133 / 166
REFRAIN
REFRAIN9
しおりを挟む
ソファーで眠りについていた乙が、人の気配に微かに目を開ける。
乙は意外にも、寝起きが素早く鮮明な方ではない。
まだ脳が微睡む中、頬に触れる細い指先…。
それは優しく触れているというよりは、何処かよそよそしく這うような印象を受けた。
視界に入ってきたのは、長い髪のシルエット…。
自分を上から見下ろしている。
そして、微かに聞える妖艶な声。
「クスクス…見つ…ケた…」
「…ぇ…」
乙は、そこで初めて誰かが自分の上に跨っている事に気が付いた。
ジワジワと近付いてくるソレに少し体を起こすと、そのスペース分を警戒と冷や汗混じりに後退り、口を開いた。
「な…何してるんだ?野中…」
そう。
そこにいたのは瀾だったのだ…!!
「クスクス…見ツケ…タ…」
少しずつ後退る乙の股に瀾は、無表情のままトスンと浮かせていた臀部を下ろす。
「つッ!!」
若干の痛みと圧迫が股にかかると乙は小さな声を上げて、そのソファーからの束縛を余儀なくされた。
瀾の両手が乙の頬に触れる。
「見つけ…タ…」
瀾の瞳にいつもの光はなかった。
あの時と同じ…あの寮の廊下で出会った時と。
下手な行動を起こせば、またいつ錯乱するか解らない。
そんな中、乙は警戒を解く事なく辛そうに目を細め、瀾の所行を見つめるしか出来なかった。
瀾の腕は頬から首、そして肩からその背中に這いずるように回され、顔を背けている乙の首を舌でなぞった。
「ッ!!…野・・中!!や、やめ…」
乙が瀾の肩を掴み自分から切り離すと、瀾は虚ろな瞳のまま呟くように口をついた。
「…また…拒絶…スルの…」
「!!!」
その時、乙の脳裏にあの記憶が通り抜けた。
壊れた瀾が別宅で縋った時、乙はその人形を突き放し、ベッドに捨ててしまった事を…。
腕の一直線上の人形は、乙の肩に両腕をうなだらせ、ゼンマイが切れかけたように小さく…
言葉もたどたどしく話しだす。
「ワタシガ…嫌イ…?」
───ドクン…
瀾の声に答えるように、乙の胸は重く掴むように鳴いた。
「捨テナイ…デ…」
「……ッ」
「行カ…ナイデ…」
瀾の声は、金縛りの呪文のように乙の胸を突き、その鼓動を刻ませてゆく。
ドクン…ドクン…ドクン…
ドクン…ドクン…ドクン…
「…助ケテ……キ…ノ…ト…サ…」
──ドクンッ!!!!
重く空間が揺らぐような大きな衝撃が主を貫いた。
瀾の言葉に乙は一瞬、ハッと目を大きく見開くと、瀾を強く抱き締めた。
「ッ…野中…!!」
苦しい…。
呼吸さえ出来なくなってしまう程の胸の圧迫感。
目を伏せ、その苦しみに乙の顔が歪んだ。
そして、その胸の苦しみの分だけ瀾を強く抱き締めた。
乙の腕の中で、その人形は小さく鳴いた。
「ココ…スキ…私、ココ好キ…」
「野中ッ…」
「…ナマエ…私ノ、ナマエ…」
「…瀾ッ…」
しばらく瀾を抱き締めていた乙だったが、その腕の中で静かになると瀾をベッドへ運び、寝かせる。
静かに目を閉じている瀾の髪を掬うと、そっとその髪にキスをした。
瀾の寝顔は出会った時と変わらない、あどけなく幼さの残る少女の顔をしている。
フッと目を閉じると乙はベッドルームを後にし、メインルームの窓に寄りかかり、静かな水面の空を見つめていた。
この日、乙が再び眠りに就くことはなかった。
《「ワタシガ…嫌イ…?」
「捨テナイ…デ……行カ…ナイデ…」》
「……ッ」
思い出される先ほどの瀾の言葉と、過去の瀾の表情…。
そして、瀾の寝顔。
胸の痛みと共に良い知れぬ感覚が、乙を支配し始めた。
トクン…トクン…トクン…。
瀾の事を考えるだけで、胸の秒針は主の記憶の時を刻み、次第に思考さえも支配されそうになる。
トクン…トクン…トクン…。
思い出すのは笑顔で上目遣いに見上げる瀾の幻影…。
『何で…瀾の事が頭から離れないんだ…
こうしている今も…
その寝顔だけでも見たいと思ってしまうなんて…
罪悪感…?いや…違う…
この感覚…まさか…』
乙は、自分の手の平を見つめポツリと呟いた。
「…俺は…瀾の事が好き…なのか…?」
プレイボーイとしてその名が通り、二つ名まで付いていた。
今まで自分が動かなくとも女は、向うから寄ってきた。
そんな乙にとって、瀾に抱く感情は初めてで違和感を覚え、困惑を誘った。
「…まさか、な…。
久方ぶりに会った感覚と、罪悪感が離れないだけだ…
…そうに決まっている…」
乙は少し辛そうにその瞳を伏せた。
乙は意外にも、寝起きが素早く鮮明な方ではない。
まだ脳が微睡む中、頬に触れる細い指先…。
それは優しく触れているというよりは、何処かよそよそしく這うような印象を受けた。
視界に入ってきたのは、長い髪のシルエット…。
自分を上から見下ろしている。
そして、微かに聞える妖艶な声。
「クスクス…見つ…ケた…」
「…ぇ…」
乙は、そこで初めて誰かが自分の上に跨っている事に気が付いた。
ジワジワと近付いてくるソレに少し体を起こすと、そのスペース分を警戒と冷や汗混じりに後退り、口を開いた。
「な…何してるんだ?野中…」
そう。
そこにいたのは瀾だったのだ…!!
「クスクス…見ツケ…タ…」
少しずつ後退る乙の股に瀾は、無表情のままトスンと浮かせていた臀部を下ろす。
「つッ!!」
若干の痛みと圧迫が股にかかると乙は小さな声を上げて、そのソファーからの束縛を余儀なくされた。
瀾の両手が乙の頬に触れる。
「見つけ…タ…」
瀾の瞳にいつもの光はなかった。
あの時と同じ…あの寮の廊下で出会った時と。
下手な行動を起こせば、またいつ錯乱するか解らない。
そんな中、乙は警戒を解く事なく辛そうに目を細め、瀾の所行を見つめるしか出来なかった。
瀾の腕は頬から首、そして肩からその背中に這いずるように回され、顔を背けている乙の首を舌でなぞった。
「ッ!!…野・・中!!や、やめ…」
乙が瀾の肩を掴み自分から切り離すと、瀾は虚ろな瞳のまま呟くように口をついた。
「…また…拒絶…スルの…」
「!!!」
その時、乙の脳裏にあの記憶が通り抜けた。
壊れた瀾が別宅で縋った時、乙はその人形を突き放し、ベッドに捨ててしまった事を…。
腕の一直線上の人形は、乙の肩に両腕をうなだらせ、ゼンマイが切れかけたように小さく…
言葉もたどたどしく話しだす。
「ワタシガ…嫌イ…?」
───ドクン…
瀾の声に答えるように、乙の胸は重く掴むように鳴いた。
「捨テナイ…デ…」
「……ッ」
「行カ…ナイデ…」
瀾の声は、金縛りの呪文のように乙の胸を突き、その鼓動を刻ませてゆく。
ドクン…ドクン…ドクン…
ドクン…ドクン…ドクン…
「…助ケテ……キ…ノ…ト…サ…」
──ドクンッ!!!!
重く空間が揺らぐような大きな衝撃が主を貫いた。
瀾の言葉に乙は一瞬、ハッと目を大きく見開くと、瀾を強く抱き締めた。
「ッ…野中…!!」
苦しい…。
呼吸さえ出来なくなってしまう程の胸の圧迫感。
目を伏せ、その苦しみに乙の顔が歪んだ。
そして、その胸の苦しみの分だけ瀾を強く抱き締めた。
乙の腕の中で、その人形は小さく鳴いた。
「ココ…スキ…私、ココ好キ…」
「野中ッ…」
「…ナマエ…私ノ、ナマエ…」
「…瀾ッ…」
しばらく瀾を抱き締めていた乙だったが、その腕の中で静かになると瀾をベッドへ運び、寝かせる。
静かに目を閉じている瀾の髪を掬うと、そっとその髪にキスをした。
瀾の寝顔は出会った時と変わらない、あどけなく幼さの残る少女の顔をしている。
フッと目を閉じると乙はベッドルームを後にし、メインルームの窓に寄りかかり、静かな水面の空を見つめていた。
この日、乙が再び眠りに就くことはなかった。
《「ワタシガ…嫌イ…?」
「捨テナイ…デ……行カ…ナイデ…」》
「……ッ」
思い出される先ほどの瀾の言葉と、過去の瀾の表情…。
そして、瀾の寝顔。
胸の痛みと共に良い知れぬ感覚が、乙を支配し始めた。
トクン…トクン…トクン…。
瀾の事を考えるだけで、胸の秒針は主の記憶の時を刻み、次第に思考さえも支配されそうになる。
トクン…トクン…トクン…。
思い出すのは笑顔で上目遣いに見上げる瀾の幻影…。
『何で…瀾の事が頭から離れないんだ…
こうしている今も…
その寝顔だけでも見たいと思ってしまうなんて…
罪悪感…?いや…違う…
この感覚…まさか…』
乙は、自分の手の平を見つめポツリと呟いた。
「…俺は…瀾の事が好き…なのか…?」
プレイボーイとしてその名が通り、二つ名まで付いていた。
今まで自分が動かなくとも女は、向うから寄ってきた。
そんな乙にとって、瀾に抱く感情は初めてで違和感を覚え、困惑を誘った。
「…まさか、な…。
久方ぶりに会った感覚と、罪悪感が離れないだけだ…
…そうに決まっている…」
乙は少し辛そうにその瞳を伏せた。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる