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REFRAIN
REFRAIN9
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ソファーで眠りについていた乙が、人の気配に微かに目を開ける。
乙は意外にも、寝起きが素早く鮮明な方ではない。
まだ脳が微睡む中、頬に触れる細い指先…。
それは優しく触れているというよりは、何処かよそよそしく這うような印象を受けた。
視界に入ってきたのは、長い髪のシルエット…。
自分を上から見下ろしている。
そして、微かに聞える妖艶な声。
「クスクス…見つ…ケた…」
「…ぇ…」
乙は、そこで初めて誰かが自分の上に跨っている事に気が付いた。
ジワジワと近付いてくるソレに少し体を起こすと、そのスペース分を警戒と冷や汗混じりに後退り、口を開いた。
「な…何してるんだ?野中…」
そう。
そこにいたのは瀾だったのだ…!!
「クスクス…見ツケ…タ…」
少しずつ後退る乙の股に瀾は、無表情のままトスンと浮かせていた臀部を下ろす。
「つッ!!」
若干の痛みと圧迫が股にかかると乙は小さな声を上げて、そのソファーからの束縛を余儀なくされた。
瀾の両手が乙の頬に触れる。
「見つけ…タ…」
瀾の瞳にいつもの光はなかった。
あの時と同じ…あの寮の廊下で出会った時と。
下手な行動を起こせば、またいつ錯乱するか解らない。
そんな中、乙は警戒を解く事なく辛そうに目を細め、瀾の所行を見つめるしか出来なかった。
瀾の腕は頬から首、そして肩からその背中に這いずるように回され、顔を背けている乙の首を舌でなぞった。
「ッ!!…野・・中!!や、やめ…」
乙が瀾の肩を掴み自分から切り離すと、瀾は虚ろな瞳のまま呟くように口をついた。
「…また…拒絶…スルの…」
「!!!」
その時、乙の脳裏にあの記憶が通り抜けた。
壊れた瀾が別宅で縋った時、乙はその人形を突き放し、ベッドに捨ててしまった事を…。
腕の一直線上の人形は、乙の肩に両腕をうなだらせ、ゼンマイが切れかけたように小さく…
言葉もたどたどしく話しだす。
「ワタシガ…嫌イ…?」
───ドクン…
瀾の声に答えるように、乙の胸は重く掴むように鳴いた。
「捨テナイ…デ…」
「……ッ」
「行カ…ナイデ…」
瀾の声は、金縛りの呪文のように乙の胸を突き、その鼓動を刻ませてゆく。
ドクン…ドクン…ドクン…
ドクン…ドクン…ドクン…
「…助ケテ……キ…ノ…ト…サ…」
──ドクンッ!!!!
重く空間が揺らぐような大きな衝撃が主を貫いた。
瀾の言葉に乙は一瞬、ハッと目を大きく見開くと、瀾を強く抱き締めた。
「ッ…野中…!!」
苦しい…。
呼吸さえ出来なくなってしまう程の胸の圧迫感。
目を伏せ、その苦しみに乙の顔が歪んだ。
そして、その胸の苦しみの分だけ瀾を強く抱き締めた。
乙の腕の中で、その人形は小さく鳴いた。
「ココ…スキ…私、ココ好キ…」
「野中ッ…」
「…ナマエ…私ノ、ナマエ…」
「…瀾ッ…」
しばらく瀾を抱き締めていた乙だったが、その腕の中で静かになると瀾をベッドへ運び、寝かせる。
静かに目を閉じている瀾の髪を掬うと、そっとその髪にキスをした。
瀾の寝顔は出会った時と変わらない、あどけなく幼さの残る少女の顔をしている。
フッと目を閉じると乙はベッドルームを後にし、メインルームの窓に寄りかかり、静かな水面の空を見つめていた。
この日、乙が再び眠りに就くことはなかった。
《「ワタシガ…嫌イ…?」
「捨テナイ…デ……行カ…ナイデ…」》
「……ッ」
思い出される先ほどの瀾の言葉と、過去の瀾の表情…。
そして、瀾の寝顔。
胸の痛みと共に良い知れぬ感覚が、乙を支配し始めた。
トクン…トクン…トクン…。
瀾の事を考えるだけで、胸の秒針は主の記憶の時を刻み、次第に思考さえも支配されそうになる。
トクン…トクン…トクン…。
思い出すのは笑顔で上目遣いに見上げる瀾の幻影…。
『何で…瀾の事が頭から離れないんだ…
こうしている今も…
その寝顔だけでも見たいと思ってしまうなんて…
罪悪感…?いや…違う…
この感覚…まさか…』
乙は、自分の手の平を見つめポツリと呟いた。
「…俺は…瀾の事が好き…なのか…?」
プレイボーイとしてその名が通り、二つ名まで付いていた。
今まで自分が動かなくとも女は、向うから寄ってきた。
そんな乙にとって、瀾に抱く感情は初めてで違和感を覚え、困惑を誘った。
「…まさか、な…。
久方ぶりに会った感覚と、罪悪感が離れないだけだ…
…そうに決まっている…」
乙は少し辛そうにその瞳を伏せた。
乙は意外にも、寝起きが素早く鮮明な方ではない。
まだ脳が微睡む中、頬に触れる細い指先…。
それは優しく触れているというよりは、何処かよそよそしく這うような印象を受けた。
視界に入ってきたのは、長い髪のシルエット…。
自分を上から見下ろしている。
そして、微かに聞える妖艶な声。
「クスクス…見つ…ケた…」
「…ぇ…」
乙は、そこで初めて誰かが自分の上に跨っている事に気が付いた。
ジワジワと近付いてくるソレに少し体を起こすと、そのスペース分を警戒と冷や汗混じりに後退り、口を開いた。
「な…何してるんだ?野中…」
そう。
そこにいたのは瀾だったのだ…!!
「クスクス…見ツケ…タ…」
少しずつ後退る乙の股に瀾は、無表情のままトスンと浮かせていた臀部を下ろす。
「つッ!!」
若干の痛みと圧迫が股にかかると乙は小さな声を上げて、そのソファーからの束縛を余儀なくされた。
瀾の両手が乙の頬に触れる。
「見つけ…タ…」
瀾の瞳にいつもの光はなかった。
あの時と同じ…あの寮の廊下で出会った時と。
下手な行動を起こせば、またいつ錯乱するか解らない。
そんな中、乙は警戒を解く事なく辛そうに目を細め、瀾の所行を見つめるしか出来なかった。
瀾の腕は頬から首、そして肩からその背中に這いずるように回され、顔を背けている乙の首を舌でなぞった。
「ッ!!…野・・中!!や、やめ…」
乙が瀾の肩を掴み自分から切り離すと、瀾は虚ろな瞳のまま呟くように口をついた。
「…また…拒絶…スルの…」
「!!!」
その時、乙の脳裏にあの記憶が通り抜けた。
壊れた瀾が別宅で縋った時、乙はその人形を突き放し、ベッドに捨ててしまった事を…。
腕の一直線上の人形は、乙の肩に両腕をうなだらせ、ゼンマイが切れかけたように小さく…
言葉もたどたどしく話しだす。
「ワタシガ…嫌イ…?」
───ドクン…
瀾の声に答えるように、乙の胸は重く掴むように鳴いた。
「捨テナイ…デ…」
「……ッ」
「行カ…ナイデ…」
瀾の声は、金縛りの呪文のように乙の胸を突き、その鼓動を刻ませてゆく。
ドクン…ドクン…ドクン…
ドクン…ドクン…ドクン…
「…助ケテ……キ…ノ…ト…サ…」
──ドクンッ!!!!
重く空間が揺らぐような大きな衝撃が主を貫いた。
瀾の言葉に乙は一瞬、ハッと目を大きく見開くと、瀾を強く抱き締めた。
「ッ…野中…!!」
苦しい…。
呼吸さえ出来なくなってしまう程の胸の圧迫感。
目を伏せ、その苦しみに乙の顔が歪んだ。
そして、その胸の苦しみの分だけ瀾を強く抱き締めた。
乙の腕の中で、その人形は小さく鳴いた。
「ココ…スキ…私、ココ好キ…」
「野中ッ…」
「…ナマエ…私ノ、ナマエ…」
「…瀾ッ…」
しばらく瀾を抱き締めていた乙だったが、その腕の中で静かになると瀾をベッドへ運び、寝かせる。
静かに目を閉じている瀾の髪を掬うと、そっとその髪にキスをした。
瀾の寝顔は出会った時と変わらない、あどけなく幼さの残る少女の顔をしている。
フッと目を閉じると乙はベッドルームを後にし、メインルームの窓に寄りかかり、静かな水面の空を見つめていた。
この日、乙が再び眠りに就くことはなかった。
《「ワタシガ…嫌イ…?」
「捨テナイ…デ……行カ…ナイデ…」》
「……ッ」
思い出される先ほどの瀾の言葉と、過去の瀾の表情…。
そして、瀾の寝顔。
胸の痛みと共に良い知れぬ感覚が、乙を支配し始めた。
トクン…トクン…トクン…。
瀾の事を考えるだけで、胸の秒針は主の記憶の時を刻み、次第に思考さえも支配されそうになる。
トクン…トクン…トクン…。
思い出すのは笑顔で上目遣いに見上げる瀾の幻影…。
『何で…瀾の事が頭から離れないんだ…
こうしている今も…
その寝顔だけでも見たいと思ってしまうなんて…
罪悪感…?いや…違う…
この感覚…まさか…』
乙は、自分の手の平を見つめポツリと呟いた。
「…俺は…瀾の事が好き…なのか…?」
プレイボーイとしてその名が通り、二つ名まで付いていた。
今まで自分が動かなくとも女は、向うから寄ってきた。
そんな乙にとって、瀾に抱く感情は初めてで違和感を覚え、困惑を誘った。
「…まさか、な…。
久方ぶりに会った感覚と、罪悪感が離れないだけだ…
…そうに決まっている…」
乙は少し辛そうにその瞳を伏せた。
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