【R18】アールグレイの昼下がり ー双子の姉・乙編ー

Silence

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Deceive it.

Deceive it.1

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『アールグレイの月夜』章 Deceive it.とリンク
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「うぅ…うーん…」

その日の夕刻、というには少しばかり遅い時間…
部屋の中には一人の低い呻き声とハラハラとベッドに付き添う少女の姿があった。

「大丈夫?乙…」
「うぅ…」

もちろん乙と輝李だ。
昼休み、誰もいない中庭でキスを交わした。



…そこまでは良かった。
自分の感情の雰囲気に流されていた乙は、忘れていたのだ。
輝李が底知れぬだと言うことを!!


以前、乙は輝李が作った料理とは思えないほどのグロテスクにも見るも残念な料理で食あたりを起こしたことがあった。

(『アールグレイの月夜』参照)


今回は、焦げ目こそあれど、見た目もさほど酷くはなかったのもあり、多少はマシになったのだと油断していたのだ。
しかし、輝李の料理は期待を裏切らない結果となって案の定、乙の腹部に牙を剥いた。

「うぅ…うぅ…」
「ごめんね…大丈夫?」


今日の弁当は、輝李の提案でお互いのために作るという事になっていた。
乙も止めれば良いものを、不安そうな顔の輝李の弁当を残さず食べたのだ。

「どうしたら同じ食材で、あんな料理になるんだ!?」

乙は、思わず口に出そうになる言葉を必死に押さえ、冷や汗混じりに腹痛に耐えていた。

その日…輝李が横で安眠した後も、乙が眠ることが出来なかったのは言うまでもない…。 




学院が休みの翌日、寝不足の乙が欠伸をしながら、朝食の料理を作ったのも必然的と言えよう。
学院の寮には、勿論食堂もある。
しかし、自由なスタイルの学院の寮には各部屋に小さいなりにも、キッチンがついている。

今の輝李が乙と食堂に向かえば、どうなるかも想像がつくことだ。
軽い朝食をテーブルに並べ、ベッドで眠っている輝李を起こす。

「輝李、朝食ができたぞ」
「う…ん、おはよう」

輝李は寝起きが良く、目覚めも早い。
直ぐにベッドから起き上がると、そのままリビングへ向かおうとする。
途端に乙の腕が輝李に伸びる。

「ちょっと待った!!」
「何?」
「髪くらいブラシを通したらどうだ?」
「ええ~」

幼少の頃と変わらない輝李の面倒臭そうな声を乙のジロリと見て、口を開く。

「ええ~、じゃない!!
レディーの嗜みとして当たり前だろ」
「だってぇ」
「だって、じゃない!!
お前は相変わらず女としての自覚はないのか?」

そんな言葉に輝李もカチンと来たのか言い返す。

「乙だって女らしくないじゃない!!」

本来なら家庭の事情とはいえ、幼少から男児として育てられてきた乙には女としての行動を強制することはタブーな言葉だ。

その事で、乙が父に嫌悪感を抱くほどの亀裂は今も修復はされていない程だ。
輝李もそれは重々解っている事だった。 
しかし乙は、その言葉を気にするでもなく飽きれながら口をつく。

「あのなぁ、確かに俺は女らしくはないが身だしなみくらいきちんとする」
「姉妹なんだから良いでしょ!!
こんなの初めて見てることじゃないんだし、朝からお説教なら聞きたくないよ。
いちいち五月蝿いなぁ」
「説教じゃない!」

既に売り言葉に買い言葉。
完全に膨れっ面になっている輝李に乙は、溜め息を付き一歩近付くと輝李は少し構え気味に一歩引き下がる。

「輝李」
「何?」

すると乙は輝李を優しく抱き締め口を開いた。

「俺の傍に居たいんだろ?」
「……」
「いくら姉妹で何度も見た光景でも俺は嫌なんだ…」
「……」
「傍にいる時くらい俺の好きだった輝李を見ていたいんだ」
「乙…」

さすがにこんな事を囁かれれば、輝李も頷くしかなかった。
輝李が納得すると乙はアッサリ抱き締めていた手を離し、リビングへ向かい振り向き様に爽やかに言葉を投げた。

「じゃ、ちゃんと身支度してこいよ♪」
「……」

プチン…と輝李の中で何かが切れる感覚が通り抜け、途端に顔をひきつらせる。

何故なら乙は、『してやったり』と言わんばかりの顔をしていたからだ。

「もう!!乙のバカァ!!」

リビングに戻ると、乙の表情に先程までの爽やかさは消えていた。
誰かのために料理を作る事…。
乙が最後に作ったのは、まだメイドだった瀾とパーティーに行った日だったからだ。

思わず乙に小さな溜め息が漏れ、微かに胸の痛みが走る。
あれから一年は経っている。

今の瀾は乙を覚えている欠片すらなく、逆に自分から輝李を奪った乙を恨んでさえいる。

≪「貴方なんか大っ嫌い!!」≫

走り去った瀾の姿が未だに鮮明に脳裏を掠めている。

『もしも…願いが叶うなら…』


決して叶わない願いでも乙は、そう思わずには居られなかった。


…芽生えてしまったのだ。
自分で自覚する程の瀾への恋心。

しかし、それは遅すぎる芽生えだった。
もっと早く気がつくべきだった。

乙が瀾と出会った頃に…
あのパーティーに行った時に…。
あの時、無意識に安らいでいた自分に。


そう思えば思うほどに乙の胸は、辛く痛みを覚えるのだった。



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