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噂5

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もう…元には戻れないかもしれない。
】その言葉を口にした瞬間から、この後悔は戻れない所にまで来ているのかもしれない。
なみは、ベッドに突っ伏するように膝を抱え、泣いていることしかで出来なかった。

「…風邪をひくぞ」

不意にきのとの声と共に、頭に手の平が乗った。
ビクンと一瞬震えたが、来るはずのないと思っていた乙の温もりに恐る恐る顔を上げた。
勿論、ここは乙の部屋なのだから、いつかは戻ってきていたかもしれない。
しかし、なみが居るうちに戻ってくるとは思いもよらなかった。
不意に体を引き寄せられ抱き締められる。

「体が冷えきっている…」
「…ヒック…ヒッ…」

力強いきのとの腕に身を委ねている自分が信じられないとさえ想ってしまう。
乙が、静かに小さく口を開いた。

「今は…まだ言えないんだ」
「ヒック…?…ヒック…ック」

ヒクリという自分の声になみには、きのとが何を言ったかは耳には届かなかった。
その後、なみの肩がこれ以上、冷えないようブランケットを肩に掛けた。
不意にきのとの手が瀾の手をすくい、ポケットから瀾の手の上にそっと置かれた。

瀾の手の平に置かれたもの。
それは携帯電話だった。

「…ック…これ…は?ヒック」
「…それがあれば電話くらいは出来るだろ…」

どこか寂しそうな位、静かな声で淡々と応えるきのと

「…どうして…ですか…?」
「…べつに…」
「……」

一途な想いと過去の幻影。
なみきのとの距離は手を伸ばして、届く位置にはいなかった。
重い空気を破ったのは乙だった。

「瀾、何か食べたほうが良い」
「はい…」

一旦流れた重い空気は、そう簡単には晴れることはない。
きのとなみの髪を撫でると、じっと見つめた。
スルリと乙の指を通る瀾の髪。
完全に瀾の髪が滑り落ちると、瀾は乙の手に触れた。

愛しむように瀾の指が動く。
細く滑らかな乙の指…
瀾は小さく口を開いた。

「遊びでもいい…
今だけ…ほんの少しの間…
夢を見ても…良いですか…?
乙様のお側に…」
「…瀾…」

きのとの首に手を伸ばし、寂しげに見つめた。
2人の唇が触れ合うと、なみの瞳からは一筋の涙が零れた。

それは…嬉しさと虚しさと胸の痛みが交ざったものだったのかもしれない。
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