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乙が困惑と違和感に支配されながらも、瀾との日々を振り返っているうちに、現実の時は朝日が顔を覗かせ、その力強い光は部屋を照らしていった。
やがて暫くすると乙は、バスルームにある脱衣室の洗面台で顔を洗い、その排水を見つめていた。
『ずっと、抜けないこの感覚…
一体、何なんだ…』
昨夜、その感覚の可能性を見いだしたのかもしれない乙は、罪悪感からなのか、高いプライドのせいなのか、無意識に自分の中で否定し拒み続けていた。
そんな時、背後から小さな声が聞こえた。
「あの…」
その声に何気なく振り向いた時、背後には瀾がいた。
──ドキンッ!!!!
困惑の答えは、決定的に乙へ叩きつけられたのだ。
一瞬、心臓が破裂してしまうのではないかと言うほどの衝撃。
少し恥ずかしそうにはにかむ瀾は、また小さく口を開いた。
「おはようございます」
「あ、ああ。おはよう…」
何故だろうか。
今の乙には、そう返すのがやっとだった。
「…紅茶を入れておくから、顔を洗ったらリビングに来るといい」
それだけ言うと乙は、そそくさとその場を後にする。
瀾がリビングに戻って来ると、乙は紅茶を目の前に置く。
しかし、言葉を交わす事はおろか、目すら合わせられない。
気まずい空気の中、やはり先に口を開いたのは瀾の方だった。
「あの…眠れましたか?」
「あ、ああ…野中は…」
「はい、お陰さまで・・・ありがとうございました」
「……」
重い沈黙…。
乙が小さく口を開く。
「野中…」
「はい?」
「…昨日の…」
「昨日がどうかしましたか?」
「いや…何でもない…」
昨晩の事を聞こうとしたが、瀾はやはり覚えては居ないようだ。
寮で会った翌日も瀾に変化があるようには見えなかった。
そして、今回も…。
重い沈黙の中、瀾が遠慮がちに口を開いた。
「あの…」
「…なんだ?」
「この船、以前は先輩の家の物だったとか…」
「ああ…、幼少の時、家族で旅行した事があった…。
母さんがまだ生きていた時の…」
フッと一瞬、乙の顔が辛そうに影を落とすと瀾は、聞いてはいけない事なのかもしれないと、思わず俯いてしまう。
そんな瀾を気遣い、乙は淋しそうながらも微かな笑顔を向けた。
「輝李から聞いたのか?」
「あ、はい。
色んな遊戯施設が完備されていて驚きました」
「…そうか」
会話がそこで終わりかけた時、乙は少し話しにくそうに口を開く。
「今度、時間がある時に…」
そこまで言葉をつくと、ドアをノックする音が聞こえる。
乙がドアに向かい、静かに自分の体ぶんを開けるとそこにいたのは他でもない輝李だった。
輝李をその眼にいれると、途端に乙の眉間に皺が寄り、その拳に力が入る。
だが、輝李は顔色を変える事なく、いたって冷静だった。
「おはよう、乙」
「…ッ…」
「迷子を迎えに来たんだけど」
「…迷子を迎えに来ただと?
自分で締め出したくせに、よくそんな事が言えるな!!
野中を追い出して、昨日お前は何をしていたんだ!!」
乙の荒げる声に瀾はドア側へ歩むと、その光景に息を呑む。
乙が輝李に掴み掛かっていたからだった。
「…ぁ…!!」
瀾の小さな小さな声に、乙は意識を瀾に向けると、次に瀾には聞えないような静かな声で、挑発を投げる。
「…《アイツに近づくな》と言うわりには、随分サービス精神旺盛なんだな」
「……」
しかし、その言葉に対して輝李は静かに鼻で笑う。
「言いたい事はそれだけ?」
「ッ!!何!!」
厳しい表情で睨み合う姉妹の2人。
瞳の大きさは違えど、その同じ顔は、やはり双子なのだという事がまざまざと解る。
「…ぁの…」
ピリピリと肌にさえ感じる緊迫した空気に、瀾が小さな言葉と微かに一歩歩むと、乙の手が無言のまま少し上がり、その少女を遮った。
「野中の勉強は俺が見る!!」
「…ふぅん、そう…
この僕に宣戦布告ってわけ?面白い…」
輝李は不適にほくそ笑むと、退室時にチラリと瀾を視界に入れ、クールな表情を浮かべたまま意味有りげに一言だけ投げる。
「選ぶのは僕じゃない。
誰の所に行こうが関係ない。
好きにすればいいよ、ただ…
〔…浮気は絶対に許さない〕」
輝李が出ていくと気まずい沈黙の中、乙は目の端でチラリと瀾を見た。
「野中…」
「…わ、私…私…!!」
困惑と混乱の中、瀾は乙の視線を振り切るように輝李の後を追い、部屋を駈けて出て行ってしまった。
ズキン…
乙の胸には、辛く重い痛みが突き刺さる。
やがて暫くすると乙は、バスルームにある脱衣室の洗面台で顔を洗い、その排水を見つめていた。
『ずっと、抜けないこの感覚…
一体、何なんだ…』
昨夜、その感覚の可能性を見いだしたのかもしれない乙は、罪悪感からなのか、高いプライドのせいなのか、無意識に自分の中で否定し拒み続けていた。
そんな時、背後から小さな声が聞こえた。
「あの…」
その声に何気なく振り向いた時、背後には瀾がいた。
──ドキンッ!!!!
困惑の答えは、決定的に乙へ叩きつけられたのだ。
一瞬、心臓が破裂してしまうのではないかと言うほどの衝撃。
少し恥ずかしそうにはにかむ瀾は、また小さく口を開いた。
「おはようございます」
「あ、ああ。おはよう…」
何故だろうか。
今の乙には、そう返すのがやっとだった。
「…紅茶を入れておくから、顔を洗ったらリビングに来るといい」
それだけ言うと乙は、そそくさとその場を後にする。
瀾がリビングに戻って来ると、乙は紅茶を目の前に置く。
しかし、言葉を交わす事はおろか、目すら合わせられない。
気まずい空気の中、やはり先に口を開いたのは瀾の方だった。
「あの…眠れましたか?」
「あ、ああ…野中は…」
「はい、お陰さまで・・・ありがとうございました」
「……」
重い沈黙…。
乙が小さく口を開く。
「野中…」
「はい?」
「…昨日の…」
「昨日がどうかしましたか?」
「いや…何でもない…」
昨晩の事を聞こうとしたが、瀾はやはり覚えては居ないようだ。
寮で会った翌日も瀾に変化があるようには見えなかった。
そして、今回も…。
重い沈黙の中、瀾が遠慮がちに口を開いた。
「あの…」
「…なんだ?」
「この船、以前は先輩の家の物だったとか…」
「ああ…、幼少の時、家族で旅行した事があった…。
母さんがまだ生きていた時の…」
フッと一瞬、乙の顔が辛そうに影を落とすと瀾は、聞いてはいけない事なのかもしれないと、思わず俯いてしまう。
そんな瀾を気遣い、乙は淋しそうながらも微かな笑顔を向けた。
「輝李から聞いたのか?」
「あ、はい。
色んな遊戯施設が完備されていて驚きました」
「…そうか」
会話がそこで終わりかけた時、乙は少し話しにくそうに口を開く。
「今度、時間がある時に…」
そこまで言葉をつくと、ドアをノックする音が聞こえる。
乙がドアに向かい、静かに自分の体ぶんを開けるとそこにいたのは他でもない輝李だった。
輝李をその眼にいれると、途端に乙の眉間に皺が寄り、その拳に力が入る。
だが、輝李は顔色を変える事なく、いたって冷静だった。
「おはよう、乙」
「…ッ…」
「迷子を迎えに来たんだけど」
「…迷子を迎えに来ただと?
自分で締め出したくせに、よくそんな事が言えるな!!
野中を追い出して、昨日お前は何をしていたんだ!!」
乙の荒げる声に瀾はドア側へ歩むと、その光景に息を呑む。
乙が輝李に掴み掛かっていたからだった。
「…ぁ…!!」
瀾の小さな小さな声に、乙は意識を瀾に向けると、次に瀾には聞えないような静かな声で、挑発を投げる。
「…《アイツに近づくな》と言うわりには、随分サービス精神旺盛なんだな」
「……」
しかし、その言葉に対して輝李は静かに鼻で笑う。
「言いたい事はそれだけ?」
「ッ!!何!!」
厳しい表情で睨み合う姉妹の2人。
瞳の大きさは違えど、その同じ顔は、やはり双子なのだという事がまざまざと解る。
「…ぁの…」
ピリピリと肌にさえ感じる緊迫した空気に、瀾が小さな言葉と微かに一歩歩むと、乙の手が無言のまま少し上がり、その少女を遮った。
「野中の勉強は俺が見る!!」
「…ふぅん、そう…
この僕に宣戦布告ってわけ?面白い…」
輝李は不適にほくそ笑むと、退室時にチラリと瀾を視界に入れ、クールな表情を浮かべたまま意味有りげに一言だけ投げる。
「選ぶのは僕じゃない。
誰の所に行こうが関係ない。
好きにすればいいよ、ただ…
〔…浮気は絶対に許さない〕」
輝李が出ていくと気まずい沈黙の中、乙は目の端でチラリと瀾を見た。
「野中…」
「…わ、私…私…!!」
困惑と混乱の中、瀾は乙の視線を振り切るように輝李の後を追い、部屋を駈けて出て行ってしまった。
ズキン…
乙の胸には、辛く重い痛みが突き刺さる。
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