が何だか分かんないうちにおわっちゃって申し訳ないでしょ、あとでもう一回戦ったげなさい』と説教を食らうことになった。

訓練2日目、終了。

残るは……3日目(以降)。
ネスティア王国軍最強の特殊部隊を相手とした、変則型の模擬戦(詳細不明)となった。



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