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Deceive it.
Deceive it.2
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その日の夕方、乙は意を決して輝李に夕食を持ちかけた。
「輝李」
「ん?何?」
「その…料理の事なんだが…」
「何?もしかして私の手料理が食べたいとか?」
輝李は少し嬉しそうに照れながらもふざけて聞き返す。
「あ…いや、その…そうじゃなくて…」
「何だ、違うんだ。
どうせ私の料理なんか乙は食べたくないんだよね!!」
たちまち輝李はプゥっと膨れてみせる。
すると乙が口を開く。
「いや…そう言うことじゃなくて、輝李は…その…ハンバーグぐらいは作れるんだよな?」
「何それ~!!当たり前でしょ!!
失礼だなぁ…
小学校の授業でやったじゃない!!
乙も一緒にいたでしょ?
確かに違う班だったけとさ!!」
さらに膨れる輝李に乙は冷や汗混じりに宥める。
「夕食なんだがハンバーグ…
…一緒に作らないか?」
「え?」
意外な乙の言葉に輝李は目を丸くする。
「たまには二人きりで夕食でもと思って…」
「…うん」
乙が言葉をつくと輝李は少し俯き顔を赤らめると小さく頷いた。
輝李の了承も得られ、乙が食材を所狭しと並べる。
輝李の包丁さばきは、それはそれは目も当てられない状況だった。
ダンッ!!っと勢い良く降り下ろされ、乙の顔が一瞬でひきつる。
「ちょちょ、ちょっと待て!!」
「何?」
平然と乙の顔を見る輝李のきょとんとした眼差しが向けられると、慌てて乙が口を開いた。
「薪を割っているわけじゃないんだぞ?
そんな切り方したら危ないだろ」
「大丈夫だよ~」
「だ、駄目だ!!
その先に指があったら今のじゃ、確実に切断されてる…
それに野菜の繊維も傷むだろ?
微塵切りも出来ないのか?」
「失礼な!!出来るよ!!」
剥れ気味に高い位置から叩き付けられていく包丁の刃は、玉葱に同情さえしてしまうほど無惨なものだった。
乙は冷や汗を滲ませ見つめていたが、一心不乱に玉葱と格闘する輝李に向けて、ふと何気なくニンニクの小さな実を手に取り、指で弾いた…
その瞬間だった。
──シュッ!!
輝李の横で光の筋が通るとニンニクは繊維すら崩すことなく綺麗に真っ二つになり、一瞬と言うにはまだ長いほどに黒い光を帯びた眼光が乙に向けられる。
輝李の手にニンニクの欠片が舞い降りる頃には普通に戻っていたが、包丁は胸元で構えられたままだ。
「んもう、乙危ないよぉ!」
『めっ』とばかりに上目使いに困った顔を見せた輝李に乙はクールに微笑むと言葉を贈る。
「悪い悪い、でも綺麗に切れてるだろ?
微塵切りってのは、そんなに気を張って包丁を振らなくてもいいんだよ、貸してみろ」
輝李と交代すると乙は小さな動きでスムーズに微塵切りをこなしていく。
「な♪」
「うん♪やっぱり乙は凄いね♪」
「料理のレッスンだってあったはずだろう?
どうせサボってたんだろ?」
「……す、少し…」
輝李が気まずそうに俯くと乙のため息が零れる。
「少し…ねぇ…。まぁ、いい
材料は俺が切っておくから肉と一緒に捏ねてくれよ」
「はーい♪」
途端に輝李は笑顔に手をあげ可愛らしく返事をした。
楽しそうにハンバーグのたねを捏ねていく輝李の横で、乙は表情を変えず考えを廻らせていた。
『あの鋭い眼光…
輝李が8-に居るのは間違いない…
それも形だけのものではないのは一目瞭然だ…
もしかしたら、もう誰かを消しているのかもしれない…』
「…殺してないよ…」
「ッ!!!」
まるで乙が思っていることに答えるように輝李がボールを見つめたまま言葉をついた。
やがて乙を見つめ、もう一度答えた。
「僕は何もしていない。
書類の整理と偵察だけ…
…8-のこと気になったから確かめたんでしょう?
…乙が何考えてるかくらい解るよ…
好きな人だもの…」
その少し寂しそうな輝李の笑顔に乙は言葉を詰まらせたのだった。
それからも乙が輝李に対して、止めに入る程の苦労は続いた。
「ああ!!待て待て輝李、そうじゃない!!」
「んもう、うるさいなぁ!」
「何で手際は良いのにそうなるんだよ!!
あっ!!その調味料は違うって!!
さっき教えただろ?」
「こうした方が美味しい気がするんだってば!!」
「気がする、で入れられたら後で大変な事になるだろ!!」
二人が奮闘する中、やっとの思いで夕食が出来る。
勿論、この数十分の間に乙がグッタリしたのは言うまでもない。
「うわぁん…手が玉ねぎ臭ぁい」
「…焼き上がったぞ
テーブルに並べてくれ」
「はぁい♪」
皿を運ぶ輝李を見て、乙はまたため息をつき口をこぼす。
「エプロン姿は完璧なんだけどなぁ…」
「ん?何か言った?」
振り向いた輝李に乙は、苦笑いを返すしかなかった。
「いっただきまぁす♪」
「戴きます…」
二人の声のテンションは明らかに違う。
「うわぁ、目玉焼きが乗ってて美味しそう♪」
ハンバーグに舌鼓をうち喜ぶ輝李。
「あ、ああ…そうだな
一つは焼いてくれたんだったな…」
料理を見つめ不安そうな乙…。
ナイフとフォークを握り締め、乙は目の前の物体の異様な存在感の中、なかなかハンバーグに手を伸ばすことが出来なかった。
『…こ…怖い…』
いつぐらい振りだろうか…?
こんなにも恐怖を覚えたのは。
8-の試練ですら恐怖を覚えなかった乙が、今まさに目の前のハンバーグに怯えている。
『…どっちだ?
輝李が焼いたハンバーグは…
必然的に考えれば明らかに此方側にあるはず…
いや、盛り付けた時点で入れ替わっているかもしれない。
しかし皿も同じ、乗っている料理も同じで見分けがつかん。
これを食ったら、俺には地獄の時間がまた訪れるかもしれない。
いや、待てよ?
輝李がハンバーグと目玉焼きを焼いている時、俺はずっと見張っていたはずだ!!
しかし、あの間違えた調味料が気になる…
でも!!そうなると条件も同じということになる。
と言うことは腹を壊すのは、輝李も同じということに…』
「──乙…」
唐突な輝李の声に乙の体がビクッと跳ねた。
「な、なんだ?」
「──食べないの…?」
いつになく静かに向かいに座っている輝李の声とチラリと目線だけ上げた瞳は黒い光を帯びている。
「た、食べるよ。
ぅ…うわぁ、美味そうだなぁ」
顔を引きつらせ、変な声になりながらも乙は覚悟を決めた。
『いざ!!戦場へ!!』
半焼けくそ気味にハンバーグを口に放る。
「ムグッ!!!」
さぞ恐ろしい味が待っているのかと思いきや意外…と言っては失礼かも知れないが、まともなハンバーグの味が口に広がっていた。
「美味い…かも…」
「そ♪」
半信半疑に乙が口をつくと輝李はニッコリと笑って答えた。
やがて乙が食べ進んでいくと、
ガリッとナイフに引っ掛かる感触があった。
「?」
乙がハンバーグを覗きこむと中に何やら怪しげな錠剤が隠れている。
「………、輝李…」
「ん?」
「こ、これは何だ?」
フォークに乗っかった錠剤を見ると輝李はわざとらしく目をそらした。
「ああ…ええっと…ラブラブになる薬?」
「お前…まさか今までこんな風に俺に薬を盛ってたんじゃないだろうなぁ…?」
ひきつる笑顔を輝李に向けると、輝李は外方を向いて口笛を吹いている。
料理の度にそんなことをされていたら腹の一つも壊すに決まっている。
その後は、恐る恐る食べ終わり皿の上に残ったのは三錠の錠剤。
「輝李…なんだこれは?」
「な、何だろうね?」
しばらく沈黙したのち、部屋中で逃走劇が始まったのは言うまでもない。
「輝李」
「ん?何?」
「その…料理の事なんだが…」
「何?もしかして私の手料理が食べたいとか?」
輝李は少し嬉しそうに照れながらもふざけて聞き返す。
「あ…いや、その…そうじゃなくて…」
「何だ、違うんだ。
どうせ私の料理なんか乙は食べたくないんだよね!!」
たちまち輝李はプゥっと膨れてみせる。
すると乙が口を開く。
「いや…そう言うことじゃなくて、輝李は…その…ハンバーグぐらいは作れるんだよな?」
「何それ~!!当たり前でしょ!!
失礼だなぁ…
小学校の授業でやったじゃない!!
乙も一緒にいたでしょ?
確かに違う班だったけとさ!!」
さらに膨れる輝李に乙は冷や汗混じりに宥める。
「夕食なんだがハンバーグ…
…一緒に作らないか?」
「え?」
意外な乙の言葉に輝李は目を丸くする。
「たまには二人きりで夕食でもと思って…」
「…うん」
乙が言葉をつくと輝李は少し俯き顔を赤らめると小さく頷いた。
輝李の了承も得られ、乙が食材を所狭しと並べる。
輝李の包丁さばきは、それはそれは目も当てられない状況だった。
ダンッ!!っと勢い良く降り下ろされ、乙の顔が一瞬でひきつる。
「ちょちょ、ちょっと待て!!」
「何?」
平然と乙の顔を見る輝李のきょとんとした眼差しが向けられると、慌てて乙が口を開いた。
「薪を割っているわけじゃないんだぞ?
そんな切り方したら危ないだろ」
「大丈夫だよ~」
「だ、駄目だ!!
その先に指があったら今のじゃ、確実に切断されてる…
それに野菜の繊維も傷むだろ?
微塵切りも出来ないのか?」
「失礼な!!出来るよ!!」
剥れ気味に高い位置から叩き付けられていく包丁の刃は、玉葱に同情さえしてしまうほど無惨なものだった。
乙は冷や汗を滲ませ見つめていたが、一心不乱に玉葱と格闘する輝李に向けて、ふと何気なくニンニクの小さな実を手に取り、指で弾いた…
その瞬間だった。
──シュッ!!
輝李の横で光の筋が通るとニンニクは繊維すら崩すことなく綺麗に真っ二つになり、一瞬と言うにはまだ長いほどに黒い光を帯びた眼光が乙に向けられる。
輝李の手にニンニクの欠片が舞い降りる頃には普通に戻っていたが、包丁は胸元で構えられたままだ。
「んもう、乙危ないよぉ!」
『めっ』とばかりに上目使いに困った顔を見せた輝李に乙はクールに微笑むと言葉を贈る。
「悪い悪い、でも綺麗に切れてるだろ?
微塵切りってのは、そんなに気を張って包丁を振らなくてもいいんだよ、貸してみろ」
輝李と交代すると乙は小さな動きでスムーズに微塵切りをこなしていく。
「な♪」
「うん♪やっぱり乙は凄いね♪」
「料理のレッスンだってあったはずだろう?
どうせサボってたんだろ?」
「……す、少し…」
輝李が気まずそうに俯くと乙のため息が零れる。
「少し…ねぇ…。まぁ、いい
材料は俺が切っておくから肉と一緒に捏ねてくれよ」
「はーい♪」
途端に輝李は笑顔に手をあげ可愛らしく返事をした。
楽しそうにハンバーグのたねを捏ねていく輝李の横で、乙は表情を変えず考えを廻らせていた。
『あの鋭い眼光…
輝李が8-に居るのは間違いない…
それも形だけのものではないのは一目瞭然だ…
もしかしたら、もう誰かを消しているのかもしれない…』
「…殺してないよ…」
「ッ!!!」
まるで乙が思っていることに答えるように輝李がボールを見つめたまま言葉をついた。
やがて乙を見つめ、もう一度答えた。
「僕は何もしていない。
書類の整理と偵察だけ…
…8-のこと気になったから確かめたんでしょう?
…乙が何考えてるかくらい解るよ…
好きな人だもの…」
その少し寂しそうな輝李の笑顔に乙は言葉を詰まらせたのだった。
それからも乙が輝李に対して、止めに入る程の苦労は続いた。
「ああ!!待て待て輝李、そうじゃない!!」
「んもう、うるさいなぁ!」
「何で手際は良いのにそうなるんだよ!!
あっ!!その調味料は違うって!!
さっき教えただろ?」
「こうした方が美味しい気がするんだってば!!」
「気がする、で入れられたら後で大変な事になるだろ!!」
二人が奮闘する中、やっとの思いで夕食が出来る。
勿論、この数十分の間に乙がグッタリしたのは言うまでもない。
「うわぁん…手が玉ねぎ臭ぁい」
「…焼き上がったぞ
テーブルに並べてくれ」
「はぁい♪」
皿を運ぶ輝李を見て、乙はまたため息をつき口をこぼす。
「エプロン姿は完璧なんだけどなぁ…」
「ん?何か言った?」
振り向いた輝李に乙は、苦笑いを返すしかなかった。
「いっただきまぁす♪」
「戴きます…」
二人の声のテンションは明らかに違う。
「うわぁ、目玉焼きが乗ってて美味しそう♪」
ハンバーグに舌鼓をうち喜ぶ輝李。
「あ、ああ…そうだな
一つは焼いてくれたんだったな…」
料理を見つめ不安そうな乙…。
ナイフとフォークを握り締め、乙は目の前の物体の異様な存在感の中、なかなかハンバーグに手を伸ばすことが出来なかった。
『…こ…怖い…』
いつぐらい振りだろうか…?
こんなにも恐怖を覚えたのは。
8-の試練ですら恐怖を覚えなかった乙が、今まさに目の前のハンバーグに怯えている。
『…どっちだ?
輝李が焼いたハンバーグは…
必然的に考えれば明らかに此方側にあるはず…
いや、盛り付けた時点で入れ替わっているかもしれない。
しかし皿も同じ、乗っている料理も同じで見分けがつかん。
これを食ったら、俺には地獄の時間がまた訪れるかもしれない。
いや、待てよ?
輝李がハンバーグと目玉焼きを焼いている時、俺はずっと見張っていたはずだ!!
しかし、あの間違えた調味料が気になる…
でも!!そうなると条件も同じということになる。
と言うことは腹を壊すのは、輝李も同じということに…』
「──乙…」
唐突な輝李の声に乙の体がビクッと跳ねた。
「な、なんだ?」
「──食べないの…?」
いつになく静かに向かいに座っている輝李の声とチラリと目線だけ上げた瞳は黒い光を帯びている。
「た、食べるよ。
ぅ…うわぁ、美味そうだなぁ」
顔を引きつらせ、変な声になりながらも乙は覚悟を決めた。
『いざ!!戦場へ!!』
半焼けくそ気味にハンバーグを口に放る。
「ムグッ!!!」
さぞ恐ろしい味が待っているのかと思いきや意外…と言っては失礼かも知れないが、まともなハンバーグの味が口に広がっていた。
「美味い…かも…」
「そ♪」
半信半疑に乙が口をつくと輝李はニッコリと笑って答えた。
やがて乙が食べ進んでいくと、
ガリッとナイフに引っ掛かる感触があった。
「?」
乙がハンバーグを覗きこむと中に何やら怪しげな錠剤が隠れている。
「………、輝李…」
「ん?」
「こ、これは何だ?」
フォークに乗っかった錠剤を見ると輝李はわざとらしく目をそらした。
「ああ…ええっと…ラブラブになる薬?」
「お前…まさか今までこんな風に俺に薬を盛ってたんじゃないだろうなぁ…?」
ひきつる笑顔を輝李に向けると、輝李は外方を向いて口笛を吹いている。
料理の度にそんなことをされていたら腹の一つも壊すに決まっている。
その後は、恐る恐る食べ終わり皿の上に残ったのは三錠の錠剤。
「輝李…なんだこれは?」
「な、何だろうね?」
しばらく沈黙したのち、部屋中で逃走劇が始まったのは言うまでもない。
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